医学界新聞

対談・座談会

2017.07.24



【座談会】

排尿自立指導を成功に導く!

平山 千登勢氏(杏林大学医学部付属病院 師長補佐)
中田 晴美氏(小松市民病院 看護副部長)
真田 弘美氏(東京大学大学院医学系研究科 老年看護学/創傷看護学分野教授)=司会
小栁 礼恵氏(東京大学医学部附属病院 看護師長)


 2016年度の診療報酬改定で排尿自立指導料が保険収載された。早期の尿道カテーテル抜去と適切な排尿ケアが実施されれば,尿路感染症の減少やADLの維持,スムーズな在宅復帰の実現が期待される。

 本紙では,排尿自立指導において重要な役割を果たす看護師の目線から,成功に導くためのポイントをお話しいただいた。


真田 今日は3人の先生にお集まりいただきました。保険収載前から独自に排尿自立指導を行い,ケアの有効性を示すエビデンスの構築にも貢献した小松市民病院の中田さん,保険収載後最も早く算定を開始し,現在では取り組みが軌道に乗っている東大病院の小栁さん,多数の壁を乗り越えて今年2月から算定を開始した杏林大病院の平山さんです。

 排尿自立指導料が保険収載されて1年以上が経ちました。しかし,200床以上の病院のうち算定しているのはまだ290施設と,全体の11.8%です(2017年5月時点)。普及に当たってはどのような壁があり,どう解決していけばよいのかを検討したいと思います。

尿路感染が減少,スタッフの意欲向上,患者の負担軽減も

真田 まず,各病院でどのような成果が出ているか教えてください。

小栁 まだ評価の途中ですが,当院では対象部署の尿路感染症発生率が6%から1%に減りました。排尿自立度はもともと高いので数値の変化は出ていません。しかし,これまで以上に積極的に動くようになったと聞いています。

 スタッフの意識にも変化がみられています。以前はカテーテル留置の必要性について疑問を持っていませんでしたが,排尿自立を意識するようになりました。以前はすぐに再挿入していた場面でも,「もしかしたら入れなくてもいいかもしれない。どれぐらいの間隔で経過観察すればいいか」と考えるようになっています。

平山 スタッフの変化は大きいですよね。当院では,手術から予測される障害に応じてケアを考えるようになりました。手術による排尿障害が目に見えてわかるようになり,排尿日誌の重要性を感じているそうです。カテーテル抜去の予定を把握して残尿量測定のための簡易超音波画像診断装置(以下,エコー)の貸し出しを前もって申請してくれたり,排尿量・残尿量から導尿間隔や排尿誘導,介助の方法の見直しを相談してくれたりします。

小栁 診療報酬として評価されるようになったことで,以前から残尿量測定や骨盤底筋訓練を実施していた病棟ではモチベーションが向上しています。

 さらに,排尿自立指導料算定に向けた取り組みが,病院全体の医療の質を向上させる機会になりました。以前は診療科ごとに医師の方針が異なり,尿路感染が生じても抗菌薬を使ってカテーテルを留置したままにしていたり,残尿量測定をエコーでできることが周知されておらず測定のためにカテーテルを挿入したりしていました。

中田 転院先の回復期リハビリテーション病院からは,カテーテルが入ったまま転院した場合と比べ,在院日数の減少や退院時のADL向上がみられると報告されています。車椅子だった人が歩けるようになって帰ることもあるそうです。

真田 排尿自律指導の効果として最も期待したのは尿路感染の減少でしたが,患者さんの苦痛減少やADL向上も非常に重要ですね。そうしたケアを看護師が身につけることは,病院にとっても患者さんにとっても大きな恩恵です。

鍵①:病棟と排尿ケアチームの連絡体制

真田 次に,体制の構築など,取り組みのプロセスを紹介してください。

平山 当院では,排尿自立指導料の算定に取り組むか否かの話し合いから始まりました。看護部からは前向きな返事があったので,算定要件や人員調整について,まずは医事課に相談しました。その後,泌尿器科,リハビリテーション科にも打診し,人選や業務分担の範囲,会議やラウンドの仕方,活動日を相談していきました。さらに,医事課と看護部との調整の中で,皮膚・排泄ケア認定看護師(以下,WOC)だけでは介入が難しいとわかり,各病棟にお願いしてリンクナースを配置してもらいました。

真田 東大病院でも配置していますか。

小栁 人員負担に見合う算定が取れるかわからないため,配置できていません。対象患者さんがいた場合には,師長が排尿ケアチームに依頼します。

真田 リンクナースがいない病棟での工夫はありますか。

小栁 キーとなる師長に負担を掛けずに,スムーズに算定を取れるよう,病棟ごとに体制をアレンジしました。例えば外科系の病棟では対象術式を決め,対象患者を抽出しています。そうした工夫により,徐々に依頼が増えています。今後,褥瘡ハイリスク患者ケア加算のように病院全体として積極的に算定を取る方針になれば,さらに増えるかもしれません。

鍵②:師長への働き掛けとWOC以外の看護師の活躍

小栁 新しいことに取り組むときには,看護管理者への働き掛けが重要です。当院では,褥瘡ハイリスク患者ケア加算への取り組み時に,「そこまでの業務負担をしてまで加算を取る必要があるのか」と不満が出た経験がありました。私自身のポジションパワーもない中で,管理的視点での診療報酬算定の意味を考えられず,ルールだけを述べて「算定してください」と働き掛けていたためです。今回は,まずは部署のメリットとなるように師長のモチベーションを上げ,算定を得たいと自ら申し出てもらうように促しました。

 例えば,尿道カテーテルの留置期間はDiNQLの指標にもなっていますので,病棟の質の評価に役立ちますし,目標管理に入れることができます。臨床研究として取り組むことも可能です。実施のメリットと,それにより師長への評価が上がることなどを伝えていきました。多くの病棟が実施するようになると,他の病棟でも自分たちもやろうという意識が生まれます。

真田 小松市民病院では,看護副部長である中田さんが主導して排尿自立指導が始まったそうですね。

中田 はい。沢山の壁がありましたが,看護管理者があるべき姿を示すことが第一歩だったと感じています。

真田 看護師たちは最初から意欲的だったのですか。

中田 最初は,「尿意を訴えられるたびに残尿量測定器を持っていくのは大変だ」と不満の声があったのですが,今では「きちんと患者さんを把握し,自分たちでアセスメントをした上でカテーテルを抜去したい」とまで言うようになっています。もともとは排尿に関心がなかった看護師たちの変化に,うれしい驚きを感じています。

真田 変化のきっかけは何でしょうか。

中田 成功体験だと思います。入院当初は意識レベルが低く寝たきりだった患者さんがしゃべれるようになり,車椅子にも乗れるようになる様子は,これまではなかなか見られませんでした。

真田 素晴らしいですね。まさに生きることを支える看護です。一般の看護師たちの協力を得るために注意することはありますか。

中田 大切なのは,1事例ずつ積み重ねていくことです。急にたくさんの事例に取り掛かると,排尿ケアに慣れない看護師には苦痛で,“やらされ感”が生じます。実践で経験知が増えていけば,自然と看護師自ら率先して排尿ケアを行うようになります。

真田 比較的計画の立てやすい病棟から順に取り組んでいくなどの工夫も重要ですね。今はどなたが中心ですか。

中田 マニュアルができてからはほぼひとり歩きしていますが,あえて挙げるなら排尿ケアチームのメンバーである一般の看護師です。当院のWOCは一人で,褥瘡ケアでもリーダーシップを取ってもらっています。排尿ケアも任せては負担だろうと考え,他の看護師も含めた3人を専任にしました。

真田 WOC以外が中心になってチームリーダーをできることに意義がありますね。実際にはそうした病院が多いのではないでしょうか。排尿自立指導は,一般の看護師たちに専門的な知識と技術を習得してもらうことが不可欠です。

平山 病院としても一般の病棟看護師にチーム活動の時間を認めているということですよね。週にどのくらい活動しているのですか。

中田 今は週に1回,16時からの30分間をラウンドの時間にしています。

真田 そんなに短時間でできますか?

中田 まだ3部署のみの実施なので対象者が少ないのもありますが,短時間にすることで負担を減らしています。また,毎回チーム全員が参加するのではなく,医師・看護師・理学療法士・薬剤師からそれぞれ1人ずつ持ち回りにしています。3週間に1回のほうが変化がわかりやすく,他の人の点数の付け方を見られるので勉強になります。

鍵③:丁寧なスタッフ教育とやりがいの支援

真田 スタッフの教育はどのように進めたか教えてください。

小栁 まずは排尿自立指導の周知のために,全職員を対象に研修を行いました。各病棟から必ず出席してもらったのは,師長とリーダークラスの看護師各1人,医師1人です。評価やコンサルトの手順といった,病棟で実施してもらうことを,『平成28年度診療報酬改定「排尿自立指導料」に関する手引き』(照林社)に沿ってお知らせしました。

平山 当院では排尿自立指導料算定開始に向けた勉強会を,管理・監督職会で各1回,リンクナースに向けて3回,残尿量測定・排尿日誌の勉強会を各病棟に向けてリンクナースが1回実施しました。残尿量測定・排尿日誌は,実際に介入に取り組んでもらいながらWOCが指導しています。

真田 残尿量測定にはエコーの使用が推奨されています。スキル習得は大変でしたか。

小栁 さほど苦にはならなかったようで,逆に一度覚えたら楽しいという声もあります。残尿量が視覚化されるので,患者さんとも共有できるようになりました。

真田 エコーのスキルは全スタッフが習得しているのでしょうか?

小栁 エコーができるのはWOCと各病棟のリーダー看護師,リーダーに教えてもらったスタッフだけです。他の人とは違うスキルを持っている特別感も,やる気につながっているようです。

鍵④:記録負担の軽減

真田 残尿量測定や排尿日誌による業務負担増を懸念する声を聞くことがあります。そうした点はいかがですか。

小栁 泌尿器科では排尿日誌を付ける習慣がもともとあったので問題ありませんでした。他の診療科では慣れるまでは大変だったようです。

平山 当院でも,特に脳卒中病棟や脳外科病棟から,毎回残尿量を測定するのは難しいと言われました。

真田 脳卒中患者が排尿自立指導の一番の対象ですが,脳外科からは忙しくて時間がないという声をよく聞きます。

平山 機能別看護方式ということもあり,難しいのだと思います。それでも,患者さんがトイレに行きたそうなときにオムツを見てもらうことからお願いしていったところ,今では排尿動作の支援にもつながり始めているようです。

小栁 病棟看護師や師長に新たな業務をしてもらうのは大変ですよね。当院では,できる限り負担を減らせるよう,記録の仕方を工夫しました。具体的には,電子カルテにもともとある温度表に,抜去日と抜去後の排尿回数,排尿量,残尿量といった,「排尿指導に関する診療の計画書」に必要な項目を入れられるようにしています。

真田 DiNQLにも排尿自立指導料の項目が入っていますが,使いやすいですか。

小栁 あのフォーマットは活用できますよね。挿入から抜去までのグラフがわかりやすいです。

平山 当院では排尿日誌はまだ電子化されておらず,紙に書いています。病棟で記載したものを排尿ケアチームが受け取り,コピーしたものを病棟に返すという手間が掛かっています。また,紙は鍵を掛けて看護部に保管しているため,鍵の管理者がいないときには提出も確認もできません。費用がかかるため難しいですが,リアルタイムなケアにつなげられるようシステム部と交渉していきたいです。

鍵⑤:評価の継続

真田 実際に取り組み始めてからの課題はありますか。

中田 尿路感染症発生数の推移を見るため,バルーン挿入から2週間経ったら必ず尿検査を実施することにしたところ,以前より検査対象者が増え,発生数も増えてしまったことです。検査室からクレームがきてしまいました。

真田 以前は調べていなかったため顕在化していなかったのでしょうね。しかし,きちんと評価を続けないと排尿自立指導の成果が示せません。

中田 はい。医師は中止を検討したようなのですが,継続の必要性を説きました。近年では抗菌薬の適正使用の重要性が強調されています。感染管理という観点からも必要なことですので,中止は考えていません。

真田 そうしたチームメンバー間での問題においても,管理者の役割は重要ですね。

平山 評価については,別の課題も感じています。2週間以上入院する方は抜去時とその後の変化がみられ,排尿自立指導の成果がわかるのですが,2週間未満で退院される方は抜去時しか評価できません。

小栁 計画書には1回分の評価表しかないため,抜去後に問題がないかぎり2回目に意識が向かないですよね。当院では計画書を少し変え,算定は取れないものの抜去後しばらくしてから2回目の評価をするようにしました。

真田 今後の課題は転院・退院後のフォローだと感じています。急性期病院は退院が早いため,継続した評価ができませんが,転院・退院先での長期入院中や在宅であれば評価できる可能性があります。

小栁 退院調整時や外来で継続することは可能かもしれません。ストーマや褥瘡は,退院後初回面接があるので退院調整時に外来へ申し送ります。

平山 在宅の場合も引き継ぎ事項としてサマリーに書いておくと,訪問看護師が見てくれます。ただ,転院先の病院や在宅に普及させるためには,地域の医師や訪問看護師への教育も必要だと感じています。

小栁 そうですね。退院調整や見学などで来院したり,講義を依頼されて地域に行ったりすることもありますが,施設によってはそうした機会もありません。地域に向けた教育をすると病院に報酬が入ったり,転院先でもケアを継続する場合には連携料が入ったりといった仕組みがあれば連携が進むのではないかと思います。

真田 排尿自立のケアが継続できない問題は,すでにカテーテルが抜けている状態では排尿自立指導料を算定できないことからも生じています。将来的には,在宅患者訪問看護・指導料の対象になるなど,何らかの算定が付くことを期待したいです。

 排尿自立指導を広めていくには,やはりその意義を示すエビデンスが必要です。排尿自立度や下部尿路機能の点数,感染の発生率,在院日数の変化などの評価に加え,転院先の病院や在宅での状況なども,先駆的に活動している病院から現状のデータをぜひ出していただきたいと思います。

 各病院での排尿自立指導の現状(クリックで拡大)

 東大病院,杏林大病院での排尿自立指導の流れ(クリックで拡大)
排尿自立指導料200点(週1回,6回まで)。病棟看護師等と排尿ケアチームのいずれかしかかかわらなかった週は算定できないため,両方のかかわりを示せるように記録には注意が必要。排尿ケアチームは,上記の他,排尿ケアに関するマニュアルの作成・配布や院内研修を実施する。

(了)


ひらやま・ちとせ氏

1991年博慈会高等看護学院卒。聖マリアンナ医大病院を経て,96年より杏林大病院に勤務。2006年皮膚・排泄ケア認定看護師取得。現在,在職しながら山梨大大学院に在学し,高齢者/排泄看護学を勉強中。算定に向けた取り組みでは,事務や看護部,各病棟・診療科への周知や調整,活動・運営内容の検討,実践者と共に実施・相談・指導などの役割を担う。

こやなぎ・ひろえ氏

1991年東大医学部附属看護学校卒。山梨医大(現・山梨大)病院第一外科,皮膚・形成病棟,東大病院泌尿器・形成外科病棟勤務などを経て,2003年同院副看護師長,08年東大大学院医学系研究科創傷看護学分野修了(保健学修士)。11年褥瘡専任・研究支援担当併任主任副看護師長,13年より現職。皮膚・排泄ケア認定看護師。現在の課題は,排尿ケアチームの実績を出し,予算を立てられるような体制を作ること。

なかだ・はるみ氏

1987年国立金沢病院附属看護学校卒。小松市民病院に入職,2016年より現職。排尿ケアに興味を持ったきっかけは,患者の高齢化が進み,同院の入院患者の75%が65歳以上となる中で2時間ごとのオムツ交換を実施することに疑問を持ったことと,自分自身も年を重ねる中で自分が入院したらどう感じるかを考えるようになったこと。師長就任後,看護部長に問題意識を話す機会を得て,排泄ケア改善に取り組む。12年より金沢大と協働して排尿自立指導の研究を開始した。

さなだ・ひろみ氏

1979年聖路加看護大卒。聖路加国際病院,金沢大病院勤務などを経て,87年クリーブランドクリニック聖路加分校ETスクール修了。89年イリノイ大大学院所属時にブレーデンスケールを翻訳し日本に紹介。97年金沢大にて医学博士取得。同大保健科学科教授,東大大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻老年看護学分野教授を経て,2006年より現職。日本創傷・オストミー・失禁管理学会理事長として,12年より排尿自立指導料の保険収載に向けた取り組みに尽力した。

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