医学界新聞

2019.09.09



Medical Library 書評・新刊案内


《ジェネラリストBOOKS》
整形画像読影道場

仲田 和正 著

《評者》志水 太郎(獨協医大主任教授・総合診療医学)

コンパクトで重厚 プライマリ・ケアの整形画像はこの一冊!

 仲田和正先生の新刊が出ました。実は15年来ずっと仲田先生のファンです。仲田先生といえばTFCメーリングリストでの論文(NEJM,Lancet,JAMA)レビューが有名です。それだけでなく,ベテランの整形外科医であり,しかも院長でいらっしゃるのに,内科や小児科への学びのボーダレスさには憧れとともに,自分も総合診療医として貪欲に学び続けたいという前進の勇気をいつもいただいています。

 仲田先生のお名前を知ったのは2004年発行の名著『手・足・腰診療スキルアップ』(シービーアール)ですが,あれから15年がたった今年出版された本書は,上記の本のエッセンスを継承しつつもさらに密度の濃い,それにタイトルどおり画像読影のポイントが前景に出た非専門医のための整形外科の新しい名著です。とにかく画像が豊富です。仲田先生秘蔵の2000枚のティーチングファイルからの抜粋とのこと,「日常診療で,この本程度の知識があれば,さほど困らない」という仲田先生のコメントは,整形外科のX線を学ぶ者にとって大きな安心を与えてくれます。

 本書の構成は,整形疾患の診察・フィジカル技術に重点の置かれた第1章,そして本書のメインである部位別の整形画像読影の第2章からなります。画像読影にとどまることなく,整形疾患の診察のポイントも本書の1割以上のページを割いてまとめられているため,仲田先生の教育エッセンスを学ぶこともできます。また第2章では,ジェネラリストに有用と思われる整形画像が,これでもかというくらい紙面狭しと提示されています。X線だけでなく,シェーマや体表写真も満載で,大変わかりやすいです。痒い所に手が届く整形画像の指南書として,これまで仲田先生が後進を指導される中で工夫されてきた教育のコツが多く盛り込まれていると感じました。中には化膿性脊椎炎と転移性脊椎腫瘍の画像上の鑑別ポイント(p.78)や,腰椎穿刺の極意(p.87)など内科的にも重要な内容が含まれ,内科医にも広く読まれるべきと思いました。

 仲田先生といえば「怒涛の反復」が代名詞ですが,本書も各章末に「怒涛の反復」として要点がまとめられ,計16問の章末画像問題集もあり,勉強になります。

 ボーナストラックのように加えられている仲田先生のチャーミングでウィットの効いた写真(p.90,他)も素敵です(購入してご覧ください)。仲田先生といえば前述の論文レビューの真面目な内容の中に挿入される,アートに富んだ多くの逸話が印象的ですが,本書にも魅力的なコラムが含まれています。「1枚のX線写真の背後にあった壮絶な過去」(p.74)はまさにその真骨頂で,ミッドウェイ海戦(1942年)とそれにまつわる患者さんのエピソードに深い感銘を受けました。

 このように,164ページというコンパクトさを感じさせない,重厚さに満ちた仲田先生の最新刊3600円は安過ぎます。ぜひ皆さんご購入をお勧めいたします。

 なお,本書は医学書院《ジェネラリストBOOKS》シリーズの一環として出版されています。シリーズには他にも魅力的な書籍が並んでいますので,併せてお読みになると学びも大きいと思います。

A5・頁164 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03833-1


内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術[手術動画・3DCT画像データDVD-ROM付] 第2版
CT読影と基本手技

中川 隆之 編

《評者》丹生 健一(神戸大教授・耳鼻咽喉科頭頸部外科学)

内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術のバイブル

 内視鏡下鼻副鼻腔手術のバイブル『内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術――CT読影と基本手技』が5年ぶりに改訂され,待望の第2版が発売された。ご存じのように本書は京大耳鼻咽喉科・頭頸部外科で行ってきた手術解剖実習をベースとしている。

 本書の特徴は,まず,付録のDVD-ROMに収められた3DCT画像を用いて,基本的な内視鏡下副鼻腔手術に必要な解剖のポイントを解説し,三次元的な構造を把握して安全な手術計画を立てる能力を身につけさせる。そして,鼻副鼻腔の構造に基づいて安全確実に行える「目からうろこ」の手術手技が,経験豊富なインストラクターによりステップ・バイ・ステップでわかりやすく解説されていることにある。2014年に刊行された初版は,これから内視鏡手術を始める専攻医はもちろんのこと,頭蓋底手術を行うエキスパートにとっても必読のバイブルとなった。

 初版から5年,本書で学んだ知識と技術を生かしてoutside-inアプローチやendoscopic medial maxillectomyなどの新たな手術手技が全国で行われるようになり,鼻副鼻腔腫瘍や頭蓋底腫瘍に対して内視鏡下経鼻アプローチを選択する施設も多くなってきた。これらの状況を反映し,第2版では,拡大前頭洞手術や視神経管開放術,有茎鼻粘膜弁による頭蓋底再建などの項目が新たに増設され,頭蓋底手術に関連する内容が充実した。さらに,手術テクニックの解説用に2時間を超える多数の手術動画が付録DVD-ROMに収録されるなど,大きな進化を遂げている。まだお持ちでない方はもちろんのこと,すでに初版をお持ちの方も,第2版を購入されることをお勧めする。

 まずは,1章から3章まで一気に通読して鼻副鼻腔の解剖と手術に関する最新のコンセプトを身につけ,続いて第4章の応用編に臨んでいただきたい。通常の鼻副鼻腔手術が中心の耳鼻咽喉科医にとっては,ここまでで十分と思われるかもしれないが,重篤な合併症を回避するためには,普段見慣れた術野の「向こう側」の世界を知ることは非常に役に立つ。第5章まで読破されることをお勧めする。

A4・頁368 定価:本体15,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03839-3


図説 医学の歴史

坂井 建雄 著

《評者》北村 聖(地域医療研究所シニアアドバイザー)

過去の延長線上にある現代を理解し,未来を見通す

 同級生の坂井建雄教授が2年余りの歳月をかけて『図説 医学の歴史』という渾身の一冊を上梓した。坂井氏の本業は解剖学である。学生時代から解剖学教室に入り浸りの生粋の解剖学者である。卒業後,それぞれの道に専念し接点があまりなかったが,再度会合したのが医学史の分野であった。聞くところによると,ヴェサリウスの解剖学から歴史に興味を持ったそうであるが,私が読んだ「魯迅と藤野厳九郎博士の時代の解剖学講義」の研究は秀逸であった。2012年に坂井博士の編集による『日本医学教育史』(東北大学出版会)が出版されて以来,より親しくさせていただいている。坂井博士は恩師養老孟司先生と同様,博学であると同時に,好奇心に満ちている。自分の知りたいことを調べて書籍化していると感じる。

 さて,本書は表題が示している通り写真や図版が多い。特に古典の図版の引用が多いが,驚くなかれ,その多くは坂井博士自身が所有されている書籍からの引用である。2次文献ではなく,原則原典に当たるという姿勢は全編を貫く理念であり,それが読む者を圧倒する。まさしく「膨大な原典資料の解読による画期的な医学史(本書の帯)」である。また,史跡の写真も坂井博士自らが撮影したものが多く,医学史の現場にも足を運んだことがよくわかる。また,書中に「医学史上の人と場所」というコラムが挿入されており,オアシスのような味わいを出している。内容もさることながら,人選が面白く,医学史上の大家から市中の名医(荻野久作など)までが取り上げられている。

 本書は4部26章からなっており,第1部は「古代から近世初期までの医学」,第2部は「19世紀における近代医学への変革」,第3部は「20世紀からの近代医学の発展」,そして,第4部は「医史学について」である。特に2部以降の近代,現代医学史は,原典を丁寧に読み込み,社会科学・歴史学というより自然科学の手法でその時代の医学を明らかにしていく姿勢が鮮明である。

 特に第15章「明治期の日本の医学」の記述は巻を圧するものである。また,第4部は日本医史学会の理事長である著者にしか書けないものであり,第25章「医史学の歴史」,第26章「現代における医史学の課題」ともに,必読に値する。

 歴史を学ぶことは,過去を振り返るだけの行為ではなく,過去の延長線上にある現代を理解し,そして未来を見通すことである。その意味において,本書が令和元年5月に上梓されたことは意義深い。医学史といえば長く小川鼎三博士の『医学の歴史』(中公新書,1964)であったが,半世紀ぶりに新しい定本ができたことを実感している。

B5・頁656 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03436-4


ジェネラリストのための眼科診療ハンドブック 第2版

石岡 みさき 著

《評者》平島 修(徳洲会奄美ブロック総合診療研修センター長)

非眼科医が困りそうなツボを熟知する眼科医が著した,救世主のような一冊

 総合診療外来をしていると,患者さんから「先生は専門ではないかもしれないけれど……」と遠慮がちに目,耳,皮膚などに関するさまざまな訴えを聞くことがある。また,夜間の救急外来をしていると,「急に見えなくなった」「眼外傷」「眼異物」といったことを経験するが,これらは決して頻度が多いわけではなく,忘れた頃にやってくる。プライマリ・ケア医や救急医は眼科医とは違い,まれにしか経験できない眼疾患に,ほとんど道具を使うことなく判断することを迫られる。「正直,無理な話である」(心の声が叫びを上げる……)。

 それでも何とか道具を使いこなしたいと思い,眼科医に眼底鏡の使い方について相談してみると,「直像鏡はほとんど使わない」とあっさり退けられたりもする。ジェネラリストと眼科医では同じ眼診療を行う場合でも,まったく診療スタイルが違うのである。

 そんなとき,ジェネラリストと眼科医の架け橋となってくれるような書籍が登場した。本書『ジェネラリストのための眼科診療ハンドブック』である。非眼科医が困りそうなツボを熟知する眼科医が著した,ジェネラリストのための救世主のような一冊である。

 本書の構成は3部からなり,第1部では救急外来で遭遇しそうな眼疾患でも,専門医対応が必要な疾患・病態について,「急ぐべきか,翌日でもいいのか」という視点で述べられている。第2部では,総合診療外来で患者が眼科医ではなく,かかりつけの先生に訴えそうな眼症状について取り上げており,眼科医ではなくても対応可能な眼疾患についてのアドバイスがわかりやすく解説されている。そして第3部では,われわれプライマリ・ケア医も眼科医に質問してみたい,コンタクトレンズや市販の点眼薬に関する情報がまとめられており,読みながら「へ~」「そうなんだぁ」とついついうなずいてしまう。そして,巻頭・巻末の見返しページでは「かんたん眼科メモ」として「眼の解剖生理」「患者の年代別に頻度の高い眼科疾患」などを掲載しており,限られた紙幅を有効に活用したい石岡みさき先生の熱い思いを感じさせる。

 本書は一度通読することをお勧めする。読者へ訴え掛けるように解説された記述はあたかも石岡先生から直接講義を受けている感覚になるからである。プライマリ・ケア医が遭遇する眼科疾患のファーストタッチとしては,本書で十分網羅できる。疾患の診断・治療だけではなく,患者へどのような説明をするべきか,眼科医とのスムーズな連携まで解説されており,具体的でかゆいところに手が届く実践的な内容である。

 通読した後は日常外来に一番近い本棚に立てておくとよい。本書の情報を全て頭に入れておくのは容易ではなく,著者の配慮から,冒頭に症状に対する鑑別診断のアプローチがフローチャートとしてまとめられている。

 本書で記載されている内容は,今日,明日にも実践できることであり,プライマリ・ケアや救急の現場で診療される先生方にはぜひ一読をお勧めしたい。

A5・頁216 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03890-4


医療職のための症状聞き方ガイド
“すぐに対応すべき患者”の見極め方

前野 哲博 編

《評者》狭間 研至(ファルメディコ株式会社代表取締役社長/医療法人嘉健会思温病院理事長)

在宅療養支援の現場の不安と行き詰まりを解消できる良書

 介護施設や在宅で,身体の不調や症状を訴える患者さんに一人で対応せざるを得ない状況になり,困った方は少なくないのではないだろうか。「とにかく,そんなときにはすぐにドクターコールです!」でも,もちろん間違いではないし,そのために訪問診療医やかかりつけ医,施設の連携医がいるわけだが,その対応の中でよく見られる2つのパターンがある。

 1つは,医師に「まぁ,いいけど,こんなことで電話してこなくてもよいのじゃない?」と言われてしまうことである。患者さんの苦痛を取り除いてあげたい一心で,かけにくい電話をかけているのだが,想定範囲内のよくある症状と判断されたときには,日常業務を中断して対応した医師からすれば「そんなに慌てて電話かけてこなくても,今度の診察の時でよかったのでは?」と,チクリと言いたくなるのもわかる気がする。

 もう1つは,いろいろと報告した際に「なんかよくわからないなぁ。結局のところ,いったい何が問題なの? 僕はどうすればよいの?」と困惑させてしまうことだ。患者さんから聞いたことを,なるべくわかりやすい言葉で時系列で話したつもりが,何か伝わらない。「まぁ,とりあえず行くよ」と医師が診察してくれても,そんなときに限って患者さんの症状は嘘みたいに落ち着いていて,「結局,私が騒いだだけ!?」というような経験は,誰しもあるのではないだろうか。

 本書は,このようなパターンに陥りがちで困っている方に,ぜひお薦めしたい一冊である。

 症状の裏にはいったいどういうことが隠れているのか,そして緊急性があるのかないのかは,医師も毎日の診療活動の中で考えていることだ。その背景には,もちろん医学的専門知識が必要であるが,その前提としてあるのは,患者さんの話を的確に聞く病歴聴取,いわゆる問診である。聴診や触診などの手技と異なり,問診は医師にしかできないわけではない。また,医学的専門知識は確実に存在するが,多くの医療・介護職が共通に持っている疾患や症状に関する一般的知識も当然ある。となると,問診の技法を学び,それぞれの職種が持つ知識と掛け合わせていくと,症状を訴える患者さんに,どのような対応が必要になるのかがおのずと見えてくる。そして,この医療職共通の「症状の聞き方」を身につければ,的確な時期にわかりやすく患者の異変を医師に伝え,迅速な治療につなげられるはずだ。

 本書には,問診の基本的な知識のみならず,風邪症状,頭痛,呼吸困難,動悸,胸痛など,日常現場でよく遭遇する症状に対する具体的な質問の内容や方法などを,個別のチェックリストや緊急性の判断も含めて具体的に記載されている。本書の内容をもとに,日々の業務をバージョンアップしていけば,医師は「なるほど。そういうことか! すぐ診に行こう!」と決断でき,患者さんは「症状を言ったら,すぐに的確に対応してくれた!」となる。結果的に,その端緒を開いたあなたは,医師からも患者さんからも感謝されることになるだろう。

 いまの日常業務に不安と行き詰まりを感じている方には,ぜひお薦めしたい一冊である。

B5・頁152 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03695-5

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