医学界新聞

2017.09.18



Medical Library 書評・新刊案内


ENGアトラス
めまい・平衡機能障害診断のために

小松崎 篤 著

《評者》 山本 昌彦(東邦大名誉教授)

ENGの重要性を再認識させる著者渾身の一冊

 このたび,医学書院から『ENGアトラス』が出版された。著者は小松崎篤先生(東医歯大名誉教授)である。

 小松崎先生は,わが国のめまい・平衡障害疾患を牽引してきた先生で,この世界では知らない人はいない。先生は,私の師匠であり恩師である。既に大学を退職されてから20年近くになった今,なぜENG(electronystagmography)なのだろうか。また,このような400ページを優に超える著書の中に芸術的とも言える700余枚のENG記録を収録して出版されるエネルギーに,弟子の私は唖然となり,内容を見て二度三度と感激している。

 先生はENG機器が真空管で作られた時代からトランジスタ・半導体になって安定性が得られるようになった現在までENGの電子情報技術産業協会(JEITA)規格や機器の改善に尽力されており,現在でも必要に応じて自ら外来でENG記録を行っている。そのためENGの性質については全てを熟知し,その知識を網羅した著書と言うことができ,ENG記録の基本から高度な診断力を要する異常眼球運動までがこの一冊に凝集されている。

 現在は,赤外線ビデオカメラによる眼振や異常眼球運動の観察が多く行われるようになってきたが,VTR記録をしていなければ戻って再観察することはできない。記録した動画を何度も反復させるのも面倒な操作である。また,同じ動画の眼球運動を何度も繰り返して観察しなければ,どのような異常を示しているのかがわかりにくい場合も多々ある。ENGは,記録紙を広げることで,じっくり判断が可能である。赤外線ビデオカメラとENGについては,それぞれの利点・欠点はあるが,それぞれの欠点を補うためには双方での検査記録が重要である。従来のENGの欠点として回旋性眼振の記録ができないことが挙げられる。一方,赤外線ビデオカメラ,あるいはそれを利用した回旋性眼振の記録器も臨床に応用されているが,閉眼時の眼球運動の記録ができないことが欠点で,特に末梢前庭系疾患では暗所開眼より閉眼で暗算負荷のほうが眼振の出現率が大きいことは本書でも示されている。

 ENG検査は,現在,臨床検査技師による生理機能検査部門として行われるようになってきた。医師が週に1~2件の検査を行うくらいではなかなかきれいで正確なENG記録はできない。長くENG検査を行ってきた臨床検査技師は,安定した記録ができ,さらに経験を積むに従ってきれいな記録ができるようになっている。耳鼻咽喉科がめまい疾患の紹介を受ける機会が多くなっている現在,病院などの医療機関には十分なENG検査ができる設備が必要である。小脳の変性疾患の早期発見は,ENGなしには進まない。

 重大な疾患を見逃すわけにはいかないと言われるこの時期に,ENGにかかわる専門書が出版されたことは,今後の診療形態に改めてENGの重要性を再認識させてくれる。耳鼻咽喉科医はもとより,神経内科医,脳神経外科医,眼科医には必携の書である。また,ENGの記録の見本となるアトラスがふんだんにあり,臨床検査技師にもわかりやすい。さらには,めまい・平衡障害の疾患についての説明が網羅されており,医師のみでなく臨床検査技師,看護師などにも推薦したい書である。

A4・頁448 定価:本体8,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02131-9


臨床検査技師のための 血算の診かた

岡田 定 著

《評者》 徳竹 孝好(長野赤十字病院輸血部課長補佐/骨髄検査技師)

初学者からベテラン技師まで血算を読むスキルが上がる

 本書の特徴は,①豊富な症例の提示,②血算データのわかりやすい解説,③異常がみられた場合の検査技師の役割,④医師が異常を見逃す可能性があること,⑤医師も検査技師も異常を見逃してしまった場合,など,血算データをどう読むかで患者の診断と治療がいかに正しい方向に進められるかを解説している本である。各症例に医師と検査技師の見逃しやすさについて,それぞれ星マーク3つで示されている点も面白い。

 私が岡田定先生に初めてお会いしたのは2013年の冬である。面識もない私の手紙一つで,長野県臨床検査技師会の「信州血液セミナー」の講師として,湯田中温泉まで駆け付けてくださったことに役員一同感激したことを思い出す。さらに,当時先生が出版された『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方1)の内容の一部を,症例を提示しながら熱心に講演いただいたことが昨日のことのように思い浮かぶ。またクームス試験(抗グロブリン試験)を考案したCoombs先生は「クーム」と読むことを教えられ参加者は皆驚いた(本書にも「クーム試験」と記載されている)。

 『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方』は,臨床医向けに書かれた本ではあるものの,われわれ臨床検査技師にとっても血算を通して疾患や病態を把握するには十分な参考書だった。しかし今回,姉妹品として『臨床検査技師のための血算の診かた』を出版された。先生の検査技師への思いが感じられる。前書もそうであるが,本書もその構成がユニークでとてもわかりやすい。前書は「血算データの提示」「一発診断」「確定検査」「最終診断」という構成であったが,本書は「血算データの提示」「どのような疾患や病態を疑うか」「検査技師としてどう行動するか」「最終診断」「医師はこのように見逃す」「医師も検査技師も見逃してしまったら」という構成であり,まさに検査技師が日常行う仕事を,質の高い検査データとして報告できるように導いてくれる手順書となっている。

 症例提示の他に,「column」として先生の臨床医としての経験談が随所にちりばめられている点も興味が湧く。また採血量が多くシリンジで一気に採血して採血管に分注する際,混和不足で血球が沈んでしまうとヘマトクリットが偽高値あるいは偽低値になる現象や,日常の検査でのピットホールも記載されていてとても参考になる。

 ただ一点おこがましくも要望するならば,検査データに単位が表記されていればさらにわかりやすいと思われる。検査技師は単位と有効桁数に人並みならぬこだわりを持っている人が多い。赤血球数が400×104/μLと表記するか4.00×109/mLと表記するかで単位も変わってくる。

 終わりに,血算は病気の診断・予後予測,治療方針決定と治療効果の判定全てにかかわる有用な検査である。本書を利用することで,血算を読むスキルが上がることは間違いない。初学者からベテラン技師まで幅広い経験の臨床検査技師に本書の一読をお勧めしたい。

1)岡田定.誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方.医学書院;2011.

B5・頁184 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02879-0


多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017

日本神経学会 監修
「多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン」作成委員会 編

《評者》 黒田 康夫(福岡記念病院院長)

必携・必読の新診療ガイドライン

 日本神経学会監修の『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』が出版された。同学会は2010年に多発性硬化症治療ガイドラインを作成しているが,今回のガイドラインは患者および家族も対象にし,治療だけでなく診断,検査さらには医療経済,社会資源まで診療全般に関するガイドラインになっており,改訂版ではなく内容構成が全く異なる新ガイドラインである。

 特徴は診療において問題になる重要事項を漏れなく質問し,回答するQ & A形式で作成されていることである。回答は1990~2015年の25年間に発表された両疾患に関する全ての論文を医学文献検索専門家と疫学専門家も加えた作成委員会で検討した上でなされている。検索された論文には本邦からの小規模の研究報告も無視せずに含まれている。これらの論文を基にしてガイドライン作成委員会は委員の意見が一致するまで協議し,有効のエビデンスがあると意見が一致した治療法は強弱をつけた推奨度を付して紹介されている。作成委員間で意見の一致が得られないあるいは有効の根拠がまだ不十分な治療法は推奨度を付さずに紹介されている。

 多発性硬化症では疾患修飾薬による再発予防が主流になっているが,その種類,効果,副作用,投与方法および薬価まで詳細に説明されており,薬剤の選択に際して極めて参考になる。また両疾患ともにしびれ,運動麻痺,排尿障害など神経症状が急性期を過ぎても残存することが多いが,有効な対症治療法も推奨度を付して紹介されているのでありがたい。

 今回のガイドラインは患者および家族も対象にして作成されており,医療費補助など利用可能な医療福祉制度が手続きの仕方を含めて紹介されている。さらに診療する医師にとっては,両疾患で行う特殊検査が何回まで保険適用になるかが記載されているので極めて有用である。

 本書は多発性硬化症,視神経脊髄炎の診療に関する全てを網羅した秀逸なガイドラインである。このようなガイドラインを作成された松井真委員長および作成委員の諸先生のご努力に敬意を表し,深謝したい。本書は患者,家族を対象にしているので非常にわかりやすく記述されており,医師だけでなく,医学生,看護師,介護士などの医療福祉関係者の方々にも強く推奨する必携・必読書である。

B5・頁352 定価:本体5,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03060-1


組織で生きる
管理と倫理のはざまで

勝原 裕美子 著

《評者》 浅井 文和(医学文筆家/元朝日新聞編集委員)

組織の倫理的問題を考える道しるべに

 広告代理店大手,電通で起きた新入社員の過労自殺が昨年,大きな社会問題になった。会社と上司は労働基準法違反の疑いで書類送検され,社長は引責辞任した。この会社の中には,異常な長時間労働を「なんか変だ」と感じていた社員はいたことだろう。それでも,「やっぱり変だ」と問題提起して組織を変えようとした社員はいなかったのだろうか。

 本書は,組織の倫理に関する研究書であり手引書だ。組織で起きる倫理的ジレンマについて,具体的な事例を基に検討し,倫理的な意思決定をするためのプロセスを論じている。著者は大学教員を経て,聖隷浜松病院で副院長兼総看護部長を務めてきた。昨年退職され,長年温めてきた研究成果をまとめて本書が完成した。

 検討されている事例は,例えば,看護部長が外科手術での医療事故が隠蔽されている事実を知ったときにどうするか。事例にかかわる医師,看護師ら多くのメンバーの倫理的課題を分解し,整理し,構造を明らかにしていく。読者は提示された問いに答えていくうちに,倫理的な意思決定が身についていくという仕組みだ。

 このような具体例は看護の現場で起きたことなのだが,倫理的ジレンマは看護の世界だけで起きているわけではない。会社や官公庁,学校,病院など,あらゆる組織が倫理的ジレンマを抱えて苦しんでいる。

 現実には,倫理的問題の当事者であってもなかなか直視して取り組めない。どうしていいかわからない。倫理的リーダーシップを発揮できない。意思決定をするのが難しい。「個人的には長時間労働は健康に良くないと思うけど,管理職としては無理をしてでも仕事を期限内に完成させなければならない」などと,異なった役割の間で葛藤する。

 本書で展開される倫理的検討のプロセスは,長く会社組織の中にいた私の目には非常に貴重なものに見える。このような組織倫理の問題を系統立てて論議する機会が日本の会社組織では得難いからだ。組織の倫理的問題をどうとらえたらいいのか,学ぶ機会もほとんどない。経営倫理学について本書が「米国のビジネススクールでは当たり前のように教授されている科目であるが,残念ながら,日本ではいまだに一般的とはいえない」(p.220)と指摘している通りだと思う。

 そういう意味で,本書の読者を病院の看護部長,看護師長だけに限るのはもったいない。ビジネス書として,会社の管理職が読んでも,目の前に直面した複雑に入り組んだ倫理的ジレンマをどう考え,どう意思決定したらよいかのヒントがある。管理者の役割とは何かを見つめ直すことができる。

 倫理的な意思決定のプロセスは,すっきり爽やかに割り切れるものではない。道徳的苦悩に満ちている。時として苦悩の大きさに圧倒されそうになる。だからこそ,道しるべになる本書の価値はかけがえのないものに思える。

四六判・頁328 定価:本体2,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03013-7


皮膚科診断トレーニング
専門医が覚えておきたい100疾患

石河 晃 監修
「臨床皮膚科」編集委員会 編

《評者》 田中 勝(東女医大東医療センター皮膚科部長)

忙しい皮膚科医に最適!診断力向上クイズ

どんな本か?
 本書はひとことで言うと,既に雑誌『臨床皮膚科』に論文としてきちんとまとめられた症例の中から,特に重要と考えられる疾患100症例を抜粋し,クイズ形式でまとめたものである。

 100症例は,皮疹から14の章に分けられ,各問には,難易度を表す★が1~3個付けられている。各症例,表に臨床写真を中心とした問題,ページをめくると裏に組織所見と解説というパターンで構成されている。

 写真と図がメインで文字が少ないという,読者にとって読みやすくうれしい構成である。

誰が読むべきか?
 はっきり言って,皮膚科医全員が読むべきである。

 特に,皮膚科専門医として診断能力を高めたい人と,皮膚科専門医受験前の人には必修である。皮膚科医にとって診断力の向上ほど大切なものはない。

 このような本のありがたみは計り知れない。時間のないわれわれ医師にとって,簡潔にまとめられたクイズ形式の症例集というのは,時間を節約しながら知識の吸収に最大限の効果をもたらすものだ。次の100問が第2集として出版されるのが楽しみでならない。

どのように読むべきか?
 読み方は人それぞれかもしれない。もちろん,端から一気に読むという方法もあるが,私は興味があるところ,気になるところから読み,途中から加速して一気に読み終わるという方法を一つ提案する。

 まず,裏表紙に10×10のマス目を書き,1~100の番号を入れる。目次を見て,最も気になる皮膚症状の項目を選んで,そのページに進む。難易度の★を確認し,初学者は★の問題,診断に自信のある人は★★★の問題を選んで読むのである。1問読み終わったら裏表紙に戻って該当するマス目に斜線を入れる。これを繰り返すうちに,大部分のマス目が斜線で埋まることになり,全部埋めるのが楽しみとなって,最後は学習が加速すること間違いなしである。せっかくの良い本も途中でやめたらもったいない!

お薦めの理由
 本書をお薦めする第1の理由は,“日常診療で遭遇しにくいか,遭遇しても知らなければ診断できないような重要疾患をそろえている”という点である。日常的に頻繁に接する疾患は誰でも診断に迷うことはないが,たまにしか遭遇しない病気というのはよほど日常的に意識していたり,論文を読んだり,学会に参加したりしていないと,頭に浮かばないものである。しかしながら,多くの先生方は日常が極めて多忙であるため,論文を読む時間は圧迫され,次第に減少しているに違いない。だからこそ,本書を利用することで,短時間に効率良く,たくさんの論文を読むことに匹敵する知識が得られるのではないだろうか?

 第2に,写真がきれいで文字が少なめである,という点もありがたい。解答と解説が簡潔で明快である。

 要するに,皮膚科専門医にとって大事な疾患をとても勉強しやすい! ということだ。

B5・頁216 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03198-1

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