医学界新聞

2019.12.09



Medical Library 書評・新刊案内


《ジェネラリストBOOKS》
整形画像読影道場

仲田 和正 著

《評者》北 和也(やわらぎクリニック院長)

みんなで読めるようにならナイカイ?

 今から12年前,卒後2年目のレジデントだった僕は,救急外来で遭遇する外傷について勉強したいと思い,研修医室の本棚を物色していた。そこで見つけた色鮮やかなオレンジ色の本が仲田和正先生の『手・足・腰診療スキルアップ』(株式会社シービーアール)の初版であった。おもむろに手に取りページを開いてみると,まずその構成に驚きをおぼえた。「手・足・腰診療」と銘打ちながら,序盤には救命に必須のスキルであるBLS,ACLS,JATEC,輸液などに多くのページが割かれていた。しかしその意図を理解するのに時間はかからなかった。熱量に溢れ返った,共感の思いでどんどん読み進めた。気付けば西伊豆に行って仲田先生に習いたいと思うようになり,念願かなったのがその5年後の夏であった。思い切って単身赴任して,3か月間弟子入りすることに決めた。

 仲田先生の後ろにべったり付いて,診療スキルを生で伝授していただけるという,まさに夢のような日々であった。とにかく勉強会やカンファランス(西伊豆ではカンファンスではなく,圧倒的にカンファンスなのである)が多く,学びたいだけ学べる環境であった。画像読影の勉強会もあった。シャーカステンに挿した秘蔵のⅩ線画像を前に,仲田先生からレジデントへクイズ形式でレクチャーしていただけるという贅沢なものだ。本書『《ジェネラリストBOOKS》整形画像読影道場』には,その際に習った多くのⅩ線読影法が紹介されている。これほど贅沢なことはない。

 そして,何といっても「体で覚える頸椎の神経支配」だ。これは本当に記憶しやすく,診察中とても役に立つ。そして,一度覚えたら何年たっても覚えていられる。仲田先生に教えていただいたあの日のことを思い出しつつ読み進めていたら,C7の「にゃにゃ」をしている坂本壮先生を見つけた。「にゃにゃ」に思い入れがある一人として,表現し難いジェラシーを感じている自分にふと気付いた。坂本先生に憧れたときは「SSN!(Sakamoto Souni Naritai)」と叫ぶルールが救急・総合診療界隈にはあるようだが,この時ほど「SSN!」な思いを経験したことはなかった。

 そしてもう一つ,C7に関するエピソードを思い出した。以前,仲田先生に「肘をシチッ!(7)と伸ばした時に,体がちょうど7の形をするという覚え方なんてどうですか?」とお伝えした時に「なるほど,それいいですね~!」と微笑んでおられたので「よっしゃ!」と思ったのだが,本書をみると全く採用されていなかった。今度お会いした際,第2版にはぜひとも採用していただけないか,お願いしてみたいと強く思った2019年の夏の日であった。

 超高齢社会では診療科を問わず外傷診療を行うケースが増えることだろう。当直中に病棟で転倒が発生し,股関節のⅩ線を撮るものの整形外科医がいない,なんて経験は皆さんにはないかい? というわけで,内科医の皆さんもぜひ一冊買っといたほうが良いんでナイカイ?

A5・頁164 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03833-1


新訂 うまい英語で医学論文を書くコツ
世界の一流誌に採択されるノウハウ

植村 研一 著

《評者》鈴木 康之(岐阜大教授・医学教育開発研究センター)

研究者の英語論文執筆力を高める格好のテキスト

 私が初めて本格的な英語論文を書いたのは1986年でした。当時,論文執筆に関するテキストはほとんど無く,他の論文の表現や構成を参考にしながら,四苦八苦して継ぎはぎの英作文をしていた記憶しかありません。本書で植村研一先生が強調しておられる“comfortable English”にはほど遠いものでした。当時,本書があったら私の苦労の何割かは軽減し,ワンランク上の雑誌に掲載できていたことでしょう。近年,論文執筆に関するテキストは随分多くなりましたが,本書は次の3点でとても魅力的です。

 ①医学研究者・医学英語教育者・雑誌編集者・同時通訳者としての長年の経験に基づいて,「どのような論文が一流誌に採択されるか?」を熟知した植村先生が,まるで直接語り掛けてくださるように,歯切れ良くポイントを示しています。植村先生のお話を一度でも聞いたことのある方は,特に実感されるでしょう。植村先生の頭に蓄積されてきた智慧とノウハウを学び取ってほしいと思います。

 ②全編を通じて「comfortable English」と「短縮率」がキーワードとなっています。日本人特有の婉曲・冗長な表現を戒め,言葉をいかにそぎ落とすかを多くの実例で示し,演習によって実践力が高まる工夫がされています。英語論文の読者・査読者の多くはnative speakerであり,comfortableな英語を心掛けることが重要です。“うまい英語”とは決して美文ではなく,読者の頭に素直に入っていく“simple and clear statement”なのだと理解しました。“うまい英語”のコツがわずか50ページの中に凝縮されているとは驚きです。

 ③コンパクトな構成で,忙しい医師・研究者でも手軽に読むことができます。読みやすく(comfortable Japanese !),明快(simple and clear !)に書かれていますので,一度全編を通読することがお薦めです。これから英語論文にチャレンジしようとしている若手はもちろんのこと,論文の質をワンランク高めたい中堅,論文執筆を指導する立場のベテランにとっても格好の参考書です。一度でも英語論文を書いた方なら,読んでいてうなずかされることばかりです。査読者の視点を知ることで,どんな論文を書けば良いかを知ることができます。

 近年,わが国からの医学英語論文数は頭打ち,分野によっては減少し,世界第2位の座から第6位へ転落しています。研究力自体の強化はもちろん最重要ですが,せっかくの研究成果を効果的・効率的に発信するためには,研究者の英語論文執筆力を高めることが重要です。そのために本書は格好のテキストと言えるでしょう。

A5・頁224 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03936-9


アレルギー性気管支肺真菌症の診療の手引き

日本アレルギー学会,日本呼吸器学会 監修
「アレルギー性気管支肺真菌症」研究班 編

《評者》西村 善博(神戸大病院教授・呼吸器内科学)

切望していたABPMの新たな診断基準がここに

 アレルギー性気管支肺真菌症(allergic bronchopulmonary mycosis;ABPM)の診断には1977年にRosenberg,Pattersonらが提唱したABPAの診断基準が用いられてきた。40年以上前に提唱されたものである。近年の医療とのギャップを感じることもあったのだが,本書では日本人におけるABPMの病態を明らかにし,新たな診断基準が示された。

 本書発刊に至るまでには,東海大呼吸器内科学教授の浅野浩一郎先生を研究代表者とする「アレルギー性気管支肺真菌症」研究班の多大なる努力があったものと思われる。この研究班の前身は,2013年に厚労科研の難治性疾患等克服研究事業の下に設置されたものであり,本書は長年にわたる調査・研究の集大成といえる。研究代表者の浅野先生はこの分野の第一人者であり,浅野先生を中心にアレルギー学・呼吸器内科学研究者の精鋭たちが結集し,ABPMに関する最新の知見がまとめられた。

 ABPMはAspergillus fumigatusを主とする真菌類が関与したアレルギー性疾患で,末梢血好酸球数の増加,高IgE血症などの血液検査異常,気道内真菌の検出や真菌への抗体,特異的な画像異常が認められる。近年,検査技術,特に画像診断技術が進歩し,日常臨床でも汎用されている。今回の新診断基準では,胸部CT画像所見が10項目中3項目に適用され,この点が従来の診断基準と大きく異なる。新診断基準の検証も行われ,感度95%,特異度97%とRosenbergらの診断基準のそれぞれ25%,98%と比較し,その有用性が実証された。また,本書の各項目には「ポイント」として,数個のまとめの記載があり,初学者にも読みやすく理解しやすい構成になっている。

 本書は,内科,呼吸器内科,アレルギー科の専門医をめざす若手医師のみならず,呼吸器,アレルギーの専門医にとっても有益な良書であり,本書を参考に的確な診断を行い,一人でも多くの苦しんでいる患者さんを救うことにつながれば幸いである。

B5・頁114 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03921-5


サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 第2版

Jane M. Orient 原著
須藤 博,藤田 芳郎,徳田 安春,岩田 健太郎 監訳

《評者》倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター呼吸器内科)

デジタル時代の今だからこそ身体診察

 名著『サパイラ』の原書第5版・翻訳第2版である。身体診察について1000ページも書かれた本など,寡聞にして知らない。

 私は身体診察の教育に力を入れた病院で研修を受けたため,どちらかといえば“アナログ”な医師である。6年前の前版で初めて『サパイラ』に触れたが,この本はこれまで学んだ身体診察技法を昇華させてくれる師となった。今でもときどき読み返すくらいである。

 私はもともとピアノ弾きなので,この本では胸部打診の項目が一番好きだ(pp.435-446)。「最初は強く(ストローク4インチ),2番目はより弱く(ストローク2インチ)」という細かい技法にも感嘆するが,その後が大事である。「爪の長い医学生には,短く切るようにアドバイスしたい」。私が好きなのは,こういうところである。打診を考案したのはアウエンブルッガーというオーストリアの医師であるが,彼がサリエリという宮廷音楽家とオペラを書いていたという本書の余談はとても面白い。ちなみに,アウエンブルッガーの2人娘は,その後サリエリにピアノを学び,優れたピアニストとして活躍したらしい。

 打診は打診音を美しく出さなければいけない。そのためには,利き手の指のストロークと初速が大事なのだが,その練習法を複数挙げて書かれてある本書は驚異的である。医学生時代,私は臨床実習前に,飲水前後の自分の腹部を打診して練習したものだが,『サパイラ』には「炭酸飲料」と書かれてある。水じゃなくてコーラにすればよかったのかもしれないと思った。

 この本の特長は,向こうから語り掛けてくる書き方にある。身体診察に重きを置くと,どこかで目にした無難な記述になってしまいそうなものだが,この本はまるでどこかの病院のカンファレンス室のホワイトボード前で,また実際の患者のベッドサイドで,レクチャーを受けているような錯覚さえ覚える。「アドバイス」「指導医へ」「自己学習」などのサブ項目の完成度は高く,研修医のレクチャーを一緒に聞いていた指導医が,「君たち中堅医師もこれに注意したまえ」と襟を正されるような記述が随所に登場する。

 4つの代表的診察技法(視診・聴診・打診・触診)の5つ目にポータブル超音波はどうですか1),と言われるほど“デジタル”な時代になってしまった。医師経験が長い人ほどデジタルに足元をすくわれそうになった経験が思い出に苦みを残している。実はそんなとき,身体診察に助けられる場面は多いのだ。だからこそ,『サパイラ』である。

参考文献
1)Narula J, et al. JAMA Cardiol. 2018 ;3(4):346-50.

B5・頁998 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03934-5

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