医学界新聞

連載

2017.08.21



賢く使う画像検査

本来は適応のない画像検査,「念のため」の画像検査,オーダーしていませんか?本連載では,放射線科医の立場から,医学生・研修医にぜひ知ってもらいたい「画像検査の適切な利用方法」をレクチャーします。検査のメリット・デメリットのバランスを見極める“目”を養い,賢い選択をしましょう。

[第4回]脳神経領域

渡邉 嘉之(大阪大学医学部放射線医学講座)
隈丸 加奈子(順天堂大学医学部放射線診断学講座)


前回からつづく

症例

 80歳女性。高血圧で加療中。本日朝,起床時には異常を認めていなかった。9時半頃トイレの前で物音がして,倒れている所を発見され,救急搬送。11時,来院時にはろれつ困難,右上下肢の麻痺を認めNIHSSは16点であった。緊急の頭部CT()では出血は認めなかった。

 頭部CTで,矢印の範囲に皮髄境界の消失を認める

 研修医AはCTで左中大脳動脈領域に早期虚血変化を疑ったが,所見がはっきりしないため,早急にアルテプラーゼ静注療法を始めるためにも,緊急でMRI精査を行うことを指導医Bに提案した。

急性期脳梗塞治療に必要な画像診断

 『画像診断ガイドライン2016年版』1)では,「急性期脳梗塞患者に対する再灌流療法の適応決定に有用な画像検査は何か?」というクリニカルクエスチョンに対して,各画像検査の推奨度が以下のように明記されています。

●単純CTは出血の除外に有用であり,行うことを強く推奨する(グレードA;強い科学的根拠があり,行うよう強く勧められる)。
 Alberta Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)を用いた単純CTでの早期虚血変化(early ischemic changes;EIC)の評価は血栓溶解療法の適応決定や予後予測に有用であり,行うことを推奨する。

●MRIでもCTと同様に出血の評価が可能である。拡散強調画像はCTに比べ虚血病変の検出に鋭敏であり,EICの評価も容易であり行うことを推奨する(グレードA)。必要最小限の検査とし,治療開始時間が遅れないように留意する。

●脳血管内治療を考慮する場合は,CTAもしくはMRAによる血管閉塞部位を確認することを推奨する(グレードB;科学的根拠があり,行うよう勧められる)。

 また,『rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針第二版』2)では,アルテプラーゼ静注療法に必要な画像診断として,以下が推奨されています。

●単純CTあるいはMRIを用いて,頭蓋内出血を除外し,早期虚血性変化の程度を評価する(グレードA;行うよう強く勧められる)。

●早期虚血性変化が広がるほど症候性頭蓋内出血の危険が増す可能性があるので,広汎な早期虚血性変化を認める患者にアルテプラーゼ静注療法を行うことは推奨されない(グレードC2;科学的根拠がないので,勧められない)

●脳血管評価は必須ではない。しかしながら,アルテプラーゼ静注療法の治療効果は血管閉塞部位ごとに異なるので,慎重投与例などでの適応決定において重要な情報となることがある(グレードC1;行うことを考慮してもよいが,十分な科学的根拠がない)。

必要最低限の画像診断に留め,時間を浪費しない(グレードA)。

読影能力を鍛えれば,CTで正確な評価ができる

 “Time is brain”と言われるように,急性期脳梗塞治療に関しては治療開始時間を早くすることが予後改善に大きく寄与します。上記2つのガイドラインにおいても治療開始時間を遅らせないことが追加検査の条件となっています。CTで急性期脳梗塞が疑われる症例に対して,MRIを施行することでアルテプラーゼ静注開始時間が遅れるのであれば,追加のMRI検査を施行するべきではありません。

 発症6時間以内の超急性期のCT所見として,脳実質の変化である早期虚血所見(皮髄境界消失,レンズ核・島皮質の不明瞭化,脳溝の消失,を参照)と血管内血栓を示す中大脳動脈の高吸収(hyper-dense MCA sign)が知られています。早期虚血変化の有無は血栓溶解療法の適応決定に用いることができます。しかし,淡い濃度変化ですので,的確に診断することは必ずしも容易ではありません。読影者間のばらつきが大きいと言われています3)

 しかしながら読影トレーニングを行うことにより正確な評価が可能とされています4)。特に夜間救急など,放射線科医がいない状態で撮影されたCTは主治医が読影することがあると思いますので,研修医のうちから読影能力を鍛えておくことが重要です(読影トレーニングサイト5)も準備されているのでぜひご活用ください)。

CTを選ぶか,MRIを選ぶか

 『画像診断ガイドライン2016年版』1)では,CTと比較して,MRIはコントラスト分解能が高く,骨からのアーティファクトがないため,中枢神経病変の描出に優れ,頭部領域では第一選択の画像診断とされています。MRIよりもCTが優先されるのは,急性期の脳出血や頭部外傷患者,骨病変や石灰化を評価する場合です。

 急性期脳梗塞診断にはMRIが優れ,特に小さな梗塞巣はMRIのみで描出されます。したがって一部の脳卒中センターなどでは,急性期脳梗塞を疑ったらCTではなく,まずMRI撮影(MRI First),という診療フローを採用している施設も見られます。

 しかしながらMRI装置の設置場所や病院の体制によっては,MRI装置の急性期利用を行っていない施設もあります。例えば,阪大では救命センターとMRI装置の場所が離れているため,急性期脳梗塞の病態評価は単純CT+造影CTAで行います。アルテプラーゼ静注後やアルテプラーゼ静注療法適応外で追加の治療を考慮する場合に緊急MRIを撮像しています。

 急性期に緊急で時間的ロスなく安全にMRIを撮像するためには訓練が必要です。検査をオーダーするに当たり,自身の施設でMRIの急性期利用が可能であるのかどうか,事前に把握しておきましょう。

 頭部疾患に対してCTとMRIのどちらを選択するかは,何を目的とした検査か,あるいは検査結果によって診断・治療がどのように変化するかによって変わります。検査を依頼する前に,検査の目的と,その結果によってその後の診療フローにどのような影響があるかを意識して検査計画を立てましょう。脳神経領域では神経学的所見を詳しく診察することで病変部位の予測ができますので,画像を撮影したら,予測が合っていたかどうか病変を確認する習慣をつけるとよいでしょう。

症例への対応

 指導医BはCTを確認し,左中大脳動脈領域に広汎な早期虚血性変化が見られることを指摘した。広汎な早期虚血性変化を認める患者へのアルテプラーゼ 静注療法は症候性頭蓋内出血のリスクがあるため,CT検査の所見から,アルテプラーゼ静注療法を行わないと判断した。緊急MRI検査ではなく,状態が落ちつき検査体制が整ってから頭部MRIを施行した。


脳神経領域
画像検査適応のポイント

●急性期脳梗塞では最短で画像検査を行い,治療を開始する
●脳神経領域ではMRIが病変描出に優れる
●検査目的を明確にして,CT・MRIの選択を行う

つづく

参考文献
1)日本医学放射線学会編.画像診断ガイドライン2016年版.金原出版;2016.
2)日本脳卒中学会脳卒中医療向上・社会保険委員会・rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法指針改訂部会.rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針第二版.2012.
 http://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA02.pdf
3)Radiology. 2005[PMID:15858087]
4)Neurology. 1998[PMID:9744835]
5)ASIST-Japan.CT&DWI初期虚血変化読影トレーニング.2012.

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