医学界新聞

2017.03.27



Medical Library 書評・新刊案内


師長の臨床
省察しつつ実践する看護師は師長をめざす

佐藤 紀子 著

《評 者》佐藤 美子(川崎市立多摩病院副院長/看護部長)

師長とは何をする人か,原点に戻って考える

 師長になりなさいと言われたとき,準備はできていると思っていた。もう30年近く前の話だが,「4月から師長をやってみなさい」と言われたときのことだ。看護師として中堅と呼ばれるようになったころ,患者に聞かれることや求められることが,以前のような食事や排泄にかかわることから,退院のことや仕事にいつ戻れるのかなど,これからの生活に関することに変わってきた。そのような変化に対応するために,自分は何を学ぶべきなのかと考えるようになった。それが私の看護管理との出合いだった。そして,看護管理を学ぶため,看護研修学校に籍を置いた。

 だから準備はできていると思っていた。それなのに師長になる決断をするとき,私はちゅうちょした。もうベッドサイドで清拭をしたり,夜間震える患者に寄り添ったりする「患者の傍らにいるというケア」ができないんだという寂しさと,諦めのような感情が込み上げてきたことを覚えている。

 しかしこの本を読んだとき,そんな必要はなかったのだと,そのころの私に伝えたくなった。看護師の私は,これまでの看護に自信を持ち,後輩看護師のため,痛みや不安を抱える患者のため,そのままで師長になれば良かったんだと。今,ふっと力を抜くことができたような気持ちがする。

 この本の中で著者が一貫して語っているのは,「看護の実践」とその意味である。それは,著者の学生時代から,看護師,その後の管理者,教育者,研究者とキャリアを積み重ねていく中で,問い掛け続けてきたことであった。実践すること,そして,挑戦的であること,それが看護管理者である師長の姿であるとこの本は語っている。

 第1章では,自らの看護管理への関心の経緯が,「イノベーションの構造モデル」の構築につながったことが語られる。ぜひ,看護管理の実践で悩む現職の師長に読んでほしいのは,「師長の臨床」の事例と「知の身体性」を通しての分析である(p.24)。これらは,日常の看護の実践を表現したものであるが,実は,師長が行動することで起こる実践には,師長でなければできない“患者と家族と,そして看護師を巻き込んだ看護実践”がある。事例の中で師長は,常にベッドサイドで患者の声を聞き,看護師として仲間たちに状況を変化させるための問い掛けや行動を起こしている。師長にしかできない看護実践とは,師長だから行っている行為や行動の中から生まれてくる。看護師として,チームの一員として実践するだけでは見えてこない,できない実践であると実感することができる。

 第2章では,師長を実践家にとどめるだけでなく,管理者として,その役割をイノベーターと表現している。常に質を保証し,社会の状況をいち早く察知し,必要な変革を看護の最小単位である現場で行っていくこと,それが師長の役割であるとする。

 第3章では,著者ならではの看護の視点をみることができる。「文学に潜む,看護の知の水脈から探求する師長の臨床」として,文学にみる看護と看護管理者をひもといていく。

 最後に第4章では,「新しい師長像を求めて」と師長への期待を込めて,看護師のキャリアとともに看護の未来を見据えている。

 師長について,これほど広く,深く,そして新しく,考え,ライフワークとして臨んでいる研究者・教育者,いや実践家がいるだろうか。看護管理は常に流れ,とどまることを知らない。今,目の前の管理の実践は,昨日から今日,そして明日へ,その先の未来へつながっている。それに挑戦するかのように師長たちに寄り添う著者による,師長のための本である。

 師長である自分は,実践家であり続けているだろうか。もう一度確認するためにも,ぜひ手に取って欲しい一冊である。

A5・頁184 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02794-6


看護事故の舞台裏
22事例から徹底的に学ぼう

長野 展久 著

《評 者》佐藤 久美子(石心会川崎幸病院副院長/看護部長)

事例と日常業務が結び付く看護事故の事例集

看護師の努力に寄り添ってくれる
 本書は医学書院発行の月刊誌『看護管理』の連載が元になっている。連載も十分読み応えがあったが,本書を繰り返し読むうちに,著者は看護師のことが大好きなのだという思いにたどり着いた。私は著者と大学病院時代の同期なのだが,医師として臨床現場から看護師を見つめ,また損害保険会社での顧問医という立場で多くの紛争事例を見てきた経験から,医療事故の再発防止の力になりたいという思いを持ち続けてくれたのだと感じる。

 医療従事者の中でも,患者への医療行為の最終実施者となることの多い看護師は,可能な限り医療事故の発生を回避する努力を継続していかなければならない。もちろん看護師は皆,真面目で安全・安心な医療のため日々努力しているが,それだけでは安全な医療は提供できないのも現実である。

 序文に『「頑張る」ことも大事ですが,それよりも基本的な行為を「きちんとやる」ことの方が医療安全には欠かせないポイントです』と記されている(p.iv)。「基本に忠実に」という原点に立ち戻ることの重要性についてあらためて気付かされる。

事例を自分のこととして疑似体験できる
 本書の特徴は,実際に起きた事故を事例として取り上げていること,そして疑似体験が可能なように問いが用意されており,自分のこととして考えながら読み進められることである。この構成が素晴らしい。そして恐ろしいのは「あるあるこういうこと」と読めてしまうのである。事故には至らなかったにせよ,似たような経験は誰にでもあることを思い知らされる。故に,同じような事故を起こさないための対策に最も重要なのは,他者の経験を自分のものとして取り入れることである。

 第1・2章「高齢患者と看護事故」では,今後の社会情勢を踏まえ高齢者にまつわる事例を多く取り上げている。例を挙げると,Case 4の転倒・転落の危険性がある高齢者への対応(p.32)では,身体拘束の必要性をどのように家族に納得してもらうかという,今まさに問題となっている事象を取り上げており,考えさせられる。

 第3章「基本的行為と看護事故」のCase 17「採血による神経損傷は不可抗力?」(p.162)では,日常的に実施されている採血という行為でも,必ずマニュアル通りに実施されている証明が必要という,基本行動の周知徹底の重要性を再認識させられる。

 第4章「医療機器と看護事故」Case 18のアラームをめぐる医療事故の事例(p.176)では,「アラーム慣れ」という言葉が使われているが,思い当たる節がある看護師も多いのではないだろうか。心電図モニターの無駄鳴り防止をチーム活動として取り入れている施設が多いことを考えても,同様の事故は身近で起こり得るのである。

明日に生きるヒント
 医療安全に関する専門書は多く出版されているが,実際の事例と看護師の日常行動を結び付けて考えられるように解説されているものは少ない。その意味で,本書は医療安全委員会での事例検討や個人での学習など,どのような場面でも活用できる。

 そして各Caseの最後に記されている再発防止策のポイントには,早速明日から具体的な行動に移せるようなヒントが提示されている。医療現場で働く看護師たちにぜひとも読んでいただきたい。自信を持ってお薦めできる一冊である。

A5・頁240 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02866-0

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