医学界新聞


研修医だからこそできる回診がある

連載

2016.07.11



めざせ!病棟リライアンス
できるレジデントになるための㊙マニュアル

ヒトはいいけど要領はイマイチな研修医1年目のへっぽこ先生は,病棟業務がちょっと苦手(汗)。でもいつかは皆に「頼られる人(reliance=リライアンス)」になるため,日々奮闘中!!……なのですが,へっぽこ先生は今日も病棟で頭を抱えています。

[第2話]
“回って診る”だけじゃもったいない!
研修医だからこそできる回診がある

安藤 大樹(岐阜市民病院総合内科・リウマチ膠原病センター)


前回よりつづく

 夜勤看護師たちが朝食の介助や申し送り事項のまとめに取り掛かる午前7時30分,へっぽこ先生は病棟に到着しました。「8時30分からチーム回診が始まるからな。それまでに担当患者さんの回診済ましておかなきゃ!」(へっぽこ先生,要領はイマイチだけどマジメなのです)。でも,いつも8時30分までに回りきることができず……。鬼指導医「研修医が患者のことをきちんと把握しとかなきゃダメだろ!!」

(へっぽこ先生) ハァー(深いため息)。
(セワシ先生) どうしたの,へっぽこ先生? はは~ん,さては彼女とケンカしたな。まぁ,そういうときはたいてい男が悪いんだから,素直に謝ってしまいなよ。僕も若いころは……。
(へっぽこ先生) ハァァ――(さらに深いため息)。そ~じゃないですよ! 今朝も時間に余裕を持って出勤したんですけど,チーム回診までに情報収集が終わらなくて。長くお話しされる患者さんの会話を切るわけにもいかないし……。
(セワシ先生) 患者さんが長く話すってことは,それだけへっぽこ先生のことを信頼してくれているんだよ。でも,確かに時間には限りがあるしね。特に朝の回診は,ポイントを押さえて回らなきゃ。


 診察の仕方を教えてくれるモチベーションの高い指導医はたくさんいますが,回診の仕方ってあまり学ぶ機会がないんじゃないかと思います。医学教育全盛のご時世ですが,この分野は相変わらず,「経験から学べ!」なんですよね。学ぶ機会がないということは,研修修了後に修正する機会もほとんどない……。つまり,研修中の回診の姿が,そのままあなたのこれからの回診スタイルになっていくということです。研修中の今のうちに,しっかりと目的を持った,意味のある回診ができるようになっておきましょう。

回診使い分けのススメ

 そもそも目的はどのように設定すべきでしょう? それは,回診を行うタイミングによっても変わってきます。では,どれくらいの頻度で回診すべき? これについては,患者さんの気持ちになってみたらおのずとわかってきます。それは「最低1日2回」です(ルーチン回診)。実際に患者さんたちに尋ねてみたのですが,1日1回の回診は非常に事務的な印象を与えるようなのです。だから「1日2回,ルーチンで回る」,これを目安にしてみるとよいのではないかと思います。

 さらに,ルーチンの回診に加え,「本気回診」や「ミニ回診」を織り交ぜていくとより効果的に情報が得られると感じています。今回は,回診のバリエーションと,それぞれの力点の置き方について一緒に考えていきましょう()。

 回診の種類とポイント

【ルーチン朝回診】

 朝,病棟に着いたらまずやること。それは,コメディカルの方々へのあいさつです。「おはようございます! 夜勤お疲れさまでした。○○科(ローテート先)の患者さんで,何か変わったことありませんでしたか?」みたいな感じです。短い期間でローテーションしてしまう初期研修中は意外とおざなりになってしまいがちですが,社会人として当たり前。むしろ,こういったことであなたの評価だって変わってきます。あと,「研修医□△,ここにいます! 朝早く来ています!」アピールにもなります(これ,結構重要)。

 その後,指導医たちより“先回り”して5-10分程度で,カルテから担当患者さんのバイタルサインと夜間イベントの確認を行いましょう。その際,どんなことでもいいので,1人の患者さんにつき1つ,コメントする「ネタ」を探すように。「昨日は眠れなかったみたいですね」「夜中に熱が出て大変でしたね」といった患者さんの状態・症状に対するひと言ならベターです。

 もし新しい情報が何もない場合でも,「昨日の夜は落ち着いていたみたいですね」で大丈夫。要は,「この先生は自分のことに興味を持ってくれているのだな」と,患者さんに感じていただくことが重要なのです。1人に充てる時間は1分程度で十分。もしそれ以上長くなるようなら,「この後,□□先生と一緒にまた伺いますので待っていてくださいね」と伝え,次の患者さんのもとに向かいましょう。

【チーム回診】

 続いて,チームで行う回診です。準備は,ルーチン朝回診で得た情報を簡単にメモし,指導医の先生に確認しておきたいことを考えておけばバッチリです。回診が始まったら,チームを先導するぐらいの気持ちでいきましょう。「〇〇さ~ん! たびたび申しわけありません! 回診で~す!」と,元気に声掛けをしてください。チーム回診における研修医の役割とは“切り込み隊長”なんですから。

 それぞれのベッドサイドで少しディスカッションもすると思いますが,ここでの注意点は,「患者さんの前で専門用語を並べない」ということ。われわれが話す何気ないひと言が,患者さんの不安を煽る恐れだってあるのです。もしチーム回診終了後に時間があれば,患者さんのところに顔を出し,「先ほどの回診で,何か疑問に思ったことや,不安に思ったことはありませんか?」と聞いて回れればカンペキですね。

【ルーチン夕回診】

 「帰る前に患者さんの状態を確認すること」が目的です。この回診は特に事前準備の必要はありませんから安心してください。正直,朝回診ほどの臨床的な意味合いもないかもしれません。「今日の検査,大変でしたね」「今日の診療内容で何か不明な点はありませんでしたか?」といった,患者さんに対する“気遣い”をより強く示すことが大事です。ここで最後に「では,明日の朝も伺いますので,もし何か気になる点があればそのときに教えてくださいね」と伝えておくと,患者さんも安心ですし,翌日の朝回診もスムーズに進みますよ。

【勝負回診】

 回診は毎回気持ちを込めて臨むわけですが,全ての回診で100%,徹底的に所見をとるというのは結構大変です。回診を日常診療の一部とするためにも,ある意味“ニュートラル”な状態で行うのが理想だと思います。でも,最低週1回は,丁寧な問診と丁寧な身体診察を行う,“アクセル全開”の回診を行いましょう。

 それぞれの手法やコツの詳細は成書に譲りますが,気に掛けてほしいのが問診です。「病歴なんて入院時にしっかりとっているよ」って思うかもしれませんが,ちょっと待った! Lawrence M. Tierney Jr.も言います。“History may change, repeat history.”って。患者さんも入院中にいろいろなことを思い出しているものです。診断がついていない症例はもちろん,診断がついている症例であっても,その診断をより強固なものにするために,繰り返し病歴を聴取してみてくださいね。ちなみにこの回診を行う日は,ルーチン夕回診はちょっと顔を出すだけでOKです。

【ミニ回診】

 米国病院医療協会の年次総会Hospital Medicine 2007 で,クリーブランドクリニック病院医療部長Franklin Michota, Jr.から「短時間の回診(1回約1分)を繰り返し行うMini-Rounds(ミニ回診)を加えることで,医師と患者さんのコミュニケーションと満足度を短時間で効率よく改善できる」という報告がされています。極端な話,顔をヒョイっと出して“会釈”するだけでもいいです。「いつも気に掛けてくれている」と,患者さんに思ってもらうことが大切です。

 すべての回診に言えるのですが,回診時は可能な限り膝を床につけ,患者さんと同じ目線で行うようにしましょう。診察もしやすいですし,何より,皆さんも上から見下ろされながら話されたら,いい気分はしないですよね? 

 あと,慣れてきたら「今回は雑談メインで行こう」なんていう「雑談回診」も個人的にはありだと思っています。患者さんとの信頼関係ができるのはもちろん,何気ない会話の中に診断のヒントがあるかもしれません。仮に診断につながる情報がなくても,「○○さん,実はこんな趣味をお持ちなのですよ」「食欲がないんじゃなくて,病院食の味が合わないみたいなんです」といった,他のスタッフが知らない情報を持っているだけで,あなたを見る目も変わってきますしね。

 研修中は,おそらく医師人生において最も入院患者さんと密にかかわれる期間です。だからこそ,「チームの中でいちばん患者さんのことを知っているのは自分だ!」と,自信を持って言えるようになっておきましょう。

セワシ先生の今月のひとこと

 回診の目的を明確にし,どこに力点を置くのかをあらかじめ想定してから取り組もう。ニュートラルな気持ちで行うもの,アクセル全開で行うもの,さらに会釈だけのミニ回診……あらゆるタイプの回診を織り交ぜることで,効率的に情報収集できるだけでなく,患者さんの満足度は確実にアップしますよ。

つづく

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