めまいと眩暈(福武敏夫)
連載
2019.02.18
漢字から見る神経学
普段何気なく使っている神経学用語。その由来を考えたことはありますか?漢字好きの神経内科医が,数千年の歴史を持つ漢字の成り立ちから現代の神経学を考察します。
[第8回]めまいと眩暈
福武 敏夫(亀田メディカルセンター脳神経内科部長)
(前回よりつづく)
「め(目)まい」はもともと「め(目)まひ」と言われ,「目が舞う」ことであり,夏目漱石の『坑夫』(1908年)に「目舞」の用例があります。昔,眼振を目にした人が言い出したのではないかと思います。平安時代には多分「めまい/ひ」という言葉はなく,「くるめく」とか「くるべく」と表現されていたようです。この「くる」はくるくる回るの意で,しばしば「めくるめく」と用いられます。英語のdizzyやgiddyも同様にオノマトペですが,vertigoはvertex(つむじ=旋毛)と同根です。
「めまい/目舞」では重々しくないせいか,少なくとも1888年には「眩暈」が用いられていますが,今は廃れてしまいました。「眩冒」や「頭暈」も中国や漢方の世界で使われています。1744年のオランダの内科学書の和訳『西説内科撰要』では,vertigoに頭旋眩冒が当てられています。私は,小脳出血にて回転性めまいがありながら眼振も眼球偏倚もなしに頭部回旋を呈した例を経験しました。
ところで,「眩暈」の「眩」は目+玄からなり,玄は糸の先がのぞいている形から,かすかで見にくいことを表します。結局「眩」はくらむ(暗む),くるめくの意味を持ちます。
「暈」は日+軍からなります。軍は包+車であって,戦車を意味し,そこから「すすむ・めぐる」も表します。結局「暈」は日や月の周囲に現れる光の輪のことであり,「くらむ」や「めまい」も表します。脳梗塞のペナンブラ(半影帯)に「暈」を当て得ますが,これはpenumbra=pen(半)+umbra(影/陰)と分解すれば理解できます。ちなみにumbrella(傘)は小さい陰から来た言葉で,peninsula(半島)もpen+insulaと分解できます。
(つづく)
この記事の連載
漢字から見る神経学(終了)
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