医学界新聞

2016.06.20



第51回日本理学療法学術大会開催


 第51回日本理学療法学術大会(大会長=埼玉県立大・星文彦氏)が5月27~29日,札幌コンベンションセンター,他(北海道札幌市)にて開催された。「理学療法学のアイデンティティ――基盤と分科」をテーマに掲げた今回は,日本理学療法士学会が12の分科学会と5部門に改組された最初の“連合大会”となり,分科学会ごとに特色のある講演やシンポジウムが企画された。本紙では,日本地域理学療法学会によるシンポジウム「地域の中での様々な連携の取り組みと課題について考える」(司会=北海道医療大大学院・鈴木英樹氏)の模様を報告する。

「何ができるか」を考え,理学療法士にしかできない地域介入を

シンポジウムの模様
 最初に登壇した箭内一浩氏(北海道理学療法士会/北星脳神経・心血管内科病院)は冒頭,「2025年,北海道北見市では10人に1人が要介護・要支援認定者になる」と示し,介護予防の重要性を述べた。「転倒・骨折」は,要介護の原因の8.3%で,理学療法士が一次予防に介入すれば減らすことができる。そこで2014年から北海道理学療法士会道東支部と北見市地域包括支援センター連絡協議会が連携し,転倒10%減,筋力10%向上,介護保険料10%減などを目標に「転倒予防プロジェクト10」を計画。介護予防に特化したご当地体操「きたみんと体操」を考案し,約30人の高齢者を対象に月1回,6か月間の通年介護予防教室で実施したところ,参加者には膝伸展筋力などの改善がみられたという。連携の成果について氏は,「転倒・骨折に焦点を絞り,目標をコンパクトにしたことにある」と振り返った。さらに氏は,協働事業により他職種や住民からの理学療法士への理解も深まり,地域での活躍の場が広がったと語った。道東支部では今後,地域包括ケア構築への理学療法士の関与や,薬剤師会との協働事業も予定しているという。

 地域の医療・福祉・介護は1つの事業者では完結せず,多くの職種や事業者の役割分担,協力体制,円滑な情報伝達が欠かせない。「成果を最大にするには,どこで,誰が,何をしているか各事業者が理解し,互いに補完し合う,活用可能なネットワークを構築することが重要になる」。こう述べたのは,札幌二次医療圏で活動する,江別地域ケア連絡会の長尾俊氏。理学療法士として地域にどのようなリハビリテーション関連の社会資源があるかを把握し,職種・事業者間で情報交換をするための場を設けている。事業者間で一見連携が取れているようでも,担当職員の交代により連携に支障を来した事例を挙げ,連携の難しさは「どこで,誰が,何をしているか」の相互理解の不足に原因があると分析した。そこで氏は,事業者間の連携を進める目的で,「連絡会のための連絡会」を開き,住民のために公的・非公的サービス事業者の垣根を越えた理解を促す工夫を凝らしてきたという。今後は特定の個人に依存しない組織体制の構築に取り組む必要もあると提言した。

 大分県は,2015年度改定の介護保険料上昇率が4.6%と,全国で最も低かった。その背景に,理学療法士をはじめとするリハビリテーション専門職と介護職との連携があったと報告したのは,理学療法士の竹村仁氏(臼杵市医師会立コスモス病院)。同県では2015年度,高齢者のケアプラン策定を行う地域ケア会議に延べ1742人のリハビリテーション専門職を派遣したという。ケアプラン策定の中心を担う介護支援専門員に対し,リハビリテーション専門職が「要介護者がいつまでに何をできるようにするか」を助言することで,以前は主観的な要素の強かったケアプランに,活動レベルと期間の目標を明確に設定できるようになったと語った。さらに氏は,リハビリテーション専門職が客観的視点からADL評価ツール,運動指導フローチャートを作成し,介護支援専門員や訪問介護員に活用してもらう新たな取り組みを始めていることも紹介。要介護者の自立を支援する,より良い介護を提供するために,地域包括支援センターにリハビリテーション専門職を配置する必要性を訴えた。

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