医学界新聞

2017.05.29



Medical Library 書評・新刊案内


アクティブラーニングをこえた看護教育を実現する
与えられた学びから意志ある学びへ

鈴木 敏恵 著

《評 者》大西 安代(神戸看護専門学校学校長)

教員にとって「知の果実園」と言える本

 昨今,教育界において,学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修・アクティブラーニングへの転換が推奨されており,さまざまな教育技法が取り入れられています。

 本書では,能動的な学びに必要なことはアクティブラーニングの教育方法ではなく,自ら学ぶアクティブシンキングであると強調しています。学習者自身が自らアクティブに未来に向かうことができる力を身につけるための方法論,この内容こそが看護教育の中で今,最も関心のあることではないでしょうか。生涯学習が必要である看護師を育成する中で,学習者自身がやる気を起こし,思考を活性化して「自発性」「応用力」「協調性」を養っていくことができれば何とうれしいことでしょう。

 アクティブな看護教育を実現するためには,著者が元来推奨しているプロジェクト学習が必要かつ重要であるとしています。著者は,これまでもプロジェクト学習について良著を出版されていますが,今回は対話コーチング,セルフコーチングについて看護場面での具体例が多く記述され,即,実践に活用できる内容となっていることが特徴と言えます。プロジェクト学習に必要な7条件や教育方法,また,課題発見から解決までの思考プロセスやクリエイティブシンキング,創造的な思考に必要なアクティブな学び,学生の気付き,成長などの発見のためのポートフォリオの活用法についても具体的であり,プロジェクト学習は高度なアクティブラーニングであるとしています。そして,学習者が「自分で自分を成長させる人」になることが究極のゴールであると述べ,そのことは教育する側にとって大変共感できる内容だと言えます。

 本書は全7章で構成されており,第IV章では,プロジェクト学習についてシラバスモデルと共に,4つの提案をしています。中でもキャリアビジョン実現プロジェクトは,ぜひ参考にして,未来の看護師育成に役立たせたい内容の一つです。学習者自身が看護師としてのキャリアプランを立てることで,学習へのモチベーションが高まり,今の教育現場でめざしている主体的な学生の育成につながることが期待できると考えられ,キャリア教育の一環としてもお勧めしたいプロジェクト学習です。第V章では,看護基礎教育のカリキュラム構築や患者理解の思考ツールとして著者が構想した新しい提案をしています。一人の人間を総合的にとらえることを基盤に考え人間の発達段階を基軸にした視覚的思考ツールとして「ライフベクトル」「ライフタイムマトリックス」を紹介しています。非常に興味深い内容で,今後教育内容を考えていく上で参考にしたい内容だと言えます。

 今回刊行された『アクティブラーニングをこえた看護教育を実現する――与えられた学びから意志ある学びへ』は,看護基礎教育に必要なエッセンスとも言える内容がわかりやすくまとめられており,まさに教員にとっての「知の果実園」と言える本です。そして,講演で看護学生や看護師を尊敬し大好きだといつも話される鈴木敏恵先生の看護教育への熱い思いが凝縮された看護教育に活かせる一冊だと言えます。看護教員はもちろんのこと,看護教育に携わる多くの方々にぜひお薦めしたい書籍です。

B5・頁248 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02385-6


感染症プラチナマニュアル2017

岡 秀昭 著

《評 者》坂本 史衣(聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー)

どこを開いても役立つ情報が満載

 ベストセラーである本書,『感染症プラチナマニュアル2017』(プラマニュ)は,感染症診療にかかわる医師が読むものだと思っていませんか? 実は,医療関連感染対策を担う看護師,臨床検査技師,薬剤師,その他の医療職にもプラマニュのヘビーユーザーがいるのです。その中にはもちろん,評者が含まれています。

 われわれ,医療関連感染対策担当の重要な使命の一つは,感染症の伝播を防ぐことです。そのためには,米国疾病対策センター(CDC)ガイドラインに載っている「標準予防策」と「感染経路別予防策」を知っていれば十分,というわけではありません。

 感染症の伝播を効果的に防ぐには,次のような情報が必要です。

・どのような感染症あるいは原因微生物が疑われているか?(感染対策を始める際に,確定診断されていない感染症は多い)
・典型的な症状は?
・リスク因子は?
・診断のために通常行われる検査と解釈の仕方は?
・主要な感染経路は?
・感染性期間(隔離期間)はいつまでか?
・発症するリスクのある接触者は誰か?
・曝露後の感染あるいは発症予防は可能か?

 本書は,われわれが医療現場で遭遇する市中感染と医療関連感染について,これらの情報を網羅しています。となると分厚い本をイメージされるかもしれませんが,本書の大きさは何とスマホ大です。一つの感染症につき,1~2ページの中に知りたい情報が凝縮されています。しかも2色刷り,かつ重要情報には網掛けがしてあり,見やすいレイアウトになっています。ですから,サッと取り出して,サッと調べて,サッと対応するには非常に重宝します。

 このメインの部分もさることながら,個人的にお得だと感じているのは巻末の付録です。血液・体液曝露後の対応,外科的予防抗菌薬の使い方,潜伏期間と感染予防策一覧,予防接種スケジュール,迅速診断検査の感度・特異度一覧などなど,パソコンで検索するよりも早く情報を得ることができます。

 そして最後に,プラマニュには,日常業務で疲れたわれわれの心を鼓舞するかのようなパラパラ漫画が描かれています。本書を手に取った同業者には,パラパラ漫画から見たと言う人が少なくありません。

 長々と書きましたが,言いたいのは,プラマニュはどこを開いても,感染対策担当者にとって役立つ情報が満載だということです。皆さまも,ポケットに,デスクに,あるいは鞄の中にプラマニュを一冊携帯されることをお薦めいたします。

三五変型・頁360 定価:本体2,000円+税 MEDSi
http://www.medsi.co.jp/

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