医学界新聞

インタビュー

2018.02.19



【interview】

脳卒中リハビリテーションの機能回復を見通す
脳画像の読み方・生かし方

前田 眞治氏(国際医療福祉大学大学院教授・リハビリテーション学)に聞く


 脳卒中患者のリハビリテーション(以下,リハ)において,「障害された機能の回復」と「残存機能の代償的活用」のどちらのアプローチを取るべきか,自信を持って判断できるだろうか。厚労省の理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会では,こうした判断に有用な「画像評価」の必修化が議論されている。画像情報を生かしたリハが本格的に求められる時代を迎えた今,『《標準理学療法学・作業療法学・言語聴覚障害学別巻》脳画像』(医学書院)を執筆した前田眞治氏に,セラピストに求められる脳画像の読み方と生かし方をお話しいただいた。


――1991年,理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)養成課程を北里大が立ち上げた時,前田先生は脳画像教育を全国に先駆けて導入したそうですね。

前田 はい。大学教育として新たな特色を打ち出そうと,養成課程で高次脳機能障害学の講義を始めました。それまで臨床でセラピストと脳画像を見ながらリハ計画を立てていた経験から,画像評価を教える必要性を感じていました。

――画像評価は養成カリキュラム改定で必修化される見込みです。

前田 当然の道筋だと思います。中でも脳画像の読み方を習得する必要性は高いです。セラピストの介入は運動能力,判断能力,言語能力などの高次脳機能と強く結び付いています。リハを要する原因の多くを脳卒中が占めるため,リハの専門職には,脳の障害部位に応じたリハが求められます。

――どのように脳画像をリハに活用すべきでしょうか。

前田 脳画像をもとに,障害部位・残存機能に合わせたオーダーメイドのリハを提供し,介入タイミングを最適化することで患者さんを早く回復に導いてほしいですね。

障害された機能が回復するか否かを早期に判断できる

――オーダーメイドのリハとはどのような考え方ですか。

前田 患者さんに現れている障害の原因を脳から探り,適切な戦略を選ぶことです。基本的なアプローチは2つあります。障害部位の機能回復訓練と,それが不可能な場合に残存機能を活用する代償的訓練です。どちらを行うべきかの判断には,圧迫などの要因で疾患部位の神経が一時的に働けないだけなのか,死滅して回復が望めないのかを見極める必要があります。

 脳画像の読み方を習得すれば発症後早い段階にこれを判断できます。例えば,図1は脳内出血当日の画像です。右上下肢の麻痺が出ていました。

図1 被殻出血当日のCT(『脳画像』p.116より。他の図,表も。矢印を追加)

――この一枚の画像だけで,麻痺の回復可能性がわかるのですか。

前田 はい,わかります。これほどの出血でも内包に損傷はありませんね(矢印)。ですから機能回復訓練を早期に始めるべきです。実際にこの患者さんには3日目から訓練を行い,後遺症もほぼなく2か月で日常生活に復帰しました。残念ながら回復困難な例であっても,早期から代償的なリハを始めれば患者さんのためになります。

 さらに,損傷の深さに注目すれば回復過程をより細かく予測できる場合もあります。髄質と比べて皮質のほうが神経の可塑性が高いので,同じ神経の損傷では浅い部分の損傷のほうが早期に治療効果が出やすいのです。

――奥が深いですね。オーダーメイドという観点で,脳画像からわかることが他にあれば教えてください。

前田 患者さんの症状を脳画像と照らし合わせる読み方もあります。脳に損傷がなければ,症状の原因は脳以外にあると推定して治療を進められます。さらに,患者・家族へ病状を説明するときにも,障害が出る理由を踏まえて的確に話すこともできます。

画像の変化から最も効果的なリハ介入のタイミングがわかる

――介入タイミングの最適化について具体的に教えてください。

前田 例えば脳内出血の場合,急性期(~発症後3日)と亜急性期(3日~2週間)では行うべきリハが全く異なります。急性期は血腫と,周辺細胞のむくみによる圧迫で付近の神経は活動できません。この時期は障害部位のリハにあまり意味がないのです。

 しかしその後,圧迫が解消され始める亜急性期は神経機能が急速に回復します。ここが積極的なリハのチャンスです。このとき,脳画像には明確な変化があります。

――どう変わるのでしょう。

前田 MRIのT1強調画像はのように推移します。圧迫の解消が周辺細胞の水分子の動きを変えることと,ヘモグロビンの変化によって画像では色が変わります。この「白いリング」が積極的な機能回復訓練を開始する目印です(図2)。

 出血部位(血腫)の経時的変化(一部改変,p.89)

図2 脳内出血のMRI

――「白いリング」が出る前の急性期にはどのようなリハが求められますか。

前田 例えば,左半身の運動機能は主に右脳が支配しますが,左脳も10%程度を支配します。右脳の脳内出血の場合,リングが出る前の急性期には障害されていない左脳由来の10%を訓練し,リングが現れた亜急性期から右脳を鍛える方法が最適です。その際は念のため,左脳に過去の損傷がないことを画像で確認したほうがよいですね。

二次元画像から部位を特定し,症状と対応させる力が必要

――画像の有用性はよく理解できました。セラピストが脳画像を読む上で,必要な知識や能力は何ですか。

前田 損傷部位を特定し,症状とリンクさせるスキルが必要です。脳の各部位の機能とそれらに関連する神経線維の位置を把握するだけでなく,画像という二次元情報をもとに脳の部位を推定する能力が求められます。

――何から学べばよいでしょうか。

前田 まずは正常像をきっちり把握するべきでしょう。異常は正常との比較で見極めるしかありません。

――初学者がつまずきやすい点と読むコツを教えてください。

前田 始めは二次元画像から三次元的に脳の障害部位を読み取るのが難しいと思います。重要なのは,脳の水平断にはそれぞれの水準で目印があるので,それをしっかり覚えることです。特に一次運動野のうち,頭頂付近は手や足をつかさどる重要な部分です。セラピストこそ読めるようになってほしいです。

――セラピストや指導教員には何を期待しますか。

前田 診断を行う医師に必要なのは出血や梗塞の有無を確認する読み方ですが,セラピストに求められる読み方は異なります。脳機能に着目し,機能的な予後を見通さなければなりません。知識と判断力を身につけ,予後を脳画像から推定し,最適なリハを患者さんに提供してください。

 教員にはCT,MRIといったモダリティや,経時的変化による画像所見の違いを踏まえた指導を期待します。臨床経験豊かな教員であれば,脳画像を活用した事例を交え重要性を伝えていただければと思います。

(了)


まえだ・まさはる氏
1979年北里大医学部卒。83年同大大学院医学研究科博士課程修了。81年より神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢病院にて脳卒中患者を中心に診療。83年より北里大医学部専任講師として幅広い疾患のリハ経験を得る。91年,同大が私立大学として全国初のPT・OT・ST養成課程(医療衛生学部リハビリテーション学科)を開講した際,助教授として高次脳機能障害学を講義。同大東病院リハビリテーション科科長を経て2005年より現職。「リハはチーム医療」との信念から,医学部卒業以来,医局ではなくリハビリテーション部に常駐し,セラピストとの緊密な関係構築を大切にしている。

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