医学界新聞

2016.09.26



異なる専門性を統合した看護実践

第26回日本看護学教育学会開催


 日本看護学教育学会第26回学術集会(会長=東女医大・佐藤紀子氏)が,8月22~23日,京王プラザホテル(東京都新宿区)にて,「新たな時代を動かす看護学教育の『知』の共鳴」をテーマに開催された。本紙では,異なる専門性を持つ領域や分野の「知」を統合し,独自の専門性を発揮している3人の看護職の取り組みを紹介したシンポジウム「看護実践の中で共鳴し,統合される看護学」(司会=東京工科大・森田夏実氏,宮城大・武田淳子氏)の模様を紹介する。


佐藤紀子会長
 専門看護師・認定看護師などの育成に見られるように,これまでの看護教育では専門領域や分野に特化した知識や実践力の強化が図られてきた。しかし社会が変化する中では,多様な病態や複雑な背景を持つ患者への看護,地域での看護など,複数の専門性を統合した看護も求められている。

高齢者のケア実践を小児に生かす

 最初に登壇した訪問看護ステーション統括看護管理者の梶原厚子氏(はるたか・あおぞらネット)は,暮らし続けられる街をつくるためには,小児から高齢者までを対象とした看護が求められると述べた。超高齢社会が進む中,医療費への影響や死亡者の急激な増加から高齢者の地域包括ケアシステムの構築が注目されてきた。しかし,地域においては小児看護も重要な課題となる。医療技術の進歩によって,医療デバイスの補助があれば歩けたり話せたりする小児が増えてきた一方で,そうした小児は例え医療依存度が高くても現在の障害者福祉制度では行政上の措置が得られないことがある。新生児死亡率が減り,小児未熟児出産や医療依存度の高い重症児が増加している現状に対して,社会保障が整っていないのだ。氏は,乳幼児期の成長発達を理解することは高齢者を理解することにもつながり,そして暮らしの中にいる個人を支援することは地域の成長にもつながると述べ,小児の専門性も重要としつつ,年齢を問わずスペシャルニーズを持つ人の暮らしを支えられるよう,高齢者の地域ケアの実践で得たことを小児ケアに生かす必要性を呼び掛けた。

シンポジウムの模様

精神と身体の統合が日常ケアの本質

 こころとからだを統合した看護実践について語ったのは,リエゾン精神看護専門看護師の山内典子氏(東女医大病院)。病気や怪我により身体に障害が生じると,健康時には意識する必要のなかった自己の身体に対して注意を向けねばならなくなり,精神と身体の分離が起きる。氏はナイチンゲールの言葉を挙げ,そうした患者を支えるための療養環境を整えることが看護の重要な役割であると指摘した。「環境」には看護師の存在が含まれる。手術を控えて眠れずにいる患者に寄り添い,不安を緩和するなど,看護師は日常的に身体と精神を区別しない,患者丸ごとを支えるケアを実践している。看護の定義である療養上の世話や診療の補助といった日常生活の援助そのものが,お互いの身体を通した心のケアにもつながっているためだ。氏はリエゾン精神看護専門看護師として患者-医療者関係を調節し,患者と看護師,両方のストーリーを支持的に聞く経験を通してそれを強く実感しているという。一方で,患者との関係性に不調和が生じ看護師が日常的なケアを続けられなくなることもある。患者の苦悩と葛藤は時として拒否や怒りなどの感情を生み,看護師にとって共感し難い言動につながる。氏は,かかわりが難しい事例,共感し難い事例に深くかかわることで,その奥にある患者と看護師の関係性の在り方が見えてくるとの考えを示し,精神と身体を統合するケアの重要性を強調した。

医学モデルと看護モデルの統合

 急性期看護の中でのコンフォートケアを研究する江川幸二氏(神戸市看護大)は,クリティカルケアにおける「医学モデル」と「看護モデル」の統合を提唱した。氏にはかつて,生命維持のためのモニター管理や観察といった医学的側面に追われ,看護を見失い自問自答した経験があった。しかし「治療(キュア)の補助」と「ケア」を別々に行うのではなく,点滴やモニターの確認などをしながらも意識的に患者に語りかけ手を握るなど,キュアとケアの境界を超えるようにすることで,ケアの無限の広がりを感じ看護が面白くなったという。コンフォート理論の成果として得られる身体的回復や,P.ベナーの「非常に思い切った処置(手術)は,実は安楽(コンフォート)の援助に依存しているのであり,それなくしては行えない」という文献を引用し,これらは看護によってこそ重症患者の真の回復が得られることを示唆しており,「医学」と「看護」の統合の基盤となる考え方を提唱していると述べた。さらに,近代西洋医学のみならず伝統医学や相補・代替療法などを組み合わせて最適な治療法を選択する統合医療の考え方を紹介。自らの信じる「知」が唯一絶対だと思わず,多様な価値観を受け入れる多元的思考が「知」の統合の第一歩だという持論を示した。また,新たな「知」の適用後,患者の反応を評価し,多職種チームとしてより患者に合ったものを模索していくことが真の「知」の共鳴や融合につながると訴え,講演を締めくくった。

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