医学界新聞

連載

2018.08.06



目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症

がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。

[第27回]造血幹細胞移植と感染症③ 同種移植と移植後早期感染症

森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科副医長)


前回からつづく

Alloと感染症

 前回は自家移植(autologous HSCT;Auto)と感染症について説明しました。基本的には好中球減少の期間が短いため,中間リスク群の「好中球減少の感染症」をケアすれば良かったですね。一方,同種移植(allogeneic HSCT;Allo)ではかなり様相が異なります。特に血縁者からのHLA半合致移植(haploidentical HSCT;Haplo)や臍帯血移植(umbilical cord blood HSCT;UCB)では生着までの期間が長いため,高リスク群の「好中球減少の感染症」にさらされます。今回はAlloの生着までに見られる移植後早期の感染症について,症例を元に解説していきましょう。

症例1
 23歳男性。19歳で発症したフィラデルフィア染色体(Ph)陰性の急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia;ALL)に対してこれまで,BFM(Berlin-Frankfurt-Munster)プロトコールなどさまざまな化学療法を行っていたが,中枢神経再発を認めたため24 Gyの全脳照射およびシタラビンの髄注化学療法を施行。その後,父親をドナーとしたHaploが企画。

・前処置:チオテパ,ブスルファン,クロファラビン,移植後シクロホスファミド
・移植片対宿主病(GVHD)予防:タクロリムス,ミコフェノール酸
・サイトメガロウイルス(CMV):ドナー(D)陽性,レシピエント(R)陽性
・予防投与:レボフロキサシン,ボリコナゾール,バラシクロビル

 糸状菌感染症の既往なし。
 移植後1日目で39.0℃の発熱あり,セフェピムが開始。その後2日間にわたり発熱が持続するためバンコマイシンが追加投与され感染症科コンサルトとなる。
 口腔粘膜障害が強く経口摂取低下,嘔気・嘔吐および緑色下痢あり。腹痛の訴えあり。その他,鼻汁・鼻閉,咽頭痛,咳嗽,呼吸困難,尿路症状,肛門痛,関節痛・筋肉痛なし。全身状態はやや不良,意識清明,血圧120/60 mmHg,脈拍数120/分,呼吸数20/分,体温39℃,SpO2 99%。口腔内に中等度の粘膜障害あり。腹部は平坦・軟だが右下腹部から心窩部にかけて圧痛あり。反跳痛や筋性防御はない。その他,頭頸部,胸部聴診,背部,四肢,皮膚に明らかな異常なし。PICC挿入部の発赤,圧痛なし。好中球数100/μL未満。肝機能障害,腎機能障害や電解質異常は見られない。Clostridium difficileトキシンおよびGDH抗原は陰性。腹部造影CTにて回盲部から横行結腸にかけての壁肥厚あり。

症例2
 51歳男性。急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)に対してシタラビン,イダルビシンによる寛解導入療法および大量シタラビンによる地固め療法施行後にHLA一致の非血縁者からのAllo(matched unrelated donor HSCT;MUD)が企画。

・前処置:全身放射線照射(total body irradiation;TBI),シタラビン
・GVHD予防:タクロリムス,ミコフェノール酸
・CMV:D陽性,R陽性
・予防投与:レボフロキサシン,ボリコナゾール,バラシクロビル

 上記化学療法中に発熱を複数回認め,その度にバンコマイシン,セフェピム,メロペネムの使用歴あり。糸状菌感染症の既往はない。
 移植後4日目で39℃の発熱あり,バンコマイシンおよびメロペネム開始。同時期から左大腿背面の疼痛が出現し徐々に増悪してきたため,7日目に感染症科コンサルトとなる。
 左大腿全体の疼痛が著明であり歩行困難。その他,頭痛,鼻汁・鼻閉,咽頭痛,咳嗽,呼吸困難,消化器症状,尿路症状,肛門痛なし。全身状態は不良,意識清明,血圧138/76 mmHg,脈拍数128/分,呼吸数24/分,体温39℃,SpO2 97%。口腔内に中等度の粘膜障害あり。左大腿は全体的に緊満しておりハムストリングスの圧痛が著明。その他,頭頸部,胸部聴診,腹部,背部に明らかな異常なし。PICC挿入部の発赤,圧痛なし。好中球数100/μL未満(移植前にも長期好中球減少あり)。肝機能障害,腎機能障害や電解質異常は見られないがCK 1054 IU/Lと著増。
 大腿MRIでは大腿の皮下組織,筋膜の浮腫状変化に加えて大腿二頭筋の変性が著明。

症例3
 43歳女性。Ph陰性ALLに対してHyper-CVADを6コース施行後にMUDが企画。

・前処置:フルダラビン,クロファラビン
・GVHD予防:抗胸腺細胞グロブリン(anti-thymocyte globulin;ATG)
・CMV:D陽性,R陽性
・予防投与:レボフロキサシン,ボリコナゾール(血中濃度は至適),バラシクロビル

 移植後2日目に非常に強い心窩部痛および嘔気・嘔吐が出現。7日目に38.6℃の発熱あり,バンコマイシン,メロペネム,カスポファンギン開始するも数日間解熱せず,上記腹痛の改善にも乏しいため12日目に感染症科コンサルトとなる。
 腹痛以外に,頭痛,鼻汁・鼻閉,咽頭痛,咳嗽,呼吸困難,下痢,尿路症状,肛門痛,筋肉痛・関節痛なし。移植前に自宅で栽培したハーブの摂食歴あり。
 全身状態は不良,意識清明,血圧134/79 mmHg,脈拍数112/分,呼吸数20/分,体温38.6℃,SpO2 98%。口腔内に中等度の粘膜障害あり。心窩部の圧痛著明。反跳痛や筋性防御はなし。その他,頭頸部,胸部聴診,背部,四肢に明らかな異常なし。PICC挿入部の発赤,圧痛なし。好中球数200/μL,AST 65 IU/L,ALT 88 IU/L,LDH 746 IU/L。腎機能障害や電解質異常は見られない。
 腹部造影CTにて胃壁の肥厚と肝膿瘍あり。上部消化管内視鏡検査では胃角部に黒色の潰瘍性病変あり。

Allo移植後早期感染症の対処

 Allo移植後の感染症は,生着前のphase I,生着後早期のphase II,そして生着後後期のphase IIIの3つのphaseで考えます。

 生着前は何と言っても「バリアの破綻」と「好中球減少」がメインです。

 極論を言ってしまえば,Alloにおけるphase Iでは,細菌感染症と真菌感染症をケアすればおおむね外れはありません。細菌感染症については,これまでの多くの抗菌薬使用歴から,さまざまな多剤耐性菌を考慮することが求められます。真菌感染症ではカンジダのみならず,アスペルギルスやムーコルといった糸状菌感染症にも十分に気を配る必要があります。

 では,各症例を見ていきましょう。

 症例1はALLに対してHaplo移植後すぐに発症した発熱と消化器症状ですね。粘膜障害や下痢が主症状です。好中球減少時にこのような消化器症状を呈した場合に知っておいていただきたいのは好中球減少性腸炎(neutropenic enterocolitis;NEC)です。NECはその病態が完全に解明されてはいませんが,好中球減少時に腸管内にいる微生物により起きる腸炎とされています。ただし,必ずClostridium difficile感染症を除外する必要があります。起因菌は腸内細菌,緑膿菌,嫌気性菌に加えてカンジダが関与することも知られています。診断には本症例のように造影CT検査が有用です。特に3 cm以上の長さにわたって結腸の壁肥厚(4 mm以上)がある場合,積極的に考慮します1)。本症例ではNECの診断のもと,嫌気性菌も含めた抗菌薬としてセフェピムからピペラシリン・タゾバクタムに変更して治療し,生着とともに症状の改善が見られました。

 症例2はAMLに対してMUD移植後に発症した発熱と左大腿部痛です。MRIで重度の化膿性筋炎(pyomyositis)があり穿刺したところ,Stenotrophomonas maltophiliaが検出されました。また血液培養(末梢およびPICC)からも同じ細菌が検出され,カテーテル関連血流感染症も考慮してPICCを抜去しました。抗菌薬はST合剤を使用し,生着を待って外科的にデブリを施行し治癒に至りました。通常化膿性筋炎を見た場合には黄色ブドウ球菌やβ溶血性連鎖球菌がメインですが,血液腫瘍,特に好中球減少時にはグラム陰性桿菌も重要となってきます2)。本症例のようにカルバペネム使用歴のある場合にはS. maltophiliaも問題となります3)ので注意しましょう。

 症例3はALLに対してMUD移植後の胃角部黒色潰瘍と肝膿瘍です。糸状菌感染症,特にムーコル症を強く疑い,リポソーマルアムホテリシンBを開始するとともに潰瘍性病変の生検を行ったところ,隔壁を有さないリボン状の糸状菌が多数見られムーコル症の診断となりました。抗真菌薬を半年以上継続し改善しました。ムーコルはアスペルギルス同様に環境に存在する糸状菌で,経気道感染による副鼻腔炎や肺炎が最多ですが,本症例のように経口摂取により消化管感染を起こすこともよく知られています4)。死亡率が非常に高いため,積極的に疑って早期にリポソーマルアムホテリシンBを投与することが重要です5)

 今回はAlloの生着前における移植後早期感染症について症例を交えて説明しました。次回はAlloの生着後早期に見られる感染症についてお話しします。

つづく

[参考文献]
1)Clin Infect Dis. 2013[PMID:23196957]
2)Clin Infect Dis. 2010[PMID:20038242]
3)Lancet Infect Dis. 2009[PMID:19393961]
4)Clin Infect Dis. 2005[PMID:16080086]
5)Clin Infect Dis. 2008[PMID:18611163]

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