看護管理者教育の在り方(井部俊子)
連載
2019.12.16
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部 俊子 長野保健医療大学教授 聖路加国際大学名誉教授 |
(前回よりつづく)
日本看護協会は優れた看護管理者を認定するために,「認定看護管理者制度」を設けている。看護師の免許取得後,実務経験が通算5年以上あると,この認定システムにエントリーすることができる。
「看護系大学院において看護管理を専攻し修士号を取得している者で,修士課程修了後の実務経験が3年以上ある者」など4つの要件を示し,いずれかの要件を満たした者が認定審査(書類審査および筆記試験)を受け,合格者には認定証が交付され,日本看護協会に登録される。看護管理の実績と自己研鑽の実践等を提出して5年ごとに更新しなければならない。
認定看護管理者カリキュラム基準
認定審査を受ける要件の1つに「認定看護管理者教育課程サードレベルを修了している者」がある(この要件で認定審査を受ける者の割合が最も多い)。サードレベル(180時間)を修了するにはファーストレベル(105時間),セカンドレベル(180時間)の教育課程を経なければならない。こうした教育課程を開講している教育機関は,ファーストレベルが69機関,セカンドレベルが62機関,サードレベルが32機関である(2019年10月現在)。教育機関には都道府県看護協会が多いが,看護系大学の生涯教育センターなどが開講しているケースも増加している。
教育機関となるには日本看護協会の認定を受ける必要があり,認定条件のなかでも中核となるのが「カリキュラム基準を満たした教育プログラムを編成しているかどうか」である。カリキュラム基準は改定され,2019年4月から新基準遵守となった。
認定看護管理者カリキュラム基準が示す教科目は,「ヘルスケアシステム論」「組織管理論」「人材管理」「資源管理」「質管理」「統合演習」の6本柱である。なぜか最初の2科目は「論」が付いているがその他は「論」がない。この科目名のあとにファーストレベルでは「I」,セカンドレベルでは「II」,サードレベルでは「III」が付く。さらに教科目ごとに「単元」があり,「教育内容」が箇条書きされる。レベルごとに授業時間数が決められており,「演習形態で行う授業時間数は総時間の3分の1が上限である」などカリキュラム編成にはシバリがある。各教育機関はこうした“厳しく画一的な”前提条件のもとに独自の教育プログラム編成を行うという難題に挑戦することになる。もっとも各教育機関のカリキュラムの独自性はあまり求められていないのかもしれない。
授業計画を考える講師の困惑
私は今年(2019年),聖路加国際大学のファーストレベル以外に,6つの認定看護管理者教育課程の講師依頼を受けた。公文書に記された依頼内容(つまり私が担当する講義内容)は以下であった。
【教育機関A】教科目:人材管理II,単元1:人材を育てる看護マネジメント,内容:キャリア開発支援
【教育機関B】教科目:組織管理論III,単元:組織デザインと組織運営,内容:経営者に求められる役割と必要な能力,経営者としての成長と熟練
【教育機関C】教科目:質管理III,内容:経営と質管理(ガバナンスとアカウンタビリティ)
【教育機関D】教科目:人材管理III(看護管理者の育成)
【教育機関E】教科目:人材管理II,内容:看護チームのマネジメント
【教育機関F】講義内容:看護制度・政策の動向(公文書の冒頭に「認定看護管理者教育課程サードレベル講義について」と記載があるので,この依頼内容は教科目「ヘルスケアシステム論III」であることがわかる)。
各教育機関からは講師依頼文書とともに教育課程全体を示す資料が同封されて届く。例えば,教育機関Aの「人材管理II」は,「人事・労務管理」「多職種チームのマネジメント」「人材を育てる看護マネジメント」という3つの単元から構成される。さらに「人材を育てる看護マネジメント」は,キャリア開発支援,人材育成計画(病院組織と人材資源計画の考え方),人材育成計画の実際という教育内容で構成されており,それぞれに担当講師がいて6時間ずつ講義をすることになっている。つまり,私が担当する「キャリア開発支援」は,人材育成計画の考え方や実際という内容とできるだけ重複せずにキャリア開発について講義しなければならないと考えるわけである。
しかもこの「人材管理II」の構成や内容は,日本看護協会が示している認定看護管理者カリキュラム基準の単元,教育内容とうりふたつである。箇条書きになっている教育内容の項目を切り取って講師に割り当てている(ようにみえる)。カリキュラム基準ではレベルごとの教育目的,到達目標が示されているが(かなり包括的かつ一般的な内容である),各単元のねらいがなく,箇条書きになっている教育内容がそのまま講師依頼に“分割”されてくるため,授業計画を考える立場としては「はなはだやりにくい」というのが率直な感想である。
とりわけ,教育機関Cから依頼された「ガバナンスとアカウンタビリティ」の授業計画の作成は難渋した。「ねらい」は,「ガバナンスとアカウンタビリティについて学び,自施設の現状を踏まえた課題を抽出できる」以上の言及はない。カリキュラム担当者に問い合わせをしても明確な回答はなく,先方も私の問い合わせに当惑しているのが伝わってきた。
各教育機関のカリキュラム担当者は,日本看護協会が示すカリキュラム基準を踏襲するだけでなく,受講生のニーズを反映させたオリジナリティの高い教育プログラムを構築するとよいと思う。それには,各講師の講義内容を聴き,評価し,次回のプログラム作成につなげる必要があろう。
認定看護管理者制度の再構築に向けて
1993年に認定看護管理者制度が開始されて今年で26年となり,四半世紀が経過したことになる。昨今では名刺に「認定看護管理者」の肩書きを見掛ける機会が増えた。しかし,“制度疲労”もあり,そろそろ転換期がきているように思う。
認定看護管理者制度がどのくらい現場の看護サービスの質向上に貢献しているかを真摯に問わなければなるまい。ファーストレベル受講生の平均年齢は30歳代,セカンドレベルでは40歳代,サードレベルでは50歳代であり,認定看護管理者という資格を取ったころには定年を迎える。こうなると,資格を取ることが目的化している。そうならないためには,専門的な看護管理の学習はもっと早期に行う必要がある。
看護系大学が増え,それに伴って大学院も増加しているなかで,認定看護管理者教育は早晩,大学院レベルに移行し,学位が取れるようにすべきであると私は考える。管理の基礎は学士課程で学び,上級実践は大学院で学習する。他方,現任教育ではその時代に必要な重要な施策や社会情勢に関することなどを自由に選んで学習することができるような環境を整えたいものである。日本看護管理学会もその一翼を担えるであろう。
(つづく)
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