医学界新聞

連載

2017.10.09



身体所見×画像×エビデンスで迫る
呼吸器診療

肺病変は多種多彩。呼吸器診療では,「身体所見×画像×エビデンス」を駆使する能力が試されます。CASEをもとに,名医の思考回路から“思考の型”を追ってみましょう。

[第4回]膠原病肺の鑑別

皿谷 健(杏林大学呼吸器内科 講師)


前回からつづく

CASE 31歳女性,1か月前からの労作時呼吸困難,乾性咳嗽を主訴に受診。前医で非定型肺炎が疑われ2週間ほどマクロライド系抗菌薬が処方されたが,症状は改善せず。意識清明,来院時のvital signsは体温37.8℃,血圧98/64 mmHg,脈拍116回/分,呼吸数28回/分,SpO2 94%(3L鼻カヌラ)。関節痛,筋肉痛の訴えはないが,顔面頬鼻部に淡い紅斑,両手指関節背面・両肘関節伸側・左膝関節伸側に角化性紅斑,両側の母指尺側と示指・中指の橈側に落屑と亀裂を伴う角化性病変を認めた。両側下肺野肺底部にfine cracklesを聴取。両下肢の筋力が5分の4に低下。胸部X線では両下肺野を主体にすりガラス陰影,浸潤影を認め,胸部CT上は両側肺底部主体に非区域性に広がるコンソリデーションと牽引性の気管支拡張を認めた(図1)。

図1 胸部X線(左),CT画像


病歴と経過からのアプローチ

 生来健康だった主婦に生じた,亜急性から急性に増悪したと考えられる肺異常陰影です。肺異常陰影があった場合,心不全がmoderateに除外されたら,鑑別すべき病態として①感染症,②吸入抗原関連,③薬剤性肺炎,④特発性間質性肺炎が筆頭に挙げられます(図2)。第1回(3231号)のVINDICATEを参照しましょう。

図2 膠原病肺の鑑別診断(クリックで拡大)
APS:抗リン脂質抗体症候群,DM:皮膚筋炎,GPA:多発血管炎性肉芽腫症,JRA:若年性関節リウマチ,MCTD:混合性結合組織病,RA:関節リウマチ,RP:再発性多発性軟骨炎,SjS:シェーグレン症候群,SLE:全身性エリテマトーデス,SSc:強皮症,PM:多発性筋炎

 図2の「症状」の項目が陽性の場合は膠原病肺の可能性に特に注意しますが,④は常に除外診断であるため,他疾患の可能性を充分吟味する必要があります。本症例では①ならマイコプラズマ肺炎を最も疑いますが,1か月におよぶ長い経過と非区域性の画像所見が合致しません。③の被疑薬や健康茶,サプリメントなどの摂取はありません。②では慢性過敏性肺炎なども考えますが,吸入抗原に暴露される職歴や,鳥などとの接触もありません。

身体所見を再考する

 レイノー症状は数分~数時間続くことがあり,primaryとsecondaryに分けられます1)。Primaryはレイノー症状の89%を占め,30歳未満の若い女性に多いです。爪上皮の毛細血管係蹄の出血や増生などの異常がなく,炎症所見や抗好中球細胞質抗体が陰性の場合,問題はありません。一方,secondaryはレイノー症状の11%を占め,30歳以上で基礎疾患を疑う何らかの症状や徴候を持ち,指の痛みを伴う場合が多いです。つまり,幼い頃からレイノー症状がある場合は膠原病らしくないと言えます。

 爪は全身疾患の窓とも言われます。爪上皮の延長・出血点,爪周囲紅斑は手指と併せてよく観察します。筆者の経験では,爪の色や指の形は注意して見ていると膠原病以外の診断でも有用です2~4)。本症例ではGottron徴候と四肢伸側の紅斑があり皮膚筋炎を疑います。さらに両側母指と示指/中指の橈側の角化性病変は機械工の手(mechanic’s hands)と呼ばれます。われわれの検討によると,機械工の手はDM/amyopathic DM,抗ARS抗体症候群を強く疑う所見であり,他の皮膚病変がなく単独で出現することもあれば,爪周囲紅斑やGottron徴候,heliotrope rashとともに認めることも多いです5)

 本症例は抗MDA-5抗体が後に陽性と判明し,amyopathic DM(筋症状の乏しいDM)と診断しました。この抗MDA-5抗体はamyopathic DMに特異的であり,肺病変が急激に進行する可能性が高いことを示唆します6)。眼病変や口腔内のびらん,潰瘍の有無を含めて全身をしっかり診察することは大事であり,粘膜障害や皮疹は膠原病と決めつけずに傍腫瘍症候群の可能性も一度は考えましょう7,8)

画像所見からのアプローチ

 画像所見は膠原病肺の分類で重要な役割を果たします。細かいことはさておき,UIP,OP,NSIPの3つのCT所見は覚えましょう(図3)。UIP patternは蜂巣肺と呼ばれる線維化が強いタイプの所見,OP patternは器質化を示唆するコンソリデーションが非区域性に広がる所見,NSIP patternは気管支血管束周囲に広がる陰影です。UIP patternは治療が効きにくく,新たな線維化巣(fibrotic fociと呼ばれる)と完成された線維化が混在しているのが特徴です。OP,NSIPはどの病変をとっても同様に変化し,時相が一致し,治療が効きやすいことが多いのが特徴です。

図3 膠原病肺の画像所見から考えられる疾患(クリックで拡大)
APS:抗リン脂質抗体症候群,DAD:びまん性肺胞障害,DM:皮膚筋炎,MCTD:混合性結合組織病,NSIP:非特異性間質性肺炎,OP:器質化肺炎,PM:多発性筋炎,PMR:多発性筋痛症,RA:関節リウマチ,SjS:シェーグレン症候群,SSc:強皮症,SLE:全身性エリテマトーデス,UIP:通常型間質性肺炎

 本症例はOP patternであり治療が効きやすい疾患群が多いのですが,その中で唯一,最も治療抵抗性であり急激な肺病変の進行のリスクが高いamyopathic DMであったわけです。詳細な身体診察と臨床経過,抗体検査から診断が可能となった一例でした。パターン分類に慣れたら,膠原病の各疾患においてどういった肺野病変や気道病変が多いのかを認識することが,他疾患との鑑別にも重要です9)

POINT

●膠原病肺の診断では,他の疾患との鑑別に特に注意しよう。
●レイノー症状のprimary/secondaryを押さえよう。
●爪の色や指の形など,全身をしっかり診察しよう。
●UIP,OP,NSIPの3つのCT所見を覚えて,診療に活かそう。

つづく

【参考文献】
1)BMJ. 2012[PMID:22315243]
2)Intern Med. 2015[PMID:26278312]
3)Intern Med. 2008[PMID:18344651]
4)BMJ Case Rep. 2013[PMID:24081602]
5)BMC Res Notes. 2014[PMID:24886713]
6)Intern Med. 2012[PMID:22449688]
7)BMJ Case Rep. 2015[PMID:26002672]
8)J Clin Oncol. 2011[PMID:22042943]
9)Oncologist. 2013[PMID:23404815]

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