画像検査の“適切な利用”とは(隈丸加奈子)
連載
2017.05.15
賢く使う画像検査
本来は適応のない画像検査,「念のため」の画像検査,オーダーしていませんか?本連載では,放射線科医の立場から,医学生・研修医にぜひ知ってもらいたい「画像検査の適切な利用方法」をレクチャーします。検査のメリット・デメリットのバランスを見極める“目”を養い,賢い選択をしましょう。[第1回]画像検査の“適切な利用”とは
隈丸 加奈子(順天堂大学医学部放射線診断学講座)
画像検査は,現在の日本の医療にとって欠かせない診療手技となりました。幸いなことに日本は画像診断機器に非常に恵まれており1),画像検査へのアクセシビリティは諸外国に比して良好です。近年の機器やソフトウェアの進歩もあり,医師が求める検査を比較的すぐに施行できるようになりました。
現在,日本では年間2800万件程度のCT検査と,1400万件程度のMRI検査が保険診療で行われています2)。画像検査は診断や予後予測に確実に寄与していると評価される一方で,「適切に利用されていない画像検査」の数も増えたと言われています3)。
適切に行うための6つのプロセス
画像検査を適切に行うとは,下記の全てが満たされることです。
❶適切な患者に
❷適切なタイミングで ❸適切な装置を用いて ❹適切なプロトコルで検査が実施され ❺適切に解釈・診断され ❻解釈・診断にしたがって治療やケアが行われる |
この6つのプロセスのどれか一つでも欠けた場合,その検査は適切な画像検査とは言えないことになります。❸~❺の達成には,撮影側(放射線科医や放射線技師)がその主要な役割を担うことになりますが,❶,❷,❻に関しては,主治医と撮影側のコミュニケーションが主軸を形成します。
❶と❷は,いわゆる「検査適応判断」と言い換えることもできますが,適応のある検査とは,検査結果により診断や治療,ケアの方針が変わり得る検査のことです。すなわち,画像所見がどうであっても,患者の診療方針に全く影響しないような場合は,検査適応はないと言えます。
検査後の診療への影響を考えるに当たり,「検査前確率」は大事な情報です。例えば心電図でST上昇を伴うような胸痛の場合,急性心筋梗塞の検査前確率が非常に高いため,冠動脈CT検査で狭窄の有無を確認するのではなく,通常は血行再建に直結するカテーテル検査の適応となります。逆に,「テレビの狭心症特集を見て心配になった」と来院した無症状の若い女性では,推定される冠動脈疾患の検査前確率が非常に低いため,冠動脈CTの適応はありません。なお,検査前確率に加えて,目的とする疾患の診断精度(感度,特異度など)も適応判断には重要となります。
画像検査のリスクとデメリット
検査適応の最適化が望まれる理由は,画像検査にはリスクやデメリットが考えられるからです。わかりやすいのは放射線被ばく,造影剤の副作用,カテーテル検査では出血などが挙げられます。また,生命に影響を与えないような些細な所見であっても,所見が明らかになることによって患者の“病識”が強まり,生活の質が下がるという報告もあります4)。マクロな観点で言えば,医療費も問題となり得るでしょう。
2011年の原子力安全研究協会の報告によれば,日本国民の1人当たりの実効線量は5.97 mSvであり,医療被ばくはそのうち約65%を占めていました。その大半はCT検査によるものと考えられています5)。この値が多いか少ないかの議論は容易ではありませんが,少なくとも,被ばくというデメリットに見合うだけの情報が得られているのか,得ることのできる検査であったのかをきちんと検討した上での被ばくでなければなりません。
CT検査のような低線量(100 mSv以下)の被ばくによる健康への影響は,科学的な結論が得られていませんが,一部の研究によれば発がんリスクの増加が懸念されています。通常は放射線に起因する発がんと他の原因による発がんを区別することができないので,CT検査で実際に発がんが増えたかどうかを実証するのは極めて困難です。しかしながら,CT検査を受けた小児において発がんが有意に増加しているとの報告もあり6, 7),低線量被ばくでも発がんリスクはあると想定した上での真摯な対応が求められています。
造影剤の副作用としては,アナフィラキシー,ヨード造影剤による造影剤腎症,ガドリニウム造影剤による腎性全身性線維症が主なものとして挙げられます。特にアナフィラキシーは予測が難しく,かつ一定の頻度で生じて時に重篤な結果を招くことから,無視できない副作用です。
必要な医療を賢く選択しよう
検査の適応を最適化するためには,検査前確率と診断精度などを踏まえ,「得られる情報」と「検査のリスク・デメリット」のバランスを見極める必要がありますが,これは決して容易ではありません。検査に関する知識や臨床推論のトレーニングが必要であることに加え,日常の医療現場では,患者(や家族)からの要望,経営的判断の介入,誤診や見逃しに対する社会の許容度の低下もあり,医療者は総合的に,柔軟な対応を迫られます。しかしそれでも,画像検査のリスクやデメリットがゼロではない以上,リスクやデメリットがベネフィットを上回る可能性があるような「盲目的」な検査,「念のため」の検査は,医療者として賢い選択とは言えないということを覚えておいていただきたいと思います。
表は,カナダのChoosing Wiselyキャンペーン医学生支部が掲げている,「医学生や研修医が心に留めておくべき6箇条」です。Choosing Wiselyキャンペーンとは,2012年に米国で始まった「盲目的に医療を行わず,必要な医療を賢く選択しよう」というキャンペーンであり8),世界の多くの学会が賛同・協力しています。この6箇条には,盲目的に医療行為を行わないために,そして患者の利益を最大化しようという視点を常に忘れないために,医学生や研修医時代に心に留めておくべきことが書かれています。特に4,6番目の項目に関しては,「この先生は入院時にルーチンでCT検査を行うから」という理由で盲目的に検査依頼を出していた初期研修医時代の自分が思い出されます。
表 Six Things Medical Students and Trainees Should Question(医学生や研修医が心に留めておくべき6箇条,文献9より抜粋・筆者訳) |
自身の反省も生かしながら,本連載では,医学生や研修医にぜひ知っておいてもらいたい,画像検査の適切な利用方法について,具体的な症例を交えながら,日本医学放射線学会「画像検査の適正使用推進委員会」の委員とともに執筆していきたいと思います。
画像検査適応のポイント●適応のある画像検査とは,検査結果により診断やその後の治療,ケアの方針が変わり得る検査
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(つづく)
◆参考文献・URL
1)OECD health statistics 2016.
2)厚労省.第1回NDBオープンデータ 第2部【データ編】 E 画像診断.2016.
3)Ann Intern Med. 2012[PMID:22928172]
4)Radiology. 2005[PMID:16244269]
5)環境省.放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成27年度版) 第2章 放射線による被ばく.2015.
http://www.env.go.jp/chemi/rhm/h27kisoshiryo/attach/201606mat1-02-38.pdf
6)Lancet. 2012[PMID:22681860]
7)BMJ. 2013[PMID:23694687]
8)Choosing Wisely.
9)Choosing Wisely Canada.Medical Students and Trainees Six Things Medical Students and Trainees Should Question. 2015.
◆次回以降の連載ラインナップ(予定)
第2回 小児領域
第3回 心血管領域
第4回 脳神経領域
第5回 脊椎領域
第6回 乳腺領域
第7回 肺野領域
第8回 腹部領域
第9回 泌尿器領域
第10回 婦人科領域
第11回 検診・CTコロノグラフィー
第12回 法律的側面
この記事の連載
賢く使う画像検査(終了)
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