医学界新聞

連載

2017.04.24



院内研修の作り方・考え方

臨床現場で行われる研修会や勉強会をより効果・効率・魅力的な内容にするために,インストラクショナルデザインを用いた研修設計をご紹介します。初めて教育委員を任された「はじめさん」,頼れるベテラン看護師「ゆう先輩」と一緒に,教育を専門に学んでいなくても自信を持って教えられるスキルを学びましょう。

【第1回】臨床現場の教え方事情

政岡 祐輝(国立循環器病研究センター副看護師長)


(はじめさん) ゆう先輩! この間の研修会で新人看護師にしっかり教えたはずのことが,全然定着していなかったんです!
(ゆう先輩) え~,それは残念だね。でもどうしてだろう?
(はじめさん) あんなに一生懸命教えたのに……。

 このような場面に遭遇し,「なんでできないの」と新人看護師の勉強不足を嘆いたことのある看護師は少なくないと思います。私もかつて,そんな経験をした一人です。もちろん,学習者である新人看護師自身の問題が含まれているかもしれません。しかし,教える役割を担う者であれば,「なぜできなかったのか」と,自分の教え方を内省しなければなりません。

 教えた際の知識がしっかり理解できて獲得されたのか,スキルはちゃんと身についたかを普段から確認し評価しているでしょうか? もし,この確認・評価を怠っているならば,「教えたつもり」の教育に陥ってしまう可能性は否めません。

 高等教育では近年,「教育」から「学習」へのパラダイムシフトが起こっています。もちろん看護師の育成においても求められる大きな変化です。教育担当者は,「何を教えたか」の視点ではなく,「学習者が何を学んだか」の視点で教育を考えていかなければならない時代を迎えたと言えます。

看護師の多様性拡大と質の変化にどう対応するか

(教育担当師長) はじめさん,新年度から,教育委員になってもらえないかしら。
(はじめさん) え,ぼくがですか? そんな,今まで教えた経験なんてないし……。
(教育担当師長) 先輩に聞きながら準備すれば,大丈夫よ! 安心して。

 さて,こんなふうに突然,看護師の教育を担うことになったら,どうしますか? 誰でも不安でいっぱいになりますよね。

 近年の看護界の大きな動向として,社会人経験者や外国人看護師の入職,看護系大学の相次ぐ新設など,看護師になる人の多様性の拡大や質の変化があります。一方で,医療技術の高度化・複雑化,医療安全に対する要望の高まりにより,看護師に求められる知識・スキルのレベルは年々増しています。

 基礎教育課程でもさまざまな工夫がなされていますが,看護に必要となるスキルの習得は主に臨床側に委ねられている現状があります。そのため,臨床現場でどのように看護師を育成するかが課題となり,教育や人材育成に注目が集まっているのです。

 ただ,残念ながら病院や病棟でその役割を担う看護師の多くは,教えることを専門的に学んできたわけではありません。急に教える立場になり,「こんな感じでやれば大丈夫かな」と,先輩や前任者のやり方を見よう見まねでやっている方も多いのが実状でしょう。経験と勘と度胸だけを頼りに自己流の教育をしていては,いつか対応しきれなくなるのは目に見えています。

 看護はその対象である患者を中心に考え,根拠に基づいたケアが必要ですね。それは教育においても同様です。教育では,対象である学習者を中心に考え,「教え方の科学」に基づいた教育が必要となります。

アクティブラーニングとは

 教育から学習へのパラダイムシフトを受け,教育や人材育成の領域で話題となっているのが「アクティブラーニング」です。これは,「学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称」1)で,簡単に言うと「主体的・能動的な学び」です。現在の臨床現場では,手順書作成,テンプレートの利用,チェックリストの推進で,そこに書かれていることだけを観察し,書かれてあるようにしか行動できない看護師が多く見受けられます。そして,自分で状態の変化を予測し必要となる行動を考えられない「指示待ち」看護師が育ってしまっています。手順通りに,指示通りに行動できることも重要ですが,看護は複雑かつ刻々と変化する状況に対応することも求められるため,画一的な看護では患者にベストなケアは提供できません。

 「行動しつつ考える」。これができる看護師を育成しなければなりません。そこで「主体的・能動的な学び」は,自ら考えることのできる看護師を育てる上で必要不可欠となるのです。

 アクティブラーニングという言葉は看護教育にも浸透しつつあり,研修にグループワークを取り入れるなどの実践例を見聞きします。は,学習定着率を講義で5%,読書で10%,グループ討論では50%などとするラーニング・ピラミッドです。数字には根拠がないと批判されています。とはいえ,ただ単に聞いたり読んだりするより,グループワークはアウトプットすることが増えて「主体的・能動的な学び」に結びつきそうだと,直感的・経験的にもわかります。知識伝達型の講義であっても主体的・能動的に学ばせることは可能で,本来学ぶという活動自体が主体的・能動的なもののはずです。安易な学習方法の選択による失敗事例も多くあることは,頭の片隅にとどめておかなければなりません。

 ラーニング・ピラミッドと平均学習定着率(文献2より改変)

共に育み学び合う教育を

 これからの教育担当者に求められることは何でしょう。それは,学ぶ/学び合う場を創ることと,学習をサポートすることです。それには,「教え方の科学」とスキルが必要となります。

 でも,臨床の看護師が教え方を一から専門的に学ぶのは大変ですね。看護は,実践とその経験を内省するプロセスを経て,看護実践能力を高めていきます。教育も同じです。教育実践をし,その結果を内省することでより良い教育の提供につながっていく。その際に必要なのは,教育を受ける学習者と,共に学び成長する姿勢です。看護師は必ずよき教育者になれると私は信じています。看護は人(患者)を多角的・全人的にとらえ,必要なケアを提供することを生業としているからです。

 対象を患者から学習者に,「ケア」を「教育」に置き換えれば良いのです。学習者に対する“ケア”を行うことで,看護師も素晴らしい教育者の一人に成長できるはずです。

今のOff-JTを変えて行こう!

 教え方の場面を大別すると,OJTとOff-JTの2つに分けられます。OJTは,“On the Job Training”の略で,読んで字のごとく臨床現場で育成を行うものです。それに対しOff-JTは,臨床現場から離れたところでの育成を指し,主に研修会や勉強会などがこれに該当します。本連載では,Off-JTに焦点に当て,初めて教育委員となって研修を考える看護師とのやり取りをベースに,研修デザイン,研修の進め方,研修の転移について,優しく学んでいけるよう進めます。Off-JTに焦点を当てますが,その内容はOJTにも活かせるものとなります。

 私も,教えることの悩みを通じて,日々の臨床の傍ら,教え方を模索してきました。教育を担う読者の皆さんが日々抱える課題を共有しながら,解決につながるヒントを示していきます。「これならできるかも」という自信や楽しさが得られればうれしく思います。

教え方のポイント

→対象である学習者を中心に考え,教え方の科学に基づいた教育を行う時代に。
→「行動しつつ考える」看護師の育成には「主体的・能動的な学び」が重要。

つづく

[参考文献]
1)文科省.新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて――生涯学び続け,主体的に考える力を育成する大学へ(答申).用語集.2012.
2)Edgar D. Audiovisual Methods in Teaching 3rd Edition. The Dryden Press;1969.


まさおか・ゆうき氏
2007年国立循環器病研究センターICU配属。14年に集中ケア認定看護師を取得し副看護師長に。病院認定の専門看護師として教育・指導の役割を担っており,数年前よりインストラクショナルデザインを用いた教育に取り組んでいる。臨床の傍ら,14年から熊本大大学院社会文化科学研究科教授システム学修士課程で「教え方」について学び,17年3月に修士課程修了。現在は,同大教授システム学研究センター連携研究員として「教え方」に関する実践的研究に取り組みつつ,院内外の看護師を対象に,研修を企画・実施している。

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