医学界新聞

2019.11.04



Medical Library 書評・新刊案内


泌尿器科レジデントマニュアル
第2版

郡 健二郎 監修
安井 孝周,林 祐太郎,戸澤 啓一,窪田 泰江 編

《評者》市川 智彦(千葉大大学院教授・泌尿器科学)

臨床現場の泌尿器科医が絶えず携行すべき全面改訂版

 本書は医学書院から2011年に出版された『泌尿器科レジデントマニュアル』の全面改訂となる第2版です。初版に引き続き郡健二郎先生(名市大理事長・学長)の監修となっています。編集は郡先生を引き継いで名市大腎・泌尿器科学分野教授に就任された安井孝周先生ならびに3人の教授の先生方が携わっています。執筆は全て名市大の関係の先生方であり,郡先生を中心とする本書に対する思いが伝わってきます。

 初版が出版された2011年は,郡先生が名市大腎・泌尿器科学分野教授として第99回日本泌尿器科学会総会の会長を務められた年でした。開催の1か月前に発生した東日本大震災により,日本中が厳しい環境に置かれました。しかし,だからこそ泌尿器科医にとって役立つことを達成したいとの思いが初版に結実したとの記載が第2版の序文にありました。第2版が出版された2019年は,私が会長として第107回日本泌尿器科学会総会を名古屋で開催させていただいた年でもあります。郡先生を始め名市大の先生方には一方ならぬご支援を頂戴しました。8年間の歳月に思いをはせるとともに,ご縁を感じている次第です。

 さて,第2版では,初版の内容がさらに進化し,若手医師のみならず臨床現場で診療に当たる泌尿器科医師が絶えず携行すべき内容になっていると思います。これは監修された郡健二郎先生ならびに編集された安井孝周先生,林祐太郎先生,戸澤啓一先生,窪田泰江先生の妥協を許さない強い気持ちによってなされたものと拝察致します。本書の行間から先生方のお顔が垣間見えるようです。

 序文には第2版の特長が4つ示されています。①病棟や外来で,すぐ知りたい診療内容に力点をおいていること,②項目ごとに新たなページで始まっていること,③説明文を少なくし,初版に比べ大幅に図表を増やしたこと,④ページ数をおさえ,ハンディなポケットサイズにまとめていること,です。実際に手に取ってページをめくってみると,これらが反映されていることが一目でわかるような素晴らしい構成になっています。カラー写真も随所に盛り込まれており,文字数の節約だけでなく,直感的な理解の一助になっています。シミュレーターによる腹部の触診方法を示したカラー写真,採取した乳び尿のカラー写真,疼痛部位と鑑別すべき疾患を視覚的にとらえるイラスト,処置や手術のポイントを押さえたイラスト,診療アルゴリズムの掲載など,いずれもとてもわかりやすく,ちょうどよい大きさでページに収まっています。初版より88ページ少ない320ページですが,格段に充実した内容になっていると思います。

 また,初版,第2版ともに巻末に付録(「データファイル」)があります。初版では26項目ありましたが,第2版では19項目になっています。ただ単に項目を減らしたのではなく,初版の一部を踏襲しつつも第2版では12項目が新たに採用され,泌尿器科に関連した事項が大幅に取り入れられています。検査・処置・手術の保険点数,DPCの保険点数は第2版でも掲載されており,保険医療にも配慮してほしいという意図が聞こえてくるようです。ぜひ手に取って監修・編集の方向性を感じ取っていただきたいと思います。

 泌尿器科は外科領域の一部ではありますが,必要とする知識・手技は指導医であっても全て網羅することはとても難しいことです。専門性のより高い診療を行うためには,専門書や各種ガイドライン,英文原著を読み込む必要があります。しかし,記憶したはずの内容であっても必要時に瞬時に想起することは容易ではありません。基本的な事項が体系立てて頭の中に整理されている必要があります。本書は,その土台を築く上でも大いに役立つものと思います。

 今後,第3版,第4版が出版されていくことが本書の宿命になるように思います。標準治療に抵抗性となった転移性膀胱癌に対する免疫チェックポイント阻害薬についても「使用可能」とのコメントが入るなど,出版直前の情報がしっかりと盛り込まれています。新しい内容が記載されているという期待もさらに強くなっていくと思います。2019年6月からがん遺伝子パネル検査が適用条件付きながら保険適用となりました。希少疾患に対する遺伝カウンセリングや遺伝学的検査も自費診療ではありますが拡充されつつあります。これらとも絡みながら,新しい治療薬が次々と開発されています。レジデントに求められる知識もさらに増えていくと思います。そのようなニーズに応え進化し続ける本書の実力を,泌尿器科を専門にする医師のみでなく,全ての診療科の医師の手元に置いて,ぜひ実感していただきたいと思います。

B6変型・頁320 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03838-6


Evidence Basedで考える認知症リハビリテーション

田平 隆行,田中 寛之 編

《評者》濱口 豊太(埼玉県立大大学院教授・作業療法学)

認知症による生活障害支援のための評価・介入の指針書

 認知症は脳実質または機能の障害によって生活障害が生じる。認知症の中核・周辺症状は,介護者と患者本人との生活にしばしば混乱と不安をもたらす。家族の顔やお互いの大切な思い出までも損なって生活することのすさまじさについて,その家族体験を知る者としてはいくらかでも和らげたいと願う。本書は作業療法を学術背景とした田平隆行氏と田中寛之氏により,認知症に対する評価と非薬物療法としての介入について多数の研究知見を定礎として編さんされた,リハビリテーション(以下,リハ)の参考書である。

 編者らは,リハの対象を「生活障害」とし,適切な評価と介入のための最新の知見を渉猟し掲載している。認知症者の日常生活を評価する指標は,これまでLawtonやBristolのスケールなどがよく用いられてきた。それらの評価結果をもとに認知機能の障害特徴に合わせて介入するためには,生活動作を工程に区分けして,重症度にも合わせて方略を定める必要がある。そのようなリハのプログラムに結合するための評価として,近年開発された生活行為工程分析表(PADA-D)が紹介されている。PADA-Dは生活がある程度可能な軽症者に用いられる。重症者の評価としては,動作の工程ごとに介助量で表記できるRefined-ADL Assessment Scaleが紹介されている。重度認知症者の能力の日内変動や,対応する介護者によって発揮される能力が変化することも,評価の研究によって臨床家の経験が裏付けられていることがわかる。介入も同様に,介入研究の論文を詳細に引用しながら,作業療法,認知行動療法,運動療法などの効果と用法が解説されている。例示された図表がシンプルでわかりやすいので,おのずと介入プロトコルの要点は理解できるはずだ。

 リハ介入の手引き書として,一人ひとりの認知症者への実際のプログラムが妥当か,どのような根拠に基づいて評価を行い,介入が組み立てられているのかについてはさらなるアップデートを期待したい。例えば,chapter 4には,認知症初期集中支援チームの取り組みや,認知症専門外来で出会う認知症者への評価と介入の方法についての詳しい記述がある。それらの役割機能と患者の集団的特徴が本書のコンセプト通りにレビューされて,介入の目的や課題も整理されている。その上で患者の紹介がなされ,生活障害の評価と介入の要点が記述されている。この点は臨床実習や国家試験の参考書としても秀逸である。本書を臨床家が参考とするには,介入の根拠とされている認知症者の集団に効果があるという点だけでなく,その集団に効くとされた介入方法が個人に適用された場合の結果を追究したもう一つのアームが要る。

 編者らは,認知症による生活障害の疫学的観点と,個人固有の障害視点とを分けて理解し,その見識に立って研究知見を積み上げる必要性にすでに気付いている。本書が認知症リハに対する評価と介入の指針となって,認知症による生活障害を支援していくことを応援したい。

B5・頁312 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03923-9


SHDインターベンションコンプリートガイド

ストラクチャークラブ・ジャパン 監修
有田 武史,原 英彦,林田 健太郎,赤木 禎治,白井 伸一,細川 忍,森野 禎浩 編

《評者》中谷 敏(大阪大学大学院保健学専攻機能診断科学講座教授)

質の高いSHDインターベンション治療を志す医師に読んでほしい

 ストラクチャークラブ・ジャパン(以下,ストクラ)は構造的心疾患(structural heart disease;SHD)のインターベンション治療をもっと知りたい,究めたいという医師,有志が集まって自然発生的にできた研究会である。学会ではない。にもかかわらず総会,支部会,ライブデモと大変活発に活動しておられる。ここに,お仕着せでない,いわば草の根的活動の熱情を感じる。ストクラが日本のSHD診療レベルの向上に多大な寄与をしていることは間違いない。

 そんなストクラが教育活動の一環として『SHDインターベンションコンプリートガイド』を上梓された。これは6年前に出版され,評者も大いに勉強させていただいた『SHDインターベンションハンドブック』の後継書である。前著と比べてページ数は約2倍に,執筆者数は19人から42人に増加し,記載領域も弁膜症や先天性心疾患だけでなく人工弁周囲逆流や心不全加療のためのデバイスまでカバーされている。すなわち日本で現在,保険診療下で行われているものだけでなく,今後日本に入ってくるであろうと思われる治療法まで網羅されているのである。まさにコンプリートガイドの名にふさわしい。

 各論を見てみよう。各疾患ごとに「病態生理とマネジメント」,「外科治療」,「カテーテル治療」が記載されている。前著がカテーテル治療の記載に終始していたことから考えると,よりバランスの取れた治療戦略がイメージでき,実臨床に即した内容になっているといえよう。ガイドラインやエビデンスもしっかり書き込まれており勉強になる。テクニカルな面は大変詳細に記述されており,特にTAVIやMitraClip®,ASD閉鎖術など現在各施設で行われている治療については,微に入り細をうがった記載で,かつ執筆者自身が自ら学んでこられたtips and tricksを惜しげもなく披露していただいている。それに対して,Cardiobandや三尖弁閉鎖不全に対するカテーテル治療など,本邦に導入されていないデバイスの記載は見劣りするが,これは致し方ないことであろう。最終章は心不全であり,ここでは高い左房圧を右房に逃がす心房中隔ステント,収縮性を改善させることで注目されているCCM(cardiac contractility modulation),神経節刺激デバイスが取り上げられている。まだまだこれからの治療法と思われるが,こういうことにも踏み込んだ執筆者たちの攻めの姿勢を評価したい。

 近々のうちにWATCHMANTMが入ってくる。人工弁周囲逆流や三尖弁閉鎖不全に対するカテーテル治療の導入も目前である。今こそ,質の高いSHDインターベンション治療を志すカテーテルインターベンション医,心臓外科医,心エコー医にぜひ本書を読んでいただきたい。またハートチームのスタッフ間でも共有いただければ,診断と治療に対する理解が深まり,よりよい成績へとつながるであろう。

B5・頁456 定価:本体13,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03667-2

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