“をかし”を感じる(水野篤)
連載
2016.11.14
臨床医ならCASE REPORTを書きなさい
臨床医として勤務しながらfirst authorとして年10本以上の論文を執筆する筆者が,Case reportに焦点を当て,論文作成のコツを紹介します。
水野 篤(聖路加国際病院 循環器内科)
■第8回 “をかし”を感じる――英語の壁を超えるために
(前回よりつづく)
カリスマ先生「Introductionまでは少しイメージが湧いたかな?」
レジデント「うーん,抽象的な話は難しいです」
カリスマ先生「では,今回は具体例を出しながら話しましょう」
さて,今回は第7回(第3194号)に続き,❸Case presentation:症例提示,❹Management & Outcome:経過について,基本的な準備をしましょう。
なんといっても先人に学べ
Case reportでも,本文の書き方はImagingと大きく変わりません。第4回(第3182号)で取り上げた,
①雑誌のホームページで検索
②PubMedやGoogle Scholarを用いた検索
を活用してください。第4回では単語や言い回しのみに注目しましたが,どう書くかのバリエーションは,症例によっても多様です。
●同じような内容・分野
●発行日が最近のもの
なども読んで,どう書くかの理解を深めましょう。これは第7回で取り上げたAbstractionにも必要ですし,次回お話しするDiscussionにも必要になります。
さらに投稿予定のJournalの最近発行された数号~数十号を確認します。知らないうちに変更されていたフォーマットや,Author instructionで見逃していたCase reportやImagingの掲載数などに気付けるかもしれません。論文にもある程度トレンドがありますので,Journalによっては突然Case reportを受け付けなくなっていることもあります(Case reportはimpact factorが上がりにくいので廃止になってきた流れがあります)。
そうして見てみると,わかることがあります。始まりの言葉(第4回)と同じく,お決まりの流れがあることです。もちろんCaseの紹介は
A/An (年齢)-year-old (国籍) (man/woman) with (既往歴) presented to (疾患の場所) with (原因).
から始まります。ジェネラルマインドをお持ちの方々はここから,プレゼンテーションと同じく,現病歴およびバイタルサイン→Physicalという王道の流れで紹介したくなりますよね? しかし,BMJやINTERNAL MEDICINEをご覧になって気付きませんか?
バイタルサインなどは
意外と記載されていない……。
これはすぐ画像の説明に入るからです。皆さんも臨床での一発診断大好きですよね? 論文の世界でもPhysical examination関連の論文よりもImaging関連の論文のほうが多くなっていることは一つの事実です1)。ということで,CTやMRIといった一般的な画像モダリティや血液検査での“Computed tomography(Echocardiography)revealed~”などの表現のほうが重要だったりします。こうした表現は,徳田安春先生のブログ2)が勉強になります。前述のとおり,Google先生も助けになるでしょう。
をかし:表現の奥深さ
しかし500~1000 words単位の英文を書くのは,慣れていないと大変です。結論を言っておきますと,Native並みの実力がある方以外は細かい英語表現にこだわってもダメです。なので,完璧はめざさず,頑張れる範囲で頑張るようにしてください。
実例を挙げましょう(くどくなるので英語はあまり載せたくなかったのですが,これはぜひ共有してください)。血液検査の表現(英文校正後)です。
これでも十分良さそうでしたが,Accept後Editorial officeによって以下のように修正されました。
“respectively”はよく使用するので良いとしても,“within the normal range at~”には参りました。非Nativeの私にはなぜ“at”をここで使用するのか即座にわかりませんでしたが,「なんかええ感じ」ですよね?
英文校正をしていてもEditiorial officeに修正されることは多々あります。私の人生初の掲載論文も原形がないほど修正されました。
ただ,英語での表現を勉強することで英語文化の「趣」が垣間見えます。そしてその感覚があれば,論文を読むときに見える世界が変わります。英文校正は積極的に出して良いと思います。ただ修正してもらうのではなく,その過程で学習することを心掛けてください。頑張った暁には面白さを実感できること間違いありません。
をかし ≦ コモンセンス
もう一つ例を挙げましょう。先ほど,意外と記載されていないと言ったバイタルサインの表現です。
と書いてしまいたくなりますが,このように修正されます。
うーん,確かにしゃれてますね! was~といくより,ofだなぁとか,もっと基本的なところとして,リザーバーマスクって言わないんですか!? とか(non-rebreather maskです)。英文校正の過程で医学用語の常識まで修正できるのはお得感があります(英語のプレゼンテーションでも使えますね)。
どんどん冗長になりますが,さらには血液検査の表記方法や,「:(コロン)」「,(カンマ)」「;(セミコロン)」の使い方といった重要なポイントも勉強できます。例えば,
としたくなるところが,
と修正されます。日本人的にはblood urea nitrogen“:”○○mg/dLとしたくなるのですが,英語の論文では“,”のほうが多いと思います。
結局は「画像」です
Accept後にも英文はかなり修正されることがわかりました。つまり,論文の本文の質≠英文の質だということです。では,本文の質はどこで評価されるのか?
内容です。
本文の内容を,客観性を高めて伝えるにはどうすれば良いか。
「画像」です。
画像といっても患者の写真だけではありません。Table(表)であったり,検査結果であったりします。もう一度,Journalに載っているCase reportを見直してみてください。ほぼ100%何らかの画像があります。文字だけではダメなのです。
内容=画像
と言ってもよいかもしれません。画像だけで論文の内容がほとんどわかるくらいがベストです。1つの画像にまとめて,大体2~3個,多いと4~6個の情報を入れ込むこともあります。画像作成の際には第2回(第3174号)で培った画像作成能力を有効活用してください。
一人ひとりの患者を診たときの“あはれ”という感覚をどう表現するか。言葉だけではなく,画像で表現しましょう。伝える努力をしましょう。良い画像で表現できれば英語は後から付いてきます。
まとめ●Case reportでは意外とバイタルサインは書いていない
|
(つづく)
[参考文献・URL]
1)Mizuno A,et al.Physical examination has been paid less attention to compared to diagnostic Imaging: from a bibliometric analysis of PubMed. Journal of General and Family Medicine. 2016;17(1):109-12.
2)徳田安春.英文ケースレポートの書き方 CASE DESCRIPTION その5:診断・治療・経過.
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