医学界新聞

2019.09.16



Medical Library 書評・新刊案内


医療者のための結核の知識 第5版

四元 秀毅 編
山岸 文雄,永井 英明,長谷川 直樹 執筆

《評者》門田 淳一(大分大教授・呼吸器・感染症内科学)

現在の結核診療を見通せるロングセラー

 『医療者のための結核の知識 第5版』を手に取って読んでみた。本書は初版が2001年に発刊されて以来,実践的でわかりやすい記述に定評があるロングセラー書籍である。数年ごとに改訂され今回で第5版となるが,改訂ごとに新しい知識が各章に盛り込まれており,今版も実践的でわかりやすく記述され読み応えのある内容となっている。

 結核の歴史・疫学から始まり,病態生理などの基礎知識,検査・画像・診断,治療,感染対策,発病予防,免疫不全と結核,および潜在性結核感染症など,医療従事者にとって必要な知識がコンパクトにまとめられている。特に各項目の冒頭にはポイントが記述され,加えて図表や画像,フローチャートが随所に配置されており,また抗結核薬の薬剤見本の記載もあり,視覚的に理解しやすい配慮がなされている。結核患者の入院から退院までのクリティカルパスも紹介されており医療従事者にとっては非常に有用である。さらに,コラムにも結核診療の問題点について興味深いエキスパートオピニオンが記載されている。一方,最近では非結核性抗酸菌症の罹患率が上昇し結核を凌駕するようになってきている背景があり,今回の改訂では非結核性抗酸菌症の章が充実している。最後にはさまざまな場面での結核あるいは非結核性抗酸菌症の症例を提示することで本書で学んだ知識を再確認できる構成となっている。付録には感染症法関連の届出書式の例が参考資料として示されており,結核診療にまつわる諸手続きに関しても見通せる内容である。

 わが国では結核罹患率の減少に伴って結核病床を持つ医療機関数が減少する一方で,身体合併症を有する高齢者,医療の進歩に伴う免疫不全患者やがん患者などにおける結核の発病リスクが高くなっているため,一般の医療施設や介護施設など,幅広い診療科・部門のスタッフが結核患者と遭遇する機会が増加している。このことから結核医療の専門施設・専門医だけでなく医療に携わるスタッフ全員が適切に結核対応ができるように知識を持つことが大切である。本書は,その意味において初学者から若手医師,感染症診療・管理全般に携わる医師,および看護師や保健師などを含め,結核感染・発病リスクの高い免疫不全患者,高齢者,がん患者等の医療,ケア,リハビリテーションにかかわる全ての職種に有用な書籍である。

 結核は空気感染で伝播する公衆衛生上極めて重要な疾患であるため,ぜひ本書を日常診療の必携書として活用していただきたい。

B5・頁226 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03825-6


細胞診を学ぶ人のために 第6版

坂本 穆彦 編

《評者》佐藤 之俊(北里大主任教授・呼吸器外科学)

説得力のあるスケッチで細胞所見の特徴を的確にとらえられる

 『細胞診を学ぶ人のために 第6版』が上梓された。1990年6月の初版第1刷から29年という年月が過ぎ,第5版の上梓からも8年たった。まず,細胞診従事者でこの本を知らない者はいないと言って過言ではないと思う。かくいう私も細胞診専門医の資格を持とうと決めた時にこの本を購入した。それも記念すべき初版第1刷であり,この本のおかげで細胞診専門医になることができたと感謝するとともに,第6版を拝読し,細胞診に従事した自らの年月を振り返る貴重な機会をいただいた。初版は現在も座右の書として大切にしている。

 今回の第6版は初版より100ページも増加しており,内容がますます充実した。編集の坂本穆彦先生が第6版の序で書かれているように,本書では細胞診や病理診断を取り巻く新しい動向が盛り込まれている。特に液状処理法やOn-site cytologyなどがその一例であり,さらに,免疫細胞化学的染色の進歩にも対応している。また,各分野の細胞診の報告様式(国際あるいは国内の)が次々と公にされており,それに即した記載や紹介もなされている。

 私がこの書籍で注目し強調したいのは,美しい細胞写真ではなく,手書きのシェーマ・スケッチである。細胞所見などの特徴を的確にとらえ,しかも説得力のあるスケッチは初版からますます増えて充実している。シェーマ・スケッチは写真に比較して,核や細胞質といった細胞個々の所見や細胞集塊の特徴などがとてもわかりやすい。これは,初心者にとっては検鏡学習時の手引きとなり,さらに,細胞診従事者にとっては生涯教育テキストである上に後進の教育の現場で参考にすべきものといえる。

 例として,私の専門分野である呼吸器領域の第9章をひもといてみよう。気管・肺の組織構築と細胞所見の図では,口腔から肺胞レベルに至る各部位の正常な上皮細胞が,それらの特徴をよくとらえたシェーマとして提示されている。そして,文章中では各細胞の機能がコンパクトかつ理解しやすく記述されている。さらに,主な肺癌の解説として,腺癌,扁平上皮癌,小細胞癌,大細胞癌という肺癌の4基本組織型における細胞の特徴が,カラーのシェーマに説明文を加えた図として記載されている。百聞は一見に如かずというがごとく,各組織型における細胞の特徴が一目瞭然であり,自分の細胞診断能力が格段に向上したような錯覚を起こさせるくらいに工夫されている。

 次に,テクノロジーの進歩の盛り込みという観点から見てみよう。「第6章 顕微鏡の基礎知識と操作法」の中に,デジタルパソロジーの項があり,デジタルパソロジーシステムの現状と問題点がコンパクトにまとめられている。さらに,AIに関しても言及されており,細胞診におけるデジタルの波は押し寄せているというより,その波に乗っていかねばならないという現状と展望がよく理解できる。

 さて,初版の本体価格は9700円であったが,今回の第6版はなんと9800円である。経済的にも「超」お薦めの一冊といえる。

B5・頁432 定価:本体9,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03799-0


図説 医学の歴史

坂井 建雄 著

《評者》鈴木 晃仁(慶大経済学部教授・医学史)

さまざまな史実を一覧した図表が古代から現代までをつなぐ

 坂井建雄先生は多くの医学史研究者が敬愛する存在である。長いこと順大の解剖学の教授であり,解剖学者としての仕事だけではなく,解剖学の歴史を軸とした優れた業績を次々と発表されてきた。チャールズ・オマリーのヴェサリウス研究を『ブリュッセルのアンドレアス・ヴェサリウス1514-1564』(エルゼビア・ジャパン,2001)として翻訳したお仕事や,初期近代の解剖の歴史を検討した『人体観の歴史』(岩波書店,2008)などは,非常に重要な日本語の著作である。その坂井先生が『図説 医学の歴史』を出版した。さまざまな意味で,圧倒的な力と有用性を持つ仕事である。

 坂井先生が打ち立てたのは「図説の」医学の歴史である。英語のタイトルが“The History of Medicine with Numerous Illustrations”であることが象徴している。歴史上のベーシックな事実,それを示す画像,そしてそれらの堅固な事実を整理して並べた一覧表の集大成である。このような画像や図表は全体で650点以上も集められ,一つ一つ丁寧に検討され,非常に見やすい形で表示されている。画像はカラーであり,医学の歴史が持つヒトや動物の活動が感じられる。とりわけ強力なものが,一覧表となった図表の利用である。著名な医師の著作の一覧表,それらの章立ての一覧表,生理学の概念の一覧表,ヨーロッパの薬草園の300年以上にわたる設立年次の一覧表,日本の医学校の設立年次の一覧表など,さまざまな史実が一覧の図表となっている。このような画像と図表の集積は,古代から現代までをつないでいくような効果を持つ。大きな図説プロジェクトに基づく書物は,英語のトータルな医学史の書物でも見たことがない。まさに圧倒的な力と有用性である。

 一つの限界は,1980年以降に発達した新しい医学史とは大きな距離を置いていることである。新しい医学史は,人文学・社会科学(Humanities and Social Sciences)という医学以外の学問領域を基盤として,複数の視点で医学や医療を検討している。坂井先生はそれを「医療と社会の関わりという新しい視点」とまとめている。これを「社会」という概念でまとめてしまったことに一つの限界があるのかもしれない。「患者」「疾病」が医療や世界とどのように関連するのかという視点は,本書の主題にはなっていない。

 しかし,このことは,理想論と比べたときのごくマイナーな点である。坂井先生のご著作は世界でも指折りの名著である。日本の医学史,医師,医療関係者はもちろん,どの領域の研究者にとっても必携の一冊である。

B5・頁656 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03436-4


こんなときオスラー
『平静の心』を求めて

平島 修,徳田 安春,山中 克郎 著

《評者》志水 太郎(獨協医大主任教授・総合診療医学)

ドラマティックが止まらない! オスラー先生のきら星のような名言

 本書は医学書院『総合診療』誌の同名の連載の単行本化である。近代医学・医学教育の先駆者であり,ジョンズ・ホプキンズを創設した“Big 4”の1人でもあるウィリアム・オスラー医師の言葉には,年代を感じさせない貫通力がある。オスラー先生のきら星のような名言の数々は,臨床や後輩指導のさまざまな現場に直面したときにこそ「ハッ」と思い出され,あらためて胸に刺さるものが多い。本書の魅力を語るには,やはり書中のオスラー先生の言葉を記載することがベストだろう。

 平静の心:「穏やかな平静の心を得るために,第一に必要なものは,周囲の人達に多くを期待しないことである。(中略)仲間の人間に対して,限りない忍耐と絶えざる思いやりの心を持つ必要がある」(p.3)

 師弟について:「師の言葉によってではなく,師の生活そのものが若い弟子の人格を形成するのである」(p.177)

 同上:「望ましい教師とは,自分の専門分野の世界的に優れた研究に精通しているのはもちろんのこと,自らの理念を持ち,それを実行に移す覇気と活力の持ち主でなければならない」(p.168)

 生涯教育について:「まず第一に,超然の術(art of detachment)を早い時期に身につけていただきたい。それは,若さにつきものの娯楽や快楽から自らを隔離する能力を意味する」(p.17)

 同上:「卒後の教育心を刺激させ,維持させるのに,少なくとも3つのことが必要である。ノートブック,図書館,それに5年毎の脳の塵払い……」(p.166)

 研修医教育について:「医師にとって,科学的訓練()は計り知れないほどの貴重な贈り物であって,それは正確な思考習慣を身につけさせてくれ,精神を鍛えて物を疑いの眼で見るという識別・判断力を養う。その能力が身について初めて,医師は診療の不確かさの中にあって賢くなり救われる」(p.31)

 看護師に向けて送られた言葉も,医師として感じるものが多い。

 看護師について:「あなた方の知識の光に明かりをそえるのに,秘法の七つの徳があります。気転,清潔さ,寡言,思いやり,親切さ,明るさ,これらのすべては,慈愛(charity)によってつながっているものです」(p.176)

 このように,医学教育上の多くの側面において,鋭利で科学的な直言を残すオスラー先生の注釈本,それが本書である。山中克郎先生,徳田安春先生,平島修先生という,日本を代表されるベテランから若手の総合診療医の先生方の目線で解釈されたオスラー先生の言葉は,より身近に,より多くの若者に読まれ,その結果,読者の医師人生にドラマティックな変化を与えることだろう。

註:科学的訓練とは,担当する患者の診断・治療・予防に関する情報を書籍・電子媒体から集め,実際の患者に適応できるか,あるいは教科書との違いは何かを,照らし合わせながら経験すること(平島先生注釈)。

A5・頁200 定価:本体2,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03692-4


内科救急で使える! Point-of-Care超音波ベーシックス[Web動画付]

亀田 徹 著

《評者》谷口 信行(自治医大教授・臨床検査医学)

動画が豊富に付いた読んでいてわくわくする超音波検査の本

 本書は,カラーな上に,図や写真が多くてわかりやすく,読んでいてわくわくする超音波検査の本である。その疾患の超音波検査を試みたことのある方であれば,臨床の状況と必要な検査を想定できる記述となっている。動画が豊富に付いているのもいい。超音波検査を扱った書籍は静止画のみで構成されたものが多いが,本書はQRコードにより手元のスマートフォン,タブレットですぐに動画を見ることができる。

 タイトルになっているPoint-of-Care超音波(POCUS)は,研修医だけでなく,内科・外科をはじめとする多くの臨床医にとって,診療に役立つものである。研修医であれば,現場でPOCUSを行うことで,後に自分で行わなければならない検査のハードルをだいぶ下げることができるだろう。研修医が修得すべき手技は数多くあるが,中でもPOCUSはその場で検査を行うことができ,安心して次の診療ステップに進むことができる。ちなみに,POCUSにおいて最近注目を集めているのは肺エコーであり,これは救急や在宅の場面で,肺炎などの肺疾患に加え,左心不全の診断に役立つものである。

 具体例として「Lecture 14下肢深部静脈血栓症を疑ったとき」を見てみよう。通常,血栓症が疑われるときには,検査室の技師は,超音波で,両側鼠径部から下腿までの静脈を追跡し,詳細に血栓の有無を評価する。もちろん,その検査手技を修得できれば理想的ではあるが,血栓だけでなく,交通血管などの有無まで確認することを考えると,この検査には20~30分を要することになる。しかし,救急の現場においては,「木を見て森を見ず」の検査であろう。ここでは肺塞栓の原因検索として深部静脈血栓症の有無に焦点を絞って,検査することが求められる。血栓の有無に絞って検査を行えば,速やかに次の検査,治療へ進むことができるのである。

 各項目の「見出し」に用いられている言葉が優しいのもよい。「2点エコーはすばやく施行できます!」「圧迫操作による動的観察が特徴です!」「観察項目とポイントは?」のごとく,その項目で重要な点がひと目でわかるようになっている。

 最後になったが,超音波検査を行う上では,超音波の基礎は避けて通れないものではある。しかし,超音波専門医をめざす方でなければ,学生時代に習った知識で問題はない。得られた画像に疑問が生じた際に見返す,はたまた時間ができたときに調べてみる程度でよいと思われる。それよりも,まずは本書を参考に探触子(プローブ)を当てて,適切な画像を得ることに集中することから始めてはいかがであろうか。

B5・頁240 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03805-8


気管支鏡テキスト 第3版

日本呼吸器内視鏡学会 編

《評者》楠 洋子(阪和第二泉北病院阪和インテリジェント医療センター健診センター長)

必要な内容が余さず詳細に記述された必読書

 今回,日本呼吸器内視鏡学会から『気管支鏡テキスト』の第3版が刊行されました。前第2版から約11年,長きにわたる経緯を経た出版になります。この間には,機器の開発,診断技術の進歩,および対象となる各種疾患の治療内容などに格段の躍進が見られました。

 内容としては,呼吸器系の解剖や病理などの普遍的な基礎的解説から,新しい機器を含めた器具の取り扱い方などの基本的技術も含まれており,初心者にもわかりやすい手引書となっていると思います。

 機器が進歩しても気管支鏡の基本操作や扱い方などの最も普遍的な事項はもちろん,被検者への対応,特に検査説明や,昨今,多くの問題を含む倫理面などの対応,リスクマネジメントについての内容まで,検査にかかわる医師にとって必須な事項が記載されております。症例も多くの悪性疾患,良性疾患のみならず,その他の呼吸器疾患症例をも網羅しており,気管支鏡による診断面のみならず,治療面への応用なども手に取るように見て取れます。

 今版はボリュームが大きくなり,今までのようにハンドブック的に持ち歩ける手軽さではないですが,それだけ必要な内容を余すところなく詳細に記述されているゆえんと認識しております。

 初心者には最もスタンダードな教科書としての必読書であり,熟練者においても日常的に再認識や再確認の必要な場面に備える“聖書”(成書ではなくあえてバイブル)として,なくてはならない教科書と思います。

 そして執筆の先生方は今日,日本を代表するこの道の信頼のおけるエキスパートの方々で,豊富な知識と経験に加え,日々の鍛錬に則って内容をわかりやすく解説されておられます。

 ぜひ内容をご確認の上,これから専門医に臨まれる先生方への福音となること,また日々の研鑽の蔵書としてお手元にお置きくださることを願っております。

A4・頁400 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03653-5


こころの回復を支える
精神障害リハビリテーション

池淵 恵美 著

《評者》武田 雅俊(大阪河﨑リハビリテーション大認知予備力研究センター長)

精神科治療+リハビリテーションで人生の支援を

 「精神障害リハビリテーション」をライフワークとして実践と研究をリードされている池淵恵美先生が,帝京大学主任教授としての定年を迎えられるのを機に上梓された本書には,40年間の「精神障害リハビリテーション」第一人者からのメッセージが詰め込まれており,精神障害を持つ人への専門的援助について,精神療法家とも認知行動療法家とも薬物療法家とも違うスタンスが提供されている。著者は,専門家の視点からのリハビリテーション(社会参加などを目標とする客観的リカバリー)と当事者の視点からのリカバリー(満足できる自分なりの生き方を達成するパーソナルリカバリー)とが統合されて初めて本当の意味でのリカバリーが達成できると考えており,エビデンスに基づくパーソナルリカバリーの実践をめざした活動の軌跡が記述されている。

 リハビリテーションとは,脳とこころの機能回復とともに当事者が社会の中での生き方や人生を取り戻していくことを支援するアプローチであるが,著者が伝えたいことは,精神科治療にリハビリテーションが加わることによって,当事者がリアルワールドで生活していく支援が可能となるとの指摘である。精神科医,看護師,心理士,社会福祉士,リハビリテーション専門職など精神障害の臨床に携わる全ての人に知ってほしいメッセージである。

 現在の精神科治療が,全ての当事者に納得のいく人生や豊かな社会参加を提供できているとは言えない。その理由としては,精神疾患の複雑さ,治療現場の時間とマンパワーの不十分さ,社会的なリソースの不足と偏見などの要因が考えられるが,「精神障害リハビリテーション」は,直接的に当事者のリカバリーを支援する生活臨床の重要な領域であり,個々の事例の中からサイエンスとして提示できるメッセージを抽出することがなかなか困難な領域でもある。本書はそのような困難な課題に正面から取り組まれた力作であり,臨床家に役立つ内容となっている。

 著者は,精神障害リハビリテーションは初診の時から始まるという。精神症状がよくなればおのずから生活が回復するわけではなく,初診時から当事者のリアルワールドでの生活を念頭に置いた見方が必要であると断言する。そして,精神障害に起因する苦しい症状に対しては,まずは本人が楽になることを見つける努力をすることが必要という。精神科医の中には,ここまでの役割しか果たせていない者もいるのかもしれないが,本書で述べられているように,リハビリテーションの視点からいうと,これは治療的かかわりの第一歩にすぎない。著者は,臨床家に求められている役割を,「当事者だけでなく家族や周囲の人たちに,障害の特徴を知ってもらい,どうつきあっていくかを学んでもらう」こと,「楽しいことや興味を持てることを見つけ,自信や気力を取り戻していき」,「本来の自分の力が戻ってきたら社会参加の目標を見つけていき」,「リアルワールドにチャレンジする」ことであると述べて,順番にそのプロセスと手順を述べる。さらに,臨床家でないと思いもつかないような丁寧さで,「なかなかよくならない症状や障害とつきあっていくやり方を探す」こと,「リハビリテーションから次の一歩が踏み出せない場合」の方法に加えて,「再発・再入院への対応」についても述べる。著者は,「長い目で見て,回復を信じていくことが大切である」ことと,「人それぞれのリカバリー」があると締めくくる。

 著者は,「精神障害リハビリテーションの現場は,もっと個別性に満ち,波瀾万丈であって,ドラマチックな展開がある」と言うが,本書にちりばめられた40例超の事例(「CASE」欄)を読み返してみて,どの事例にも著者の回復を願う温かい心と温かいまなざしが感じられ,その通りだと思った。

A5・頁284 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03879-9

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook