医学界新聞

連載

2019.05.13



スマートなケア移行で行こう!
Let's start smart Transition of Care!

医療の分業化と細分化が進み,一人の患者に複数のケア提供者,療養の場がかかわることが一般的になっています。本連載では,ケア移行(Transition of Care)を安全かつ効率的に進めるための工夫を実践的に紹介します。

[第7回]ICUにおける多職種での情報共有と退室時のフォロー

今回の執筆者
鍋島 正慶(東京ベイ・浦安市川医療センター救急集中治療科・集中治療部門)

監修 小坂鎮太郎,松村真司


前回よりつづく

CASE

 COPD増悪で入院したAさん(詳細は第2回・3301号参照)は,夜間に不穏になり体動が増えた。その後,SpO2が低下,努力呼吸が強くなったため非侵襲的換気療法(Noninvasive Ventilation;NIV)を行ったが忍容性が悪く,人工呼吸器管理により蘇生可能だと判断。本人・ご家族と相談の結果,当直医による気管内挿管の上,ICU管理となりました。

 今回はこのような重症患者を管理するICUにおいて,ケア移行の観点から情報の共有・伝達を効率的に行うにはどうすれば良いかを考えます。

ICUで求められる効率的な情報共有とは

 ICUの患者は,重症度が高いことから,さまざまな処置が求められます。そのため多様なバックグラウンドを持つ多職種が交代で管理に当たる必要があり,有益かつ確実な情報共有が重要となります。また,日単位・時間単位で患者状態が変化するICUでは,1つのエラーが重大な結果をもたらすことがあります。過去の報告では,ICUにおいては患者1人当たりに1日平均178個もの必要な看護手順があり,1日当たり約1.7個のエラーが起こるとされています1)。その予防策として「バンドル」というチェックリストによるプロトコール化が行われています2~4)

 こうしたエラーを減らす試みとして,ICU回診を集中治療医,主治医,ICU看護師,リハビリスタッフ,呼吸療法認定士,薬剤師などの多職種で行う方法があります。治療方針を共有し,その場で各専門職が意見交換できるため,エラーが減少しやすくなっています。また,患者や患者家族がいるベッドサイドにて,多職種で回診を行ったほうが,ICUスタッフの満足度の上昇,有害事象の減少,ICU滞在時間の短縮(平均2.2日から1.1日)ができたというエビデンスもあります5, 6)

 ICU患者は主治医が不在となる夜間や休日でも状態が変化し得るため,他の担当者が対応することも多々あります。つまり,伝達漏れを起こさないために,普段その患者を診ていない担当者でも容易に患者の全体像を把握できるよう,型通りにカルテを書き,申し送りを正確に行うことも必要です。

ICU診療のための漏れのないカルテ記載

 ICU入室患者は多臓器にまたがる複雑な問題を抱えている場合も多いです。そのためカルテは簡素化しつつ,漏れがないように記載することが求められます。問題が多く複雑化すると,通常用いるようなプロブレムごと(By problem)にアセスメント&プランを行うだけではプロブレムの立案が抜けてしまうことや,内容が複雑すぎて記載内容が混沌とすることもあります。

 このような場合の対処法として,米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine;SCCM)は,ICUでは臓器ごと(By system)にプロブレムを挙げてアセスメント&プランを行うカルテ記載を推奨しています7)(記載方法については過去の『週刊医学界新聞』の連載をご参考ください8, 9))。

 しかし,By systemによるカルテ記載にもいくつかの問題があります。1つ目は,多臓器にわたる問題を記載する場合,同じ内容を複数回記載することになるため,結果としてプレゼンテーション時間が長くなり,聞き手が煩わしく感じること。2つ目は,臓器別では漏れてしまうプロブレム(例:褥瘡,外傷)や社会的な問題(例:独居,貧困)について評価しづらいことが挙げられます。

 これらの問題の解決には,治療方針のまとめと,達成すべき治療の具体的目標をプレゼンテーションの最後に明確に述べることを重視し,メインの病態を含む臓器のプロブレムのみでアセスメント&プランを挙げ,内容の重複する他臓器ではプレゼンテーションや記載を省略する工夫があります。社会的な問題については,医師よりも看護師やソーシャルワーカーの方がよく心得ていることが多いため,多職種での回診により対応漏れを減らすこと,また,カルテへのリンクを活用し,積極的な情報共有を実施することが有用です。

 ただし,このときの重要な注意点として,ICUに入室して間もないうちは診断名(例:COPD急性増悪)を使用するよりも表現系(例:II型呼吸不全)を用いたほうが良いことが挙げられます。その理由は,問題点/診断の早期閉鎖(premature closure)による診断エラーを減らすことができるからです。

安全なICU退室と再入室予防を実現するために

 ICU退室時の情報共有は,退室後の重大な合併症対策,ICUへの再入室や死亡を予防する上で重要です。具体的には,ICU退室時にチェックリストを使用することや,退室後48時間は転棟した一般病棟にICUの看護師が訪問するリエゾン看護師システムが一定の効果を上げています。しかし,絶対的に確立された情報共有の方法はまだありません10)

 今回は,ICU退室時に予期し得る薬剤有害事象やCOPD再増悪を予防するために標準化されたISBARに沿った申し送り(サインアウト)の具体例をに示します11)

 ISBARに沿ったICU退室時のサインアウトシートの例(クリックで拡大)

 第5回(3313号)の連載でも少し触れましたが,ISBARとは患者情報(Identity),状況(Situation/Stability),背景(Background),評価(Assessment),提案(Recommendation)に沿いながら,患者の状態に関する具体的な情報を伝達するテクニックです。米国TeamSTEPPS(Team Strategies and Tools to Enhance Performance and Patient Safety)により患者安全と医療パフォーマンスを高める目的で開発され12, 13),プレゼンターの能力によらない簡潔かつ明確な情報伝達を実現させています。

CASEへの対応

 ICUでの多職種による集学的治療で患者状態は改善し,入室2日目には抜管することができました。しかし,自発呼吸トライアル中にPaCO2>45 mmHgを示したため,抜管後呼吸不全予防のために24時間はNIVを間欠的に装着することをISBARに沿ったサインアウトシートで申し送りし,一般病棟に転棟させました。ICU退室後48時間はICUスタッフがフォローに訪れて漏れのない申し送りを行いました。

POINT

●効果的なICU回診と多職種での情報共有の重要性を理解する。
●By systemによる漏れのない診療を実行する。
●安全なICU退室を実現するための申し送り方法を学ぶ。

つづく

引用文献・URL
1)Crit Care Med.1995 [PMID:7867355]
2)Am J Respir Crit Care Med.2016[PMID:26393290]
3)N Engl J Med.2006[PMID:17192537]
4)Crit Care Med.2019[PMID:30339549]
5)J Crit Care.2003[PMID:12800116]
6)Arch Intern Med.2010[PMID:20177041]
7)Society of Critical Care Medicine. Medical Student's Guide to Intensive Care Medicine.
8)レジデントのためのクリティカル入門セミナー第1回.
9)「型」が身につくカルテの書き方第12講.
10)BMJ Qual Saf.2011[PMID:21768210]
11)BMJ Open. 2018 [PMID:30139905]
12)AHRQ. TeamSTEPPS.
13)TeamSTEPPS Japan Alliance.

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