「自立支援」をめざす地域ケア会議(竹村仁)
寄稿
2016.10.03
【寄稿】
「自立支援」をめざす地域ケア会議
リハビリテーション専門職の参加がケアプランを変える
竹村 仁(臼杵市医師会立コスモス病院リハビリテーション部室長/理学療法士)
大分県は2012年度から,「地域ケア会議」を県下に普及する取り組みを始めた。その背景には,①介護保険認定割合と給付費の急増(第1号および第2号要介護認定者割合20.1%),②介護保険料の増加(第5期改定で28.8%増,全国1位),③改善を示さない要支援者が多いこと(自立への回復は1.5%)があった。そこで,要支援から自立への改善割合が毎年40%以上と,当時高い実績を示していた埼玉県和光市が実施していた「地域ケア会議」の導入を決めたのである。
導入に際しては,介護保険法第2条と第4条の規定に立ち返った。基本理念の「自立支援」を強く意識し,生活課題を改善することを目的に地域ケア会議を推進していくことになった。
理学療法士はケアマネを支える助言者
地域ケア会議の議論では,他のリハ職等(作業療法士,管理栄養士,歯科衛生士,薬剤師,保健師)と共に理学療法士は「助言者」として参加し,主に利用者の疾病管理や生活動作のアセスメントの視点から発言する(写真)。例えば,糖尿病や心不全がある利用者であれば,投薬状況に応じた運動時間,運動強度の提案を行う。
写真 地域ケア会議の様子 |
主に要支援者のケアプランをケアマネジャー(手前)が説明する。左側の地域包括支援センター職員が経験例などをもとに助言を行う。右側のリハ職等も助言者として専門的視点から提案する。 |
生活動作に関しては,ケアマネジャーから「入浴ができない」という発言があった場合,浴室までの移動,服を脱ぐ,浴室内の移動,洗体・洗髪,浴槽をまたぐ,浴槽から出る,服を着る等の入浴動作のアセスメントを促す。できない動作があれば,それに応じて改善プランを提示する。この利用者は,浴槽へのまたぎ動作ができなかったことがわかり,理学療法士はその練習方法を助言した。2か月後にはヘルパーの見守りがあれば入浴可能(限定的自立)になり,次は介助者なしで入浴ができるという目標(普遍的自立)へスイッチし,実現に向けて取り組んでいる。
他にも,要支援2の腰部脊柱管狭窄症の利用者で500 m先のスーパーまで買い物に杖で行くという目標を立てているといった事例もある。現在の歩行状況(間欠性跛行があるかなど)から,さらにどのような運動療法が必要か,歩行補助具の選定(シルバーカーの利用)などのアドバイスを行った。
これらに共通するのは,利用者の生活や趣味の「○○したい」を引き出し,その生活課題解決に向けて多職種で知恵を出し合うことである。
「ケアプラン」と「ケア提供者」両方の質の向上が重要になる
地域ケア会議によりケアプラン自体の質が上がっても,実際にケアを提供する事業者のサービスが以前のままでは実質的な改善にはつながらない。加えて,地域連携を考えれば事業者間で統一した評価や基準が求められる。
そこで,大分県理学療法士協会は2014年に『結果のだせるトレーニングマニュアル――指導者向け実践ガイド』を作成し,県内の地域包括支援センターや理学療法士の所属施設に配布した。これには,急性期から回復期,生活期まで高齢者における介護予防や介護サービスでの体力測定の評価方法を記載している。
理学療法士などのリハ職がいない場合でも,的確なアセスメントを行い,利用者の自立を支援するホームヘルプサービスを促す必要がある。そこで,通所サービス事業所での利用を想定した『自立支援型通所サービス生活機能向上支援マニュアル』,訪問介護員を対象とした『自立支援ヘルパー実務マニュアル』が作成された。さらに,要支援から自立に回復した方が通う,いわゆる“サロン”の整備も市町村ごとに進んでいる。
こうした取り組みは一貫して,「要介護状態となった場合においても,(中略)その有する能力の維持向上に努める」とする介護保険法の趣旨にのっとっている。適切なアセスメントのもと,誰が,どこで,どのように生活課題を解決するのか,その方法で良いのかというマネジメントの視点の強化と,地域の医療職,介護職の規範的統合(考え方の共有)の醸成が介護サービスの質の向上につながった。
地域ケア会議の成果と課題
2015年の介護保険料第6期改定で,大分県は第1号被保険者介護保険料の上昇を,第5期に比べ平均248円に抑えた。総額では全国平均を上回っているものの,上昇率は4.6%と全国で最も低く,第5期改定から見ると大躍進とも言える結果となった。要介護認定者割合も2011年度末から減少を続け,2015年度末にはついに全国平均と肩を並べた(図)。
図 第1号被保険者に占める要介護認定者割合の推移(要介護者に第2号被保険者を含む・文献1より作成) |
また,2016年1月の段階で,大分県内の新総合事業への移行予定自治体の割合は72.2%2),認知症初期集中支援チームの自治体設置割合は55.6%でいずれも全国トップであり,いち早く新しい制度への転換が図られている。地域ケア会議の場での自治体と地域包括支援センター,事業所と専門職の関係づくりがあったからこそ,制度の理解が早く進んだのではないかと考えられる。
一方で,課題は地域ケア会議の場の「助言者」,つまりリハ職の質の担保である。「急性期病院勤務なので在宅のことはわからない」と,地域ケア会議の場で述べたリハ職がいると聞く。勤務先によって助言ができないのでは役割は果たせない。そこで大分県理学療法士協会は2015年度,研修会を9回行い,参加者は延べ657人に上っている。他のリハ職しかり,助言者の質が上がれば,地域ケア会議はますます成果を上げられるだろう。
地域包括支援センターにも理学療法士の配置を検討
大分県の取り組みは地域ケア会議だけではない。2015年度には県のモデル事業「大分県地域包括支援センターリハ職等配置支援事業」を当院で行った。6月~翌年3月で合計268時間の地域包括支援センター等への介入を行い,ケアマネジャーやヘルパーとの同行訪問や個々の介護サービス事業所等に出向き,利用者の状況のアセスメントについて支援を行った。この経験をもとに,地域包括支援センターの担当する要支援者に合わせた評価・運動指導フロー図を作成し,パンフレットで効果的な運動指導を可能とした。
この事業は総合支援事業の訪問型サービスC(註)に移行し,臼杵市の新たなサービスになっている。こうした取り組みからも,地域包括支援センターだけでなく,県や市町村など公的機関への理学療法士の配置が必要になるであろうことがうかがえる3)。
医療・介護スタッフと協働し,自立支援のできる医師の参加を
地域ケア会議は今後,分化が進んでいくだろう。利用者に応じてケアの性質が異なるからだ。①一般高齢者対象,②障がい者・小児・生活困窮者等対象,③医療必要度の高い方が対象などが想定され,③の場合では,医師の助言が必要だ。難病やポリファーマシーなど,医師に介入をしてもらいたいこともある。
ケアマネジャーがケアプランを作るときに,医師の視点からの情報が必要なことも多い。かかりつけ医は“ケアマネタイム”とも言うべき,情報交換の時間を設定してはどうだろうか。
地域によっては,医師が地域ケア会議に参加できるところもあるだろう。そのとき,「私は内科医だから整形外科のことはわかりません」とならないよう,最低限の準備は必要と考える。
介護保険法の理念である自立支援を根底に,フラットな目線で適切な助言ができる医師が地域ケア会議に入ってくれば,地域の在宅医療連携を含めての規範的統合もスムーズに進むはずだ。
註:臼杵市ではリハ職等が要支援者等の利用者宅に訪問してリハビリテーション指導を行っている。ADL,IADL低下の要因解消が主な目的。時間は週1回40分ほどで,最長3か月間の介入ができる。
◆参考文献
1)厚労省.介護保険事業状況報告.
2)田井祐二.我が県,我が町の地域ケア会議――大分県における全県下での展開.地域リハビリテーション.2016;11(6):358-63.
3)河野礼治.大分県の地域ケア会議への取り組みに関するリハ専門職のかかわり.地域リハビリテーション.2016;11(6):364-67.
たけむら・じん氏
1994年九州リハビリテーション大学校卒後,門司労災病院に勤務。2001年より臼杵市医師会立コスモス病院に入職,08年より現職。心臓リハビリテーション指導士,呼吸療法認定士,神経系および内部障害専門理学療法士。大分県理学療法士協会職能局長,地域包括ケア担当理事を兼務。
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