医学界新聞

2017.04.17



Medical Library 書評・新刊案内


ネルソン小児感染症治療ガイド
第2版

齋藤 昭彦 監訳
新潟大学小児科学教室 翻訳

《評 者》宮入 烈(国立成育医療研究センター感染症科医長)

小児の抗菌薬の使い方を学びたい方にもイチオシ

 小児の抗菌薬マニュアルと言えば,評者はこの本が真っ先に思い浮かびます。John D. NelsonやJohn S. Bradleyといった小児科の重鎮の名が並ぶこの黄色い本は米国の小児科診療の現場で長年愛用されてきた名著です。15年前,米国で小児感染症フェローとして働いていた評者も本書を“Red book”(American Academy of Pediatrics)とともにカバンに忍ばせ,コンサルトのたびに引っ張り出して抗菌薬の投与量を参照していました。今は,当院の感染症科フェローのポケットに収まり,他科からの診療相談のたびに活躍しています。

 本書は,抗微生物薬の適応・用量・用法の詳細が記されたいわゆるマニュアル本です。しかし,40年以上にわたる実践の中で精度を高め,2年に1回(2014年以降は毎年)新たな知見を基に改訂され進化してきた実績があり,これに比肩するものはありません。特に治療薬選択のエビデンスや注意事項が参考文献と共に記載されているのは本書の特徴です。例えば中耳炎の治療など議論の的となる事項については,ガイドラインの推奨やシステマティックレビューをまとめた「メモ」があります。また,壊死性筋膜炎や慢性骨髄炎に対する外科的介入の推奨など,最善の感染症治療について薬以外の治療にも言及されています。さらに,新生児,肥満児,市中MRSA感染症,小児特有の病態における予防投与などについても具体的な処方が記載されていて,包括的な内容になっています。もちろん米国のマニュアルを日本に導入するには,疫学や人種の違い,保険診療との齟齬がないかなどの検討が必要となります。そこは日米両国をまたぐ小児感染症のエキスパートである齋藤昭彦先生を中心に翻訳者陣が注釈を加えており,大変助かります。

 小児の抗菌薬の使い方を学びたい方にもイチオシの本です。冒頭には抗菌薬と抗真菌薬を選択するために鍵となる各薬剤の特徴が書かれています。一文一文に凝縮された情報を自分のものにすることができれば,自ら考えて抗菌薬を選ぶための強力な知識になります。他にも薬力学・薬物動態学,静注抗菌薬から経口抗菌薬への切り替え方,副作用や相互作用などが学べる構成となっています。まずはこの本を通読し,実例に遭遇するたびに該当箇所を丁寧に読み直すことをお勧めします。読み返すたびに新たな気付きがあり,小児感染症診療に必要な抗菌薬の知識と考え方が身につくはずです。

B6変型・頁312 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02824-0


処置時の鎮静・鎮痛ガイド

乗井 達守 編

《評 者》林 寛之(福井大病院教授・総合診療部長・救急科長)

もうビビらない! 鎮痛・鎮静の安全・安心ガイド登場

 「医学は耳学問とみたり」などという指導を受けて育ったわれわれ古だぬき医者にとっては,本書は目からうろこの宝の山だ。特に事例が多く,薄い本というのが実によい(テヘ!)。古来,日本人は我慢強いのが美徳とされ,患者さんの痛みにはあまり共感的ではなく,処置を優先するのが当たり前であった。「胃カメラで鎮静してほしいなんて根性のない」などと言ったものだが,とんでもはっぷん,胃カメラは特に若い人であれば地獄のようにつらい手技であることに変わりはない。

 不思議なことに,医療者も自分自身が患者にならないと患者に寄り添う本当の医療が実感できないものなのかもしれない。古だぬき先生が患者さんに優しい良医である場合,案外自分も健康を害したことがあり,その経験が良医たるべく肥やしになっているのではないかしらン? 「痛み」は第5のバイタルサインと言われ,患者さんの痛みに敏感であることも,医療者としてはすごく大事な資質なのだ。

 でも,経験が少ない若先生に朗報です。海外では当たり前のように,鎮静・鎮痛のガイドラインに沿った医療が行われている一方,日本ではなかなか学ぶ機会のなかったこの手法を本書から学ぶことができるようになりました。パチパチ。

 患者さんの安全安心を提供するためには,自分が慣れた薬剤を数種類知っていればよい。単なる薬剤の使い分けを知るのではなく,同時進行で必要なモニタリングの知識,副作用,合併症,状況別の使い分けを知っておくと臨床に自信が付いてくる。本書では,救急外来,CT室・MRI室,気管支鏡,歯科処置に関して具体的な記載があるので,基本的な鎮痛・鎮静はできるようになる。特に合併症を来しやすい小児や高齢者に関して,別章を立てて解説しているのは特筆すべきことだ。鎮静も過ぎたるは及ばざるがごとし,ちょうどいいのが一番よい。その点,日本の保険診療に沿った形になっており,海外の単なる訳本とは根本的に異なる,日本の医療のための本と言える。

 巻末にはいつでもすぐチェックできるように薬剤などのまとめが書いてあるので,読了後も本書をひもとくのが便利な構成になっている。

 小児の顔面縫合など,子どもを押さえつけるような野蛮な荒行は卒業して,適切な環境で適切な薬剤を適切な量使えるようになると,きっとあなたも自信を持って良医にまた一歩近づけたと言えるんじゃないかしらン?

A5・頁256 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02830-1


実践にいかす歩行分析
明日から使える観察・計測のポイント

Oliver Ludwig 著
月城 慶一,ハーゲン 愛美 訳

《評 者》山本 澄子(国際医療福祉大教授・福祉支援工学)

歩行分析を臨床の場で実践するために

 現在,歩行分析に関連する多くの書籍のうち,国内で最も販売実績があるのは『観察による歩行分析』(医学書院,2005)であろう。評者が行っている医療関係者を対象とした講習会では,参加者が講習会にこの本を持参することが多い。評者はこの本の翻訳を担当した関係でサインを頼まれることがあるが,持参された本がほとんどの場合に使い込まれていることに驚いている。『観察による歩行分析』は購入しただけでなく,実際に活用されている本なのだと実感する。

 今回紹介する『実践にいかす歩行分析』は,『観察による歩行分析』の次のステップに読まれるべき書籍である。原著者はドイツ人の生物学博士であり,整形外科靴技術の臨床応用と技術開発に取り組んでこられたOliver Ludwig氏,訳者は『観察による歩行分析』の翻訳で中心的役割を果たされた月城慶一氏と,多くのドイツ語の専門資料翻訳の経験をお持ちのハーゲン愛美氏である。

 本書の特徴は以下の2点である。1つはタイトルの通り,非常に実践的であること,2つめは比較的簡便な計測器を使用した計測を対象としていることである。従来,計測器を使用した歩行計測は3次元モーションキャプチュアと床反力計といった高価で大掛かりな装置を用いたものであり,結果は正確で情報量が多いが,実施できる施設が限られているため研究目的に使用される場合がほとんどであった。これに対して,臨床の現場ではまさに“観察による歩行分析”が行われている。目視による観察は重要であるが,正確性や情報量において不足している点は否めない。

 本書の原著者が提唱するのは,上記2つの歩行分析の中間に位置する比較的簡便な計測器を使用した歩行分析である。具体的にはペドバログラフィーと呼ばれる動作中の足底圧分布を測定する装置とビデオカメラを使用した2次元の分析について,機器の原理から実際の使用方法,データの読み方までが詳しく紹介されている。いずれも原著者の豊富な臨床経験に基づいて,多くの症例データの提示とともにデータの読み方が紹介され,まさに実践的な内容と言えよう。

 さらに,本書では歩行だけでなく走行の分析やランニングシューズの評価や足底板の最適化の手法についても述べられている。特に,目で見ただけではわからない動作中の足圧分布のデータを治療につなげる点は秀逸である。

 このように本書は非常に多くの内容が盛り込まれ,200ページを超える書籍である。教科書のように初めから通して読むというよりも,臨床の場で疑問に思ったことを解決するため,あるいは問題点解決のために計測器の導入を考えている方が自分の知りたいことを見つけるために事典のような使い方をするのに適しているかもしれない。巻末付録の歩行分析シートを使ってみて,わからない点を本文で読み込んでいくという使い方もあるであろう。いずれにしても歩行分析を臨床の場で“実践”するための入門書として,本書を活用することをお薦めしたい。

B5・頁260 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02805-9


PT・OTのための
これで安心 コミュニケーション実践ガイド
第2版

山口 美和 著

《評 者》福井 勉(文京学院大教授・理学療法学)

コミュニケーション力向上のための具体的方法を多彩に提示

 本書は理学療法や作業療法の学生および新人若手を主な対象として書かれた,人間力向上を目的とした書籍の改訂版である。最近大きくクローズアップされているコミュニケーションの問題をはじめとして,自己肯定感や主体性を高めるためにどのようなことを実践したらよいのか,詳細なガイドで読者を牽引する力を持っている。前版にはなかった「感情管理」など人間性を高める内容が加筆されている。

 本書では,養成校に入学した際に生ずる「リアリティ・ショック」の扱い,対人援助職,感情労働としての自覚,コミュニケーション力を学内でどのように培ったらよいかという基本的問題が冒頭に記されている。このことからも本書は,入学直後から自らの感情をうまく扱うために必要なことを知るために,教科書としてだけでなく自らの生活ガイドとしても有益である。次にメタ認知を高める具体的手段についても詳細に記されている。一見扱いやすいように見えるが実は扱いにくい,自分自身とのコミュニケーション能力。その出発は自分を知ることであり,その性格や傾向を知ること,そしてそれは変化するものであることを知ることは,自己評価が低めになってしまう人に特に有益な手段である。

 コミュニケーション力を育むためには自然に任せるのではなく,具体的方策として対処すること,苦手なら少しずつ得意にするというように改善することが同時にメタ認知の向上にも寄与する。具体的なコミュニケーション力向上のため,「傾聴」には練習が必要であり,「伝える」プロセスは分析して自らの責任としてとらえれば,上達するとされている。これらは全て「PT・OTのため」というよりも「人間」への教示でもある。

 前半の「学内編」も同様であるが,特に後半の「臨床編」は新人の理学療法士・作業療法士には有益である。就職した部署で差がある新人教育に対する扱い,この違いだけに左右されないためにはどのようにしたらよいか。たとえ十分な新人教育を受けられない環境でも,本書を実践すればかなりの部分が解決に結びつくのではないだろうか。「第5章 社会人のマナーとしてのコミュニケーション」「第6章 臨床で役立つコミュニケーションスキル」はそれぞれ深いノウハウが刻み込まれている。例えば,患者さんの家族とのコミュニケーション,スーパーバイザーとのコミュニケーションなどである。

 また本書には35項目にわたる「Work」があり,それらを実践することでより理解を深められるようになっている。これらを用いることでPT・OTの教育に携わる方,実習指導者の方にも教育におけるメタ認知,コミュニケーション力について考えていただく良い機会になると考えられる。

 本書の良さは,実践することで学生生活や就職したての生活に還元することであると思う。開巻有益という言葉を表す必読書である。

B5・頁240 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02787-8


《理学療法NAVI》
ここで差がつく“背景疾患別”理学療法Q&A

高橋 哲也 編

《評 者》野村 卓生(関西福祉科学大教授・理学療法学)

臨床力のブラッシュアップにつながる良書

 1966年の第1回理学療法士国家試験合格者183人以降,社会の要請を踏まえた近年にみる急激な養成校の増加により,2016年3月現在,理学療法士国家試験合格者は延べ13万9214人となり,毎年約1万人の合格者が誕生するようになった。現在では,多くの施設で新人教育の充実化が図られ,先輩理学療法士のサポートにより,いわば受動型で理学療法士としての経験を積んでいける環境になりつつあると思う。一方で,一定の経験を積んでからは,多くは自己努力(能動型)で,より最善・最良の理学療法を提供する方法を追い求めなければならない。しかし,最近では以前と比べて理学療法にかかわる専門書が多くなったものの,臨床経験も十分でない若手理学療法士がそれを読み解き,内容を理解することは容易ではない。

 本書は《理学療法NAVI》シリーズ『“臨床思考”が身につく運動療法Q&A』(医学書院,2016)の姉妹本であり,各分野の理学療法に関するエキスパートの臨床思考過程に触れる機会を与える書籍である。

 脳血管障害(急性期および回復期),運動器疾患,心機能・腎機能・呼吸機能の低下した患者,糖尿病,フレイル,誤嚥・嚥下障害および在宅での理学療法に関して,52の質問が挙げられ,その質問に対する回答がおおよそ4~5ページで端的にまとめられている。

 まず,質問に対して2~3つのポイントが短文で述べられている。次いで,そのポイントに対する説明文が,冗長にならないように執筆者が多くの症例から得た経験と長い時間をかけて専門書を読んで修得した内容を示している。読者の内容の理解を助けるために適所に図表が挿入され,特に重要な内容に関しては色文字で区別され,わかりやすい。引用・推奨文献も必要最小限にとどめられ,「です・ます調」で記載されており,読みやすい。今さら聞きにくい内容(例えば「『運動学習』についてわかりやすく教えてください」,p.180)についてもコラムとしてまとめていただいており,ありがたい。

 臨床経験を重ね,より最善で最良の理学療法を提供しようと考える若手理学療法士にとって,臨床での疑問を解くカギとなり,さらなる臨床力のブラッシュアップにつながる良書である。シリーズのさらなる展開に期待したい。

A5・頁200 定価:本体2,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02796-0

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