医学界新聞

2016.06.20



Medical Library 書評・新刊案内


COPDの教科書
呼吸器専門医が教える診療の鉄則

林 清二 監修
倉原 優 著

《評 者》河内 文雄(稲毛サティクリニック理事長)

教科書の概念をひっくり返す“クスリの効能”

 長年にわたり,医療というものは医学だけで対処できるほど生易しいものではない! と思ってきました。ことCOPDに関しては,その医学を総動員しても対応することが難しい,とても厄介な疾患であると感じています。ところがどっこい! 医学だけでもここまでできるのだよ,と教えてくれたのは本書です。

 この本を豊かな名著ならしめているものは,著者である倉原優先生の不断の努力の結晶である広い知識と,物事の本質に迫る深い洞察力,さらには患者さんを助けたいという高い志にあることは間違いありません。

 ちなみに,先生の日々の勉強の記録でもあるブログ「呼吸器内科医」のアクセス数は1000万! を超えています。純粋に学問的な内容でありながら,これだけ多くの方々が繰り返し先生の知的探索の後を追っているという事実は,すなわち先生の実践されている呼吸器病学の方向性が極めて妥当であることの証しでもあります。

 さらに言えば,本書の最大の特色は,思わずクスリ^^と笑ってしまう倉原先生のユーモアセンスにあります。ネタばらしとなりますのでここでは具体的な紹介を控えますが,そのおかしさは,ぜひ本書を手に取られる皆さまご自身でお確かめください。

 一般的なイメージの教科書に代表される,網羅的な知識をこまごまと積み重ねた文章を読む場合,目は文字を追っているのに,頭の中では別のことを考えている,というような状況になることがしばしばあります。しかし本書は『COPDの教科書』という書名でありながら,そのようなことはまったくありません。これはまさに“クスリの効能”です。文章のところどころに仕掛けられたクスリ^^が,ホッとした心のオアシスの役割を果たし,勉学の疲れを感じさせないのだと思います。

 さらにもう一つの“クスリの効能”は,そのタグ効果にあります。例えばCOPDの治療に関連して,LAMAはホンダ選手,LABAはカガワ選手という印象的な記述を覚えておくだけで,複雑な治療戦略がすっきりと見通せるだけではなく,その周辺の細かい知識も芋づる式に思い出すことができます。

 このように全体を俯瞰して見ると,本書の出版はまさに,教科書の概念を根底からひっくり返す,エポックメーキングな出来事なのだと思います。

 本書を読み終えた暁には,皆さまはCOPDの大家(たいか)となっていることでしょう。大家(おおや)になってはいけません。COPDは家賃を払いませんから……。

A5・頁348 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02429-7

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