医学界新聞

2018.11.19



第22回日本心不全学会開催


 第22回日本心不全学会学術集会(会長=東大大学院・小室一成氏)が10月11~13日,「心不全医療のイノベーション」をテーマに京王プラザホテル(東京都新宿区)にて開催された。日本も近い将来,植込み型補助人工心臓(VAD)による長期在宅治療(Destination therapy;DT)の保険収載が見込まれる。本紙では,多職種によるDTへのアプローチを議論したパネルディスカッション「目前に迫ったDestination therapy への多職種での取り組みとは?」(座長=阪大大学院・澤芳樹氏,富山大大学院・絹川弘一郎氏)の模様を報告する。


Destination therapyには多職種の多面的なアプローチを

 植込み型VAD装着患者が増加する中,サポート期間の長期化によるDTの問題点は何か。初めに登壇した循環器内科医の簗瀬正伸氏(国循)は,植込み型VAD装着患者に生じる課題として,治療の場の選択,患者の生活や家族への影響,患者自身の人生設計や終末期のとらえ方を列挙した。「Shared CareはShared Benefitsを生む」と述べた氏は,患者が住み慣れた地域で治療を継続するには紹介元の循環器内科医と地域のVAD管理施設との密接な関係が重要と指摘し,植込み型VADに精通する循環器内科医のDTへの参画が不可欠と強調した。そこで氏は,植込み型VAD管理を学ぶ研修やセミナーに医師が参加しやすい環境が必要と語り,既存の研修実施施設や管理施設が植込み型VADの短期臨床研修コースを用意すべきと提案した。

 「DTのエンドポイントは,ADLの維持とできる限りの再入院の回避にある」。こう述べた心臓血管外科医の縄田寛氏(東大病院)は,植込み型VAD装着後の問題と対処について紹介した。術後の問題点は主に,感染症,機器の不具合,抗凝固療法関連合併症,大動脈弁閉鎖不全症を含む弁機能不全だという。感染症対策には適切な創部管理と複数種類のデバイスの承認などが求められ,機器の不具合にはドライブライン(DL)配置の改善,標準化された手術手技の普及が重要と述べた。抗凝固療法関連合併症への対処には,細やかな抗凝固療法管理や塞栓症を起こしにくいデバイスの開発が求められ,弁機能不全には装着時の予防的介入,右心機能低下症例では房室弁への介入をそれぞれ考慮すべきと解説した。

 DTで生存率が高まる一方,終末期の治療選択や体制整備には多くの課題がある。看護師の久保田香氏(阪大病院)は,植込み型VAD装着患者の考える「人生の在り方」に沿った理解ができるよう,事前指示書などを用いて治療のゴールを検討する機会が必要と述べた。さらに,家族もケアの対象としたサポートが欠かせないと言及し,訪問看護の積極的介入の実現に向け,植込み型VAD装着患者に対する訪問看護加算等の整備が求められると強調した。

 循環器内科医の中村牧子氏(富山大病院)は,大都市の病院で植込み型VAD治療を受けた患者が,長年住み慣れた地域で生活できるよう,管理施設である地元大学病院が治療継続の受け入れ体制を整えた事例を紹介した。循環器内科医,看護師,臨床工学技士らが関連機器使用のトレーニングを受け,救急部や所轄の消防署にも植込み型VAD装着患者の緊急時対応を周知したという。患者の頻回な外来通院できめ細かなリハビリや創部管理が実現できた一方,医療者の経験不足や患者同士の情報交換の機会が少ないなど地方ならではの課題があったと振り返った。氏は「植込み型VAD治療が認知されるよう社会への啓発が必要」と呼び掛けた。

 阪大病院心臓血管外科の戸田宏一氏は同院の200例を超える植込み型VAD治療の経験を踏まえ,長期治療の合併症である脳合併症,感染症,右心不全の3点への対処から,多職種関与の重要性を考察した。植込み後早期脳合併症にはポンプ流量不足,晩期合併症にはデバイス感染・菌血症が関与する。右心不全や感染症への対策が重要となるため,集中治療室や感染対策チーム,脳卒中内科との連携が必要と指摘した。また,DLの適切な管理により感染回避率の改善が見込まれることから,看護師の役割は重要という。さらに,VAD装着後2年以上経過すると機器トラブルが多くなる傾向から,患者再教育の必要性を示唆し,臨床工学技士の関与に期待を示した。氏は,より良い長期VAD治療のためには「多面的アプローチが重要」と締めくくった。

写真 パネルディスカッションの模様

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