医学界新聞

連載

2018.06.11



身体所見×画像×エビデンスで迫る
呼吸器診療

肺病変は多種多彩。呼吸器診療では,「身体所見×画像×エビデンス」を駆使する能力が試されます。CASEをもとに,名医の思考回路から“思考の型”を追ってみましょう。

[第12回(最終回)]気管支拡張症を考える

皿谷 健(杏林大学呼吸器内科 講師)


前回からつづく

CASE 74歳男性。湿性咳嗽の増強を主訴に来院。小児期に気管支喘息と診断され,吸入ステロイド薬,ロイコトリエン受容体拮抗薬,テオフィリン製剤でコントロールは良好。若い頃から湿性咳嗽が多かったが,ここ数年で増強したという。会話の合間にも頻回に喀痰をテイッシュで取っている。

 胸部X線(図1A)では,心臓,大血管,胃を含めて内臓逆位,両側中下肺野に気管支拡張像(矢印),左下肺野に浸潤影を認めた。胸部CT(図1B,C)では,両肺実質にびまん性に小葉中心性陰影(centrilobular nodule)を認め,右下葉の容積減少と気管支拡張像(矢印a),左下葉にコンソリデーション(矢印b)を認めた。

図1 初診時の胸部X線画像(A)と胸部CT画像(B,C)(クリックで拡大)

 幼少時からの副鼻腔炎あり,20歳で膿胸の既往あり。アレルギーなし。Vital signsは正常。身体所見は両側肺野にcoarse cracklesを認め,前胸部中下肺野にrhonchiを聴取。Coarse cracklesとrhonchiは,喀痰を喀出すると著明に減少。頸部にwheezesは聴取せず。家族歴は詳細不明。Review of systemsでは難聴なし,中耳炎なし。


 本症例はブロンコレア(泡沫様と卵白様の二層性の痰が100 mL/日以上喀出される病態)であり,気道上皮の障害が強い病態(例:インフルエンザウイルスの感染後など)や線毛異常症などの基礎疾患を疑います。Coarse cracklesやrhonchiが喀痰の喀出後に改善するのは,ブロンコレアを示唆しています。右胸心は5000人に1人の頻度で出現しますが,多くは胃泡が右側に描出される内臓逆位症を伴います。

気管支拡張症の鑑別

 画像上,気管支拡張像が認められた場合,常に基礎疾患の有無を考慮する必要があります1)。比較的遭遇する可能性の高い疾患は,関節リウマチ,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA), 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA), 感染症(アスペルギルス,非定型抗酸菌,緑膿菌)などが挙げられます(図2)。炎症性腸疾患2),特に潰瘍性大腸炎でも気管支拡張症を合併することがあります3)。繰り返す細菌感染症から,分類不能型免疫不全症(CVID)の液性免疫不全,Good syndromeなどの液性・細胞性免疫不全が逆に疑われる場合もあります4)。気管支拡張症を呈する極めてまれな先天性疾患には,弾性繊維の欠損や萎縮,筋層の菲薄化によるMounier-Kuhn syndrome,気管支軟骨の量的欠損によるWilliams-Campbell syndromeなどがあります。

図2 気管支拡張症を生じる疾患群(クリックで拡大)
網掛け部分は遭遇する頻度が高いと考えられる疾患。CVID:common variable immunodeficiency, DPB:diffuse panbronchiolitis, PCD:primary ciliary dyskinesia, ABPA:allergic bronchopulmonary aspergillosis, EGPA:eosinophilic granulomatous with polyangiitis

 痩せた中年女性では,中葉舌区症候群(中葉・舌区の無気肺)に伴う気管支拡張症が多いです(図3,矢印)。副鼻腔炎が合併した場合,副鼻腔気管支症候群と呼ばれます。気管支拡張症が進行すると非定型抗酸菌や緑膿菌の感染を合併し,抗菌薬治療に踏み切るタイミングがしばしば問題となります。前者では根治のために外科的肺切除が施行されることもあります。

図3 典型的な気管支拡張症(中葉舌区症候群)のCT画像

丁寧な問診と検査で診断へ

 身体所見や鑑別疾患から,本症例では先天的な線毛機能不全症候群(PCD)が疑われました。詳細な問診で,患者は若い頃に不妊症の検査で精子の運動機能低下を指摘されていたと判明しました。さらに,副鼻腔炎の存在(図4A),内臓逆位,胸部画像所見から,Kartagener syndromeが最も疑われました。

図4 副鼻腔のCT画像(A)と気道粘膜生検の電子顕微鏡画像(B)(クリックで拡大)

 呼気NO値は好酸球性の気道炎症を反映しますが,健常者と喘息患者の鑑別は22 ppbとする報告があります5)。しかし,本症例の呼気NO値は5 ppbと著明に低値であり,患者の喘息様症状と呼気NO値の乖離はPCDを疑う所見と考えることもできます。

 PCDの確定診断には,鼻粘膜や気道上皮の粘膜生検で線毛の短軸像を電子顕微鏡で観察します。本症例では気道上皮の粘膜生検で線毛の9対ある周辺微小管のouter dynein armとinner dynein armの欠損を認め(図4B),Kartagener syndromeと診断しました。本疾患の線毛異常にかかわる遺伝子変異は種々知られていますが,Kartagener syndromeは常染色体劣性遺伝であり,その検索は患者の同意も得た上で行うべきデリケートな問題です。

POINT

●気管支拡張像を見たら,基礎疾患の有無を十分に考慮しよう。
●遺伝性疾患が疑われたら,患者の同意の下,丁寧な問診と検査を行おう。

(了)

参考文献
1)Radiographics. 2015[PMID:26024063]
2)Chest. 2007[PMID:17296657]
3)Eur Respir J. 2000[PMID:10678613]
4)J Gen Fam Med. 2016[doi:10.14442/jgfm.17.3_238]
5)Allergol Int. 2011[PMID:21502803]

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