医学界新聞

連載

2018.02.12



身体所見×画像×エビデンスで迫る
呼吸器診療

肺病変は多種多彩。呼吸器診療では,「身体所見×画像×エビデンス」を駆使する能力が試されます。CASEをもとに,名医の思考回路から“思考の型”を追ってみましょう。

[第8回]肉芽腫性疾患を考える

皿谷 健(杏林大学呼吸器内科 講師)


前回からつづく

CASE 37歳米国人女性。2年間,乾性咳嗽があった。胸部X線検査で異常を指摘され紹介受診。数か月前から目がかすんでいる。2年前の健康診断では異常を指摘されていない。

 Vital signsは問題なし。身体所見は両肺野にlate inspiratory cracklesを聴取。内服薬なし,既往歴なし。胸部X線で両肺野に淡い浸潤影と粒状影を認めた(図1A)。胸部CTでは両側の気管支血管束の肥厚,静脈やリンパ路に沿った微細粒状影,縦隔リンパ節腫大と右側に少量胸水と右下葉のコンソリデーションを認めた(図1B,C)。肺癌と癌性リンパ管症も疑われたため,右下葉のコンソリデーションの部位でCTガイド下肺生検を施行したところ,非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の所見が得られた。

図1 胸部X線画像(A),CT画像(B,C)

肉芽腫性肺病変の原因は?

 肉芽腫はマクロファージ系の細胞を中心にさまざまな炎症細胞が集積して形成される,境界が明らかな慢性炎症病巣です。類上皮細胞で形成されるものを類上皮細胞肉芽腫と呼びます。

 肉芽腫性肺病変は,急性の経過で生じるHot tub lung(24時間循環型ジャグジー浴槽からの非定型抗酸菌の吸入)や過敏性肺炎が原因の場合もありますが,比較的経過の長い疾患から生じることもあり,鑑別に挙げるべき疾患は多岐にわたります。鑑別に挙げるべき疾患を図2のようにざっくりと分類しておくと良いでしょう。

図2 肉芽腫性肺病変の鑑別診断(クリックで拡大)

 壊死を伴わない非乾酪性類上皮細胞肉芽腫はサルコイドーシスで有名ですが,その他の多くの疾患でも認める所見です。壊死を伴う血管炎や結核,真菌感染により形成された場合には,数週から数か月,中には年余にわたる経過を示すことがあります。肺組織が気管支鏡で得られても,壊死の有無のみで疾患を必ずしも分類できるわけではなく,細菌学的検査や生化学的検査,身体所見,病歴を踏まえて診断していく必要があります。第1回(3231号)で紹介した,鑑別の“思考の型”やVINDICATEの分類を思い出しましょう。

 サルコイドーシスは原因不明の疾患ですが,ぶどう膜炎による霧視,結節性紅斑などの皮膚病変を契機に診断される症例が多く,肺病変や縦隔リンパ節腫大があっても無症状であることが多いです。サルコイドーシスの肺外症状は多彩です。筆者らは,筋サルコイドーシス1)や突然の骨折を契機に判明した骨サルコイドーシス2)を診た経験があります。筆者のドイツ人の友人の話では,ドイツ人は肝酵素の上昇を伴う肝サルコイドーシスが多いそうです。肺外病変で最も注意すべきは房室ブロック(心臓サルコイドーシス)で,特にアジア人で突然死が多いことが知られています。本症例は,他臓器の障害はなく,肺サルコイドーシスと診断されました3)

 肉芽腫性肺病変の診療では,職歴や住環境から吸入抗原を探ることが重要です。サルコイドーシスの他にも感染症を必ず鑑別に挙げましょう。最も遭遇することが多いのは抗酸菌感染症です。

 また,特に細胞性免疫不全の場合,ニューモシスチス肺炎(PCP)やクリプトコッカス感染症を疑います。同一肺葉内に多発する結節影を見たらクリプトコッカス感染症を必ず鑑別に挙げるべきですが,免疫正常者の場合でもコンソリデーションのみが出現することがあります。

 アスペルギルスが原因で肉芽腫が生じるのはアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の場合が多く,必然的に気管支周囲に肉芽腫が生じます。背景肺に気腫化があると,一見,癌のように見えてしまいます。肺切除をしたらアスペルギルスによる壊死性肉芽腫だったということも経験しました4)。肺気腫があると肺の異常陰影はかなり修飾を受けるので要注意です。

 真菌のうち,ヒストプラズマ,コクシジオイデス,ブラストミセスは風土病であり,海外渡航歴や現地で何をしたかの聴取が非常に重要です。

 血管炎関連の好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA),多発血管炎性肉芽腫症(GPA),肺リンパ腫様肉芽腫症では,胸腔鏡下肺生検や肺切除術で肺組織が広く得られないと診断は困難です。リウマチ結節は関節リウマチの活動性の高い症例に出現しやすく,血管炎を伴った場合はPET-CTでの集積が強くなり,術前に肺癌との鑑別が問題となります。われわれの検討では,関節リウマチの活動性(DAS;disease activity score)とPET-CTの集積の程度(SUVmax)との関連はなく,むしろ組織の血管炎の活動性の有無に影響されるようです5)

画像からのアプローチ

 外周が濃く,内部にGround glass opacity(GGO)を伴う病変をReversed halo sign(RHS)と呼びます(図3A)。病理学的には,GGOは肺胞隔壁の炎症と肺胞腔内での細胞浸潤,外周は器質化肺炎に相当すると言われ,サルコイドーシスを含む種々の疾患で出現します。MRSA感染による三尖弁心内膜炎の疣贅(ゆうぜい)でRHSを呈した肺塞栓症を経験して驚いたことがあります6)。RHSは疾患特異的なサインではありませんが,症状,病歴,宿主の免疫状態を踏まえて鑑別診断を絞ることが可能となります(図47)

図3 Reversed halo sign(A),Galaxy sign(B),Cluster sign(C)

図4 Reversed halo signを呈する疾患群(クリックで拡大)

 また,中心に存在する大きい惑星のような結節と周囲の微細粒状影が銀河を想像させるGalaxy sign(図3B),粒の集合体であるCluster sign(図3C)についても押さえておきましょう。粒の一つ一つは肉芽腫に相当するとされています。これらのサインを見たら真っ先にサルコイドーシスと肺結核を鑑別に挙げましょう。われわれの検討では,サルコイドーシスは肺結核よりも圧倒的にGalaxy signの出現頻度が高いです8)。Cluster signは肉芽腫が完成されているためか,肺結核では排菌しにくい印象がありますので,診断にはより一層注意が必要です。

POINT

●肉芽腫性肺病変の鑑別は多岐にわたる。VINDICATEの分類で整理しておこう。
●Reversed halo sign,Galaxy sign,Cluster signを診断に役立てよう。

つづく

参考文献
1)BMJ Case Rep. 2014[PMID:24916984]
2)BMJ Case Rep. 2014[PMID:24711466]
3)Intern Med. 2007[PMID:18057771]
4)Pulm Res Respir Med Open J. 2015[doi:10.17140/PRRMOJ-2-111]
5)Mod Rheumatol. 2013[PMID:22669597]
6)JMM Case Rep. 2015[doi:10.1099/jmmcr.0.001628]
7)Lung. 2012[PMID:22573292]
8)Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis. 2016[PMID:27758990]

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