医学界新聞

2018.08.20



Medical Library 書評・新刊案内


薬剤師レジデントマニュアル 第2版

橋田 亨,西岡 弘晶 編

《評者》石井 伊都子(千葉大病院薬剤部部長・教授)

網羅的で実践的な記載が新人薬剤師にうってつけのテキスト

 薬剤師国家試験に合格し,薬剤師として意気揚々と入職する。しかし,初日から「え~っ,わからない?」「何だったっけ?」「実習中にやったかも~,でも,駄目だ!!」と,新人薬剤師は戸惑い,冷や汗をかきながら日々を送っていることでしょう。皆通る道であり,誰にも避けることはできません。しかし,本書『薬剤師レジデントマニュアル 第2版』があれば,少しでも効率的に問題を解決し,冷や汗の量も減るのでないでしょうか。

 本書は,前半に薬剤師業務の基礎となる項目を,後半には病棟業務中央業務で役立つ知識が章立てられています。当院の薬剤師レジデントは本書について「基本的な薬物治療が述べられているので,特に苦手な分野の導入として良い。『薬剤師による薬学的ケア』の項目は,薬剤師ならではの視点が盛り込まれている。副作用とその対処法が併記されているので治療への介入の手助けになる。『処方提案のポイント』を参考にすることで,治療におけるピットフォールに気付くことができる。処方提案のポイントは簡単すぎる感じがするが,自分で深く調べるきっかけになる」など,現場で頻回に使用する医薬品が掲載されていて便利との意見が挙がりました。一方,指導的な立場にある中堅薬剤師からは,「ベースに加え少し発展的なところも記載されているため,新人がポイントをつかみやすい。指導する側も本書をチェックすることでポイントの抜けがなくなる。疾患ごとの章は,症例や薬学的ケアの解説も盛り込まれていて,ポケットサイズの判型から想像する以上に内容が充実している。病棟で持ち歩いてほしい。医薬品の使用法に関しては,現場で汎用されている例も盛り込まれており,より実践的である」との意見をもらいました。

 このところ,病院では新人薬剤師に対してレジデント制度を導入する施設が増えています。各施設はそれぞれ頭を悩ませながらプログラムを組み,いかに新人薬剤師が的確に業務を理解し,少しでも早く一人前の薬剤師として業務に取り組めるようにするかを常に考えていることでしょう。それには,基本的なテキストが必要です。本書は,網羅的でありかつ処方の実例を含め実践的に記載されているため,新人薬剤師にとってうってつけのテキストです。新人は新人でも薬剤師であって学生ではありません。「新人の基本の書」として本書をポケットに忍ばせ,これまでより大きく深い一歩を踏み出していただきたいと思います。

B6変型・頁426 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03263-6


異常値の出るメカニズム 第7版

河合 忠 監修
山田 俊幸,本田 孝行 編

《評者》前川 真人(浜松医大教授・臨床検査医学)

診療でも学習でも一層使いやすい構成となった改訂版

 異常値の出るメカニズム,何と興味を引くタイトルかと思う。1985年に初版が出たとき,「おっ,待ってました」と購入したことを覚えている。たしか,河合忠先生が『medicina』という月刊誌に書かれていたのを元に書籍にとりまとめられたものであった。月刊誌は読んでいたので,書籍になって本当にありがたかった。なぜなら臨床検査を現象として記載している書籍は他にもあったが,本書のように「なぜ異常になるのか,どういうメカニズムで異常値になっているのか,その背景にはどんな病態があるのか」などの疑問に答えてくれる書籍は,本書が初めてではなかったかと思う。そして,今でも他書にはない特徴を引き継いでいるのがわかる。現在は河合先生が監修を,山田俊幸先生,本田孝行先生が編集を担当されている。臨床検査専門医として,臨床検査医学の研究者であり教育者であるお二人が,時代に即した改変を加えつつ,初版のスコープをそのまま維持し,拡張させていると思える。

 初版が出てから30年を過ぎ,臨床検査もずいぶん変わった。技術の進歩による精度の向上,高感度化により,測定値がますます収束して,病態による微細な変化もとらえられるようになった。また,バイオマーカーという,病態よりも即病気を反映するような検査項目も開発されてきた。この臨床検査の進歩に追随するように,本書で扱う検査項目も増えてきている。そして,以前の版に比べて構成が少し変化している。すなわち,各章で検査群を扱っているが,その中で「総論」,「基本検査」,「基本検査に準ずる検査」と分けて書き込んでいる。これは,検査を段階的に進めていく診療上の検査依頼も意識してのことであろう。さらに,その章の中で,高頻度に測定するコアとなる検査項目が扱われている。まずは,基本検査に記載の検査項目を理解した後に,基本検査に準ずる検査に進めていくことが,診療でも学習でも必要である。

 これだけの内容を伝統のある『異常値の出るメカニズム』という比較的コンパクトな書籍にまとめるのは,大変なご苦労をされていると思う。ほぼどのページにも図表が掲載されており,特に図が多いのが本書の特徴でもある。表には情報を詰め込みやすいが,図はイメージすることができ理解を助けてくれる。作る側から考えると図を作るほうが大変なので,読み手からするとぜいたくな書籍と言えよう。

 一つだけ注文を出させてもらえるなら,検査項目が増えすぎて,詳細なメカニズムまで触れにくくなっている。ページが許せば,細胞内での転写因子が遺伝子の制御領域に結合するところから説明するものもあってもよいかもしれない。

 ともあれ,各検査領域のエキスパートが渾身の力を込めて執筆された『異常値の出るメカニズム 第7版』,ぜひご一読いただきたい。特に医師や臨床検査技師をめざしている方,既に働き始めている若い方々ばかりでなく,臨床検査に興味がある各種医療関連の職種および学生にもお薦めする。

B5・頁304 定価:本体6,000円+税
ISBN978-4-260-03240-7


救急レジデントマニュアル 第6版

堀 進悟 監修
佐々木 淳一 編

《評者》髙橋 毅(国立病院機構熊本医療センター院長)

慶大救急医学の経験と英知が凝縮されたマニュアル

 『救急レジデントマニュアル』が5年ぶりに改訂されたのでご紹介したい。本書は,慶大病院救急部初代教授の相川直樹先生が初版を刊行され,堀進悟教授,そして佐々木淳一教授と,3代30年に及ぶ,慶大救急医学の経験と英知が凝縮されたマニュアルである。日本の救急医学を臨床面のみでなく,研究面においてもリードしてきた,あの慶大救急医学の歴々が総力を挙げて執筆しているからこそ,エビデンスに基づいた格調高い教科書となっている。

 本書は,ポケットサイズでありながら550ページを超す情報量がある。内容は,全10章に分かれており,まずレジデントの諸君が救急診療を行う際の心構えと基本的な診察法に始まり,次にERでよく経験する症候や疾患について,「鑑別・診断の進め方」「重症度の判定」「救急処置」などが,表やイラストを多用してわかりやすく親切に解説される。また,慶大が得意としている「外傷・熱傷」「中毒」に関しては,新たに章を立てて詳述している。さらに,マイナー診療科を含む各科救急疾患についても網羅し,救急関連の処置や検査については,使用する器具,手順,ピットフォールまで丁寧に解説している。最終章では脳死や災害医療,医療安全,感染対策などにも触れてあり,もはやその射程はマニュアルを超えた広がりを持っている。

 評者が本書を手にして最も感動した言葉は,第1章の1行目だった。最後まで読み終わった後,もう一度読み返してみたいと思ったのも,やはり第1章だった。そこには「レジデントの心構え」と称して,身だしなみ,態度と言葉使い,患者・家族への対応などが書かれている。この部分を読んで評者は,「救急蘇生や手技を勉強する以前に,救急搬送された患者や家族を思いやる気持ちが最も大切で,それが欠如した者は,救急医療に携わる資格がない」というメッセージを受け取った。なぜなら,慶大病院救急部は,創立時からこの理念を貫き通してきたからである。

 23年前,評者が救急業務実地修練で上京した折,指導を担当してくれた若い慶應ボーイを思い出した。彼は清潔な白衣に身を包み,キリッとネクタイを締め,救急患者に紳士的に寄り添い,この心構えをすでに実践していた。その彼が編集した書籍だからこそ,この第1章のあの1行目を堂々と明記することが許されるのである。救急医療を志す諸君には,ぜひ本書を愛読していただき,救急診療の具体的な手技やポイントのみならず,慶大救急医学に連綿と受け継がれるその神髄も味わってもらいたい。

B6変型・頁594 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03539-2


《ジェネラリストBOOKS》
外来でよく診る
病気スレスレな症例への生活処方箋
エビデンスとバリューに基づく対応策

浦島 充佳 著

《評者》今村 英仁(公益財団法人慈愛会理事長)

日常診療で使えるVBM(価値に基づく医療)の指南書

 「Value-based Medicine(VBM)とは何か?」この本を手に取った方はまずこの疑問を持たれることだろう。そもそも著者は,EBM(科学的根拠に基づく医学)の大家であり,「いかにしてエビデンスを作り,利用するか」を著した書籍や,その基本となる臨床統計学の教科書など,多数のEBM関連著書を出版している。

 一見,エビデンス(科学的根拠)とバリュー(価値観)では正反対の概念のように思われる。とうとうEBMに愛想を尽かしてVBMに寝返ったのかなと言うと然にあらず。この本を読むとVBMはしっかりしたEBMの基盤の上に成立することがよくわかる。“治療”の際にはEBMが大きな力を発揮する。“予防”の際もエビデンスはしっかりと蓄積されてきている。ただ,「馬を水辺に連れていくことはできても,水を飲ませることはできない」。エビデンスを振りかざしてもなかなか実行してもらえないのが予防の世界である。そこで出てくるのがVBMである。

 この著書は,How to make ValueからHow to use ValueまでVBMとは何かを理解し,さらに実行するための教科書にして実用書である。著者自身の体験を踏まえているのでより説得力が高い。後は,ぜひ本書を読み下してやさしく「水を飲んでもらう」ようにしていただきたい。

A5・頁212 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03593-4


よくわかる血液内科

萩原 將太郎 著

《評者》本郷 偉元(関東労災病院感染症内科部長)

血液疾患の初期対応力up!専門医に適切につなげられる

 本書の著者は,私の初期研修病院の先輩である萩原將太郎先生である。同院では在籍期間が重ならず,直接のご指導は受けなかったが,武勇伝はいくつも伺ったことがあった。萩原先生が内地に戻られて少し経った頃からであろうか,今に至るまでご指導ご厚誼をいただいている。

 本書は,専門家として,内科医として,そして教育者として,そのどれもで超一流であり,何より努力家である萩原先生の真骨頂とも言える魅力に溢れている。専門家としての側面は,さまざまな疾患や病態の機序を基礎医学の面からもわかりやすく解説されている点,最新の診断基準が豊富に記載されている点などに垣間見ることができる。内科医としての側面は,症例の身体所見で腱反射などの神経学的診察,IV音,IIp亢進,眼底所見などを記載している点,p.105の「もちろん結核は常に除外すべき疾患です!」というコメントやp.184にランセット状のグラム陽性双球菌である肺炎球菌の喀痰グラム染色写真を載せている点などからもにじみ出てくる。教育者としての側面は,解説がクリアカットで教わる側の立場を大事にしている点,末梢血塗抹を医師が実際に見ることの重要性を強調していること,症例の解説で思考経路を的確に示していることなどから伝わってくる。

 「クリニカルパール」にはまさにパールがコンパクトにまとめられている。コラム,サイドメモには,教えてもらわないと気付かないこと,今さら聞けないことなどがさらりと述べられている。

 本書は,医学誌『JIM』『総合診療』に2年間連載された内容と,有名研修病院で総合診療科の若手医師を対象に5年間にわたり行われた特別講義録をまとめ,書き直されたものとのことである。萩原先生のこのような集積を1冊の本で読むことができるとは,読者は何と僥倖なことであろうか。

 血液疾患の症例集として,血液病態生理や各種診断基準を参照する本として,若手医師に血液内科を教育する際の参考として,総合診療医や一般内科医のテキストとして,この本は大変優れているであろう。血液内科が得意な医師であれば,一言ひと言かみしめて読まれるとよいだろう。

 この本を読めば,血液内科に対する理解が深まり,鑑別診断が広くかつ深くなり,血液疾患に対する初期対応能力が増し,適切に専門医につなぐことができるようになるであろう。そして,これらのことができるようになるからこそ,患者さんや患者さんの家族にわかりやすい説明をすることができるようになるだろう。

 ジェネラルマインドを大切にしている全ての医師,研修医,血液検査技師などに特にお薦めの本である。

A5・頁284 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03207-0

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