医学界新聞

寄稿

2017.07.31



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
ハイフローセラピーの正しい理解と適応

【今回の回答者】富井 啓介(神戸市立医療センター中央市民病院 呼吸器内科部長)


 ハイフローセラピーは簡便さと機器の安価さから近年ICUや救急外来などの現場を中心に使用が増えてきましたが,2016年度診療報酬改定で1日160点の加算の算定ができるようになりさらに急速に広がっています。従来の酸素療法にはない優れた生理学的効果があり,対象によってはNPPVに匹敵もしくは上回る呼吸管理が行えます。また患者の不快感が少なくQOL維持の上でも有用です。しかし適応や中止判断を誤ると予後を悪くする危険性もあり,大量に消費する酸素や水によるコスト高も懸念されています。


■FAQ1

ハイフローセラピーにはいろいろな呼び方がありますが,どれが一般的に正しいのでしょうか?

 正しくは「高流量鼻カニュラ」(High- flow nasal cannula;HFNC)および「高流量鼻カニュラ酸素療法」を用います。

 近年本療法の使用が急速に拡大したきっかけは,Fisher & Paykel Healthcare社のネーザルハイフロー(NHF)によるところが大きいと考えられます。そのため本療法を商品名である「ネーザルハイフロー」と呼ぶことが多かったのですが,NPPVを商品名の「バイパップ」で呼ぶことを改めたように,これも一般的名称に改める必要があります。診療報酬算定要件の名称としてはより広い意味の「ハイフローセラピー」が用いられていて本稿でも便宜上これを用いますが,この呼称をもとに本療法の内容を把握することは困難です。今般改訂する日本呼吸ケア・リハビリテーション学会『酸素療法マニュアル』(旧・酸素療法ガイドライン)では,「High-flow nasal cannula;HFNC」が学術誌で最も多く使用されていることから,器具名称として「高流量鼻カニュラ」,治療法として「高流量鼻カニュラ酸素療法」とする予定です。本療法のシステムは汎用性があり,その必要条件としては口元で相対湿度100%のガス提供可能な加温加湿器と加温回路,酸素と空気の混合ガスを高流量で提供できるフロージェネレーター,比較的太くて柔らかい専用鼻カニュラの3つと考えられます()。

 高流量鼻カニュラ酸素療法の原理
フロージェネレーターが酸素と空気の混合ガスを高流量で提供し,口元で相対湿度100%のガス提供可能な加温加湿器と加温回路を介して,比較的太くて柔らかい専用鼻カニュラに送達される。(文献1 CC BY,オリジナルより一部改変・翻訳)

Answer…ハイフローセラピーは診療報酬上の名称であり,内容を把握できる一般的用語としては「高流量鼻カニュラ」が適切。

■FAQ2

ハイフローセラピーとしてCPAPもしくはNPPVの機械を用いて行う方法を聞いたことがありますが,それは可能なのでしょうか?

 CPAP・NPPV機で行うことは原理上可能ですが,設定が容易でなく,あくまで代用にすぎません。

 CPAP・NPPVは回路,マスク,気道,肺を含めた閉鎖系で一定の圧力をかけ呼気のみリークを許容しているのに対して,ハイフローセラピーは常時リークが続く開放系であるという違いがあります。CPAP・NPPVは閉鎖系の中で吸気のために必要な流量を自発呼吸に同期させて提供する一種の人工呼吸器ですが,ハイフローセラピーは一定比率の酸素と空気の混合ガスを常時高流量で提供するだけのもので,体外への持続リークによる気道乾燥を防ぐための加湿機能を付属させています。CPAP・NPPVは吸気に必要な高流量フロージェネレーターを備えているので,CPAPモードで開放系の鼻カニュラをつなぐと一定の圧設定に応じて一定の流量が持続して出ます。ただし酸素と空気のブレンダーがないCPAP・NPPV機では,回路内に酸素を別途流入させる必要があり,FiO2は実測するか換算式で計算しなければなりません。また流量設定のない機械では発生する流量を圧設定から換算する必要もあります。

Answer…CPAP・NPPV機を用いてハイフローセラピーを実施することは可能であるが,総流量や酸素濃度の設定は換算式を用いる必要があり,機器も高価となる。最近ではCPAP・NPPVとハイフローセラピー両方のモードで使用できる機種もある。

■FAQ3

ハイフローセラピーは患者にそれほどの苦痛なくFiO2100%まで提供できるメリットがありますが,重症のⅠ型呼吸不全にどこまで使っていいのでしょうか?

 救命を優先する場合は,NPPVや挿管人工呼吸への移行をちゅうちょなく行います。

 器具の装着や設定が簡便なため,ほぼ全てのI型呼吸不全の初期対応としてハイフローセラピーを行うことが可能です。ただしより高いPEEPを提供できるNPPVや挿管人工呼吸にどのタイミングで切り替えるかの判断は容易ではありません。挿管拒否(DNI)やNPPV拒否がなく,総流量4~50Lのハイフローセラピー開始1~2時間程度でPaO2/FiO2比のさらなる悪化があれば,NPPVや挿管人工呼吸への切り替えを検討するのが一般的と思われます。また開始後に呼吸数低下が見られない場合もハイリスクです。

 ちゅうちょなく切り替えを行うためにはそれができる体制のもとでハイフローセラピーを行うこと,切り替えの是非をハイフローセラピー開始と同時にあらかじめ本人,家族と十分に話し合っておくことが重要です。DNIではあるがNPPVまで行う場合でも,もしNPPV切り替え後の苦痛が強ければ緩和的にハイフローセラピーに戻すことも検討すべきです。

Answer…重症Ⅰ型呼吸不全にもハイフローセラピーを初期対応として行っても良いが,酸素化の悪化があればDNI等の意向を確認し,そうでないときは迅速に挿管人工呼吸へ移行する。

■FAQ4

在宅でハイフローセラピーができるようになると,慢性呼吸不全患者に有用と思われますが,克服すべき問題点は何でしょう?

 現時点では在宅でのハイフローセラピーに保険適応はありません。

 在宅使用も可能なハイフローセラピー専用機種がすでに発売されていますが,現時点では保険診療としての在宅使用は認められていません。またCPAP・NPPV機による代用も本来の使用方法や適応と異なるため,CPAP・NPPVとして算定して使用することは保険診療の範囲から逸脱します。

 今後もし在宅使用が可能となった場合に最も有用と考えられるのは慢性II型呼吸不全への適応です。一定のFiO2提供によるCO2ナルコーシス予防,ウォッシュアウト効果によるPaCO2改善,加湿による気道衛生改善,それらに基づくQOL改善や増悪予防などが期待されます。一方,慢性I型呼吸不全では酸素供給量に一定の限界があり,おそらくFiO2 40~50%以上が必要な場合は実施困難と考えられます。また在宅使用に際しては加湿用水の確保も問題となり,精製水の購入や配達方法の検討,水道水使用の安全性についての確認などが必要です。

Answer…慢性Ⅱ型呼吸不全に対する在宅使用が今後期待されるが,現時点では保険適応はなく加湿用水確保の問題解決が必要。

■もう一言

 ハイフローセラピーは呼吸管理の新たな手段として注目され,今後集中治療から在宅までさらに幅広く使われる可能性がある。原理と効果を理解して適応や目的を明らかにし,簡便さゆえの過剰医療とならない配慮が求められる。

参考文献
1)Nishimura M. High-flow nasal cannula oxygen therapy in adults. J Intensive Care. 2015;3(1):15. [PMID:25866645]
2)Chest. 2017[PMID:28089816]
3)COPD. 2017[PMID:28459282]


富井 啓介
1983年京大医学部卒。天理よろづ相談所病院,神戸逓信病院内科部長などを経て,2009年より現職。神戸市立医療センター中央市民病院医療安全管理室長,京大医学部臨床教授兼任。日本呼吸器学会代議員,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会評議員など。

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