医学界新聞

寄稿

2016.07.25



【特集】

大人数のクラスでも実践できるアクティブラーニング
チーム基盤型学習TBL


 学生の能動的な学習を促す教育手法,アクティブラーニング。学習効果が高いというメリットがある一方で,その多くは小グループごとにチューターや場所が必要という人的リソースや費用の課題もある。そこで今注目されているのが,大人数のクラスでも実施できるチーム基盤型学習(Team-Based Learning;以下,TBL)だ。本紙では,学生約100人に対して教員3人でTBLを実施している聖路加国際大の「周産期看護学(実践方法)」の授業を取材した。


 「陣痛が強くなってるってことは,分娩が進んでいるんだよね?」「すごくツラそうだけど,今の内に何か食べてもらったほうがいいのかな」。教室では5~6人ずつのチームに分かれた学生たちが,活発な議論を交わしている。全16チーム,全体で約100人の学生が座る大教室にいる教員は3人だけだ。その回の担当者1人が中心となって講義を進め,2人がサポートとして学生の議論の様子を確認しながら教室を回る。

 この日のテーマは,実習で最もよく扱う産褥期のケア。学生たちは,事前の学習課題として配布されたアセスメントシートの内容を基に,4つの選択肢の中から最も優先するケアを検討していく。15分のディスカッションタイムが終わると,全チームがABCDの札を用いて一斉に解答を掲げた。「解答の理由を発表したいチームは?」との教員からの呼び掛けに,ほとんどのチームが勢いよく手を挙げた。

学習への責任の自覚を促す

 TBLは,チーム内やチーム間でのディスカッションを中心とする学習方法だ。「知識の習得はもちろんのこと,知識を応用して問題を解決する力,物事を判断する力が育まれる」。こう語るのは,同大で4年前からTBLを導入した授業を行っている五十嵐ゆかり氏。さらに,「チームでの学習活動を通じて,結束力や信頼感・責任感が生まれ,コミュニケーション力,対人関係構築力,チームビルディング力などを身につけることができる」とTBLの意義を強調する。

 TBLの大まかな流れはのとおり。学生は教室での学習活動の前に,事前に配られた予習資料を基に自己学習を行う。そして教室ではまず,予習資料の内容に沿った多肢選択問題に個人で取り組む(iRAT;individual Readiness Assurance Test)。自己学習で学んだ内容を確認する目的で行うもので,小テストのような役割を果たす。その後,同じ問題にチームで取り組む(tRAT;team Readiness Assurance Test/写真❶)。チームで議論して解答を選ぶことで,結論を導くまでの判断,チームでの合意形成などを学ぶことができる。

 TBLの基本の流れと各構成要素と類似した学習方法(文献1より一部改変)
今回の授業では,iRAT,tRATは各10分,応用演習問題はチーム内,チーム間ディスカッション合わせて計20分で行った。短い時間でテンポよく展開していくと,集中力が維持でき,学生のディスカッションが活発になるそうだ。

写真 ❶チームでディスカッションして問題に取り組む。自己学習をしてこなければチームにも貢献できないため,自分自身とチームへの責任感が身につく。

随所にちりばめられた効果的なフィードバック

 TBLの特徴の一つは,教員からの「フィードバック」以前の箇所にも,随所にフィードバックがちりばめられている点にある。tRATはスクラッチカードなど,たどりついた解答の正誤がその場で即座にわかるものを用いると印象に残りやすく,思考の整理を助けられる。また,チームの意見を聞かずに自分の考えを押し通したり,正答がわかっていたのに黙っていたりしたことでチームの答えが間違った場合,議論の過程そのものやチームの一員としての振る舞いへの反省が自然と促される。

 さらに,問題のわかりにくかった箇所などに対しての意見や質問を提出する「アピール」でも,持参した教科書や資料を確認することで,間違えた問題を見直すことができ,学びが深まる。成績は主にiRAT,tRAT,応用演習問題,ピア評価によって決定するが,アピールでの加点もあるため,学生たちは真剣に取り組むという。

 アピールの提出後には,教員からのフィードバックが行われる。学生が消化しきれなかった部分や疑問点について,知識の確認と考え方の軌道修正をすることが目的だ。教員はtRATの議論に耳を傾け,正答率が低かった問題だけでなく,学生が理解しにくかった問題も見極めて補足説明をしていく。

応用演習で知識の使い方を学ぶ

 フィードバックを終えると,次はチームで取り組む応用演習問題に移る。出題されるのは,より臨床現場に即した複雑な問題。RATで確認した基本知識を使用して取り組んでいく。そして,チームでの議論の後に,全チームが一斉に解答する(写真❷)。さらに,なぜその解答にたどりついたのか,チーム間ディスカッションを行う。これにより,他チームと学習内容のすり合わせができ,チームによる到達度の差も少なくなるという。

写真 ❷応用演習問題への一斉解答。チーム間ディスカッションにより,異なる解答の根拠や,同じ解答でも視点の違いなどを学ぶことができる。

 最後に教員からその問題を取り扱った意図を伝え,総括する。「応用演習では必ずしも明確な正解がない問題も扱う。それにより,臨床現場で実際にそのような状況に出合ったときに,専門職としてどのように対峙するかを考える機会になる」と五十嵐氏は語る。

 授業を受ける学生たちからは「解答の理由を説明するため,根拠まで考えて学べる」「一人では気付かない点や,自分に足りていないものが議論の中で明確になる」と学習効果を実感する声が聞かれた。

実習につながる発展型講義

 この科目では,学生が現場をよりリアルにイメージできるように工夫が凝らされている。その一つが,「TBLシアター」だ(写真❸)。この日は,分娩期の妊産婦や助産師の様子が教員たちによって臨場感たっぷりに演じられた。印象的だったのは,「実習生」役がいたこと。実習生が助産師に実習目標を確認してもらっている途中で,妊産婦が痛みを訴え,助産師は陣痛室に行ってしまう。実習生はどうすべきかわからず,その場で立ち尽くす――。実際にありそうな状況だ。テストではよくできている学生でも,実習先では言葉が出なかったり動けなかったりすることは少なくない。TBLシアターでは劇を通して,具体的な場面の様子だけでなく,そこでの振る舞い方も学ぶことができる。2年前に実習生役を加えて以降,最近実習生が積極的になったという声が現場から届いているそうだ。

写真 ❸TBLシアターでは実習で遭遇する場面(妊婦健診,分娩進行中,分娩後の入院中など)を教員が再現する。現場の意見も聞きながら,臨場感・リアリティのある状況になるようシナリオを吟味しているという。

 その他にも,病棟見学やギャラリーウォーク,コミュニケーション演習など,工夫はさまざま。教員にとっては自分のやり慣れた方法で授業を実施できる部分でもある。授業全てをTBLに変えるのが大変な場合には,部分的にTBL方式にする,あるいは講義の後に応用演習を行うなど,徐々に取り入れるのも一つの手だ。

 五十嵐氏は,「通常の講義とは学生の反応が全く違う。教員も楽しみながら授業ができるので ,ぜひ取り組んでほしい」と笑顔を見せた。

参考文献
1)五十嵐ゆかり.トライ! 看護にTBL――チーム基盤型学習の基礎のキソ.医学書院;2016.

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