医学界新聞

2019.03.11



日米医学医療交流財団30周年記念会


 日米医学医療交流財団は医療者の国際交流支援を主たる事業とし,1988年の設立から今日までに600人超の留学助成を行ってきた。設立30周年を迎えるに当たり,「日本版ホスピタリスト」の育成支援を助成の軸足とすることを決定。今後10年間で1万人のホスピタリストを育成することが目標となった。2月3日に開催された同財団30周年記念会(会場=東京都港区・ホテルオークラ東京)では,パネルディスカッション「日本における『ホスピタリスト』導入の効果と留意点」が企画された。

パネルディスカッション「日本における『ホスピタリスト』導入の効果と留意点」


 「山岳は頂上だけでは成立しない。大きな裾野があって初めて山である」。最初に登壇した加藤良太朗氏(板橋中央総合病院)は,江戸時代に西洋近代医学を伝えたオランダの海軍医・ポンペの言葉を紹介した。翻って現代の日本において,専門医偏重を改め,診療科横断的な専門職であるホスピタリストを普及させることが重要であると指摘。導入に際しては,入院患者に特化した米国とは異なる実情を踏まえ,外来診療までを包含した日本版ホスピタリスト・モデルを構築する必要があるとの見解を示した。

日本版ホスピタリストの効果

 小西竜太氏(関東労災病院)は,救急搬送人員数は過去最高となり,中でも高齢者の割合が高くなっているというデータを紹介。救急科専門医のみでは救急需要の応需は困難であるとして,日本版ホスピタリストが地域の救急医療に果たす役割に言及した。さらに実例を挙げながら,特に地域密着型病院においてはホスピタリストが有効であり,医療提供体制の効率化に寄与していると分析した。

 亀田総合病院は内科緊急入院の約半数,内科外来患者の3分の1を総合内科でカバーしている。同院の八重樫牧人氏は,「専門医がより専門性の高い医療に集中できる体制だ」と考察。例えば,胆管炎は総合内科が入院担当となり,消化器内科医は内視鏡治療に専念する体制を組んだ結果,平均在院日数や医療費の削減にも寄与していると述べた。

長期的視野で教育システムの整備を

 「収益や効率性は後回しにして,スタッフと後期研修医から成るチームによる教育システムを整備することが最優先」。こう強調したのは飯塚病院・清田雅智氏だ。医師3人から始まった総合診療科が,現在は40人を超える大所帯となっている。「最初の5~10年は難しかったが,育てた初期研修医が徐々に定着してくれた」という経験を踏まえ,ホスピタリストの育成には時間がかかると述べた。

 松村理司氏(洛和会総長)は病院総合診療の成功の鍵として,「権限と見識のある内科部長」および「内科系プログラムの専従責任者」の重要性を強調。また,内科指導医層の内科全般に関する基本的技能・教育能力の向上を課題に挙げるなど,長年にわたる“大リーガー医”招聘の経験を踏まえて自説を展開した。

 最後に黒川清氏が日本人メジャーリーガーの先駆者である野茂英雄を引き合いに出し,「若い人にグローバリゼーションを実体験する機会を与えたい」と財団の展望を語り会を閉じた。

写真左から,開会あいさつに立つ財団会長の黒川清氏(日本医療政策機構),来賓祝辞でホスピタリストへの期待を述べる小池百合子東京都知事と小泉進次郎衆議院議員。

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