医学界新聞


入院時指示は,1人ひとりにスペシャルブレンドを

連載

2016.06.13



めざせ!病棟リライアンス
できるレジデントになるための㊙マニュアル

ヒトはいいけど要領はイマイチな研修医1年目のへっぽこ先生は,病棟業務がちょっと苦手(汗)。でもいつかは皆に「頼られる人(reliance=リライアンス)」になるため,日々奮闘中!!……なのですが,へっぽこ先生は今日も病棟で頭を抱えています。

[第1話]
入院患者さんがやってきた!
入院時指示は,1人ひとりにスペシャルブレンドを

安藤 大樹(岐阜市民病院総合内科・リウマチ膠原病センター)


 今日から内科病棟での勤務です。「あそこの電子カルテが空いているけど,使っても怒られないかな……」。ビクビクしているへっぽこ先生の院内携帯に着信がありました。

 鬼指導医「今日からローテートのへっぽこ先生? 今から救急外来の患者さんを上げるから,入院の指示だけ出しておいて。よろしく!」(ピッ! ……ツーツーツー)。

(へっぽこ先生) 入院の指示!? そんなの出したことないよぉ(涙)。仕方ない。他の患者さんのカルテをチェックして,出ている指示をそのまま使っちゃおう。……おっ,こんなところに「入院指示」のテンプレートが! とりあえずこれをポチッと。……よしよし,何となく形にはなってきたな。
(セワシ先生) ……(通りすがり際にガン見)。
(へっぽこ先生) (わっ,すごく見られてる!)な,何ですか,セワシ先生。
(セワシ先生) 今出した指示ってさ,本当にその患者さんに合った指示なのかな? しかも,そんなにたくさんの指示を出して。全部フォローしようと思ったら,医師も病棟スタッフも大変だよ。……そもそも,へっぽこ先生は患者さんをまだ診ていないよね? 


 電子カルテは便利です。効率もいいですし,他のスタッフとのカルテの取り合いもありませんし,達筆な(?)指導医のカルテの解読をする必要もありません。でも,使い方を間違えると,なんでもかんでもコピペしてしまう“脊髄反射の思考回路”になってしまいます。カルテ記載も“do”,内服も“do”,検査も“do”の「ドゥドゥ症候群」(造語です)に罹患することなく,入院指示をきちんと考えて出せるようになりたいですね。

 言うまでもなく,患者さんは一人ひとり違います。「この人には何が起こり得るのだろうか?」と思いを巡らせ,それぞれに“スペシャルブレンド”を作り,提供する必要があるのです。そのために,まずは患者さんを知ることから始めてみましょう。

入院時指示に欠かせない「4K」

 患者さんを知るための方法はいろいろありますが,何よりも大切なのは以下の「4K」です(……いや,テレビのことじゃないですよ)。

● 「カルテ(Karute)」
● 「患者(Kanja)」
● 「家族(Kazoku)」
● 「関係者(Kankeisha)」

 救急現場では「患者(Kanja)」が先行することが多いと思いますが,今回のようなセッティングであれば,最初に遠隔で「カルテ(Karute)」のチェックを行うことが多いと思います。そこで,「診断(主病名/疑い病名)」「入院目的」「現在の状態(全身状態や疾患重症度)」をしっかり把握することは大前提ですし,入院を担当する病棟スタッフのためにも,これらの情報をカルテのわかりやすいところに記載しておきましょう。もし,患者さんに入院歴があればラッキーです(!?)。前回の「退院サマリー」を読み込み,プリントアウトして白衣のポケットの中に入れておきましょう。入院時の検査結果の確認は当然ですが,必ず経時的な変化の確認もお忘れなく。

 次に「患者(Kanja)」です。診察をする時間が十分に取れればベストですが,研修中,あなたの指示を待っているスタッフとの“パワーバランス”を考えると,現実的には難しいかもしれませんね(汗)。まだ患者さんと接していない最初の段階では,所見の中心が入院を決定した医師の記載でも仕方ありません。ただ,ほんの一瞬でもいいので,自分でも患者さんの様子を“診て”ください。「思ったより重篤感あるな」「誤嚥のリスク高いかも……」といった,カルテからは伝わってこない感覚は,適切な指示を出すために非常に重要です。

 そして,「家族(Kazoku)」。家族からだけで十分な情報が集まれば問題ありませんが,「ずっと施設に入っていて,最近の状況は全然知りません」なんてことは日常茶飯事です。入所していた施設スタッフや搬送してきた救急隊など,「関係者(Kankeisha)」からも積極的に情報収集しましょう。“The three most important parts in making a diagnosis are History, History, History.”(by Lawrence M. Tierney Jr.)ですから。

指示出しは「3 STEP」を意識する

 では,そろそろ指示を出してみましょう。ここで漫然とした指示出しはNG! スマートな指示出しを行うには,必要度に応じた“流れ”を意識することが大事です。次の3 STEPで考えていきましょう()。

 入院時指示の3STEP

【STEP1】全身状態を把握するための指示を入れる
 まずは,「どんな患者さんに対しても必要な指示」を入れることから始めます。基本的には「全身状態を把握するための項目」です(もし指示出し前に直接患者さんと接することができない場合も,このSTEP 1だけは出しておきましょう)。体温,血圧,脈拍数はもちろんですし,酸素飽和度も簡便さを考えると入れておきたい項目です。その他にも,安静度,清潔(入浴,シャワー,清拭),食事内容,内服継続の要否などはお忘れなく。

 以上のものを「1軍」,以下に挙げるものは「2軍」とします。というのも,尿量や呼吸数も本来なら知りたいところですが,忙しい病棟看護師さんのことを考えると「どの患者さんでも必須の項目」とまでは言えません。同様に,血糖値とVAS(Visual Analogue Scale)も,患者さんの負担を考えるとケース・バイ・ケースでオーダーする項目と言えるものなのです。もちろん,「万が一,何か起こったときに確認していなくて後悔するかも!?」なんてことが少しでも頭をよぎる場合は,ためらわずにオーダーしましょう。当たり前ですが,あくまで“ペイシェント・ファースト”です。

【STEP2】患者に発生する可能性のあるイベントに対する指示を入れる
 胸痛時,腹痛時,疼痛時,不眠時などは入れておきたい指示のレギュラー候補(1軍)です。持続モニタリングも可能ならば全症例に出したい指示ですが,モニター機器の数にも制約がありますので,対象症例はよく考えましょう。脳梗塞症例などに対するけいれん時,アレルギーのある患者のアレルギー発作時,高齢者やアルコール多飲者の不穏時指示も忘れずに指示出しの必要があるかを検討すべき項目です(2軍)。このあたりはとにかく,あなたの“抜け目のなさ”が試されます。

 なお,時々,「便秘時の指示」が入っている場合もありますが,個人的にはあまりお勧めしません。イレウスなどを除いて,一刻を争うような便秘はあまりありませんし,一口に便秘といってもその原因はさまざまです。入院時指示でのルーティンな対応は,患者さんへの不利益になる可能性もあることを忘れてはいけません。不眠や不穏など,夜間病棟での対応に困るような項目とは分けて考えるほうがよいと思います。

【STEP3】「自分の出した指示」に関する補足的な指示を入れる
 指示を出しっ放しで,その項目に何か異常が発生したときの対応が書いてないことって多いです。で,最も看護師さんたちに嫌われるのが,実はこのパターン(汗)。したがって,STEP 1,2で入力した指示をじっくり見返し,それらと関連するイベント発生時の対応を頭の中でシュミレーションし,その策を明示しましょう。「自分が夜間にこの患者さんの担当看護師だったら」という視点で,困る場面を想定してみるのがポイントです。

 発熱時,血圧低下時,酸素飽和度低下時に対する指示は当然でしょう。尿量低下時や血糖異常時の指示は漏れていることが意外と多い項目なので,要注意ですね。また,「指示」とは異なりますが,今後の検査予定,治療計画,入院期間のめどなど,「医療チーム全体で共有しておくべき情報」を記載しておくことも有効だと思います。

 なお,オーダーを出す上で大切なのが,「判断に迷う場合はいつでも担当医に連絡してください」という一文(もしくはひと言)を添えておくこと(爽やかな笑顔で言えればカンペキ!)。このひと言が,円滑なチーム医療を行うための鍵になりますし,病院全体でのあなたの評判につながる……かもしれません。対応の方法がわからないときは,「この病棟では普段どのように対応していますか?」と,看護師さんに尋ねてみるのも大切ですよ。

 このように,入院時の指示出しを丁寧にやることは,実は「必要以上に呼び出されないため」であり,つまりは「自分が少しでも楽をするためにどうすればいいか」の結晶です。このように書くと悪い印象を持たれるかもしれませんが,医師は体力勝負! 「仕事の質を下げないよう,いかに楽をするか」と効率を求めることも,立派なプロとしての責務ですよ。

セワシ先生の今月のひと言

入院時指示は,個々の患者さんに対してスペシャルブレンドを!「もし自分がこの患者さんの担当看護師になったら……」と考えて,自分の出した指示を振り返ろう。センスのいい指示出しは,あなたの病院内での評価を上げるかもしれませんよ!

つづく


あんどう・だいき
藤田保衛大救急総合内科で総合診療を学び,現在は岐阜市民病院総合内科・リウマチ膠原病センター医員。藤和会安藤内科医院副院長を兼務。「自分で救える患者さんの数は限られているけど,研修医を教育すれば救える患者さんは何倍にも増える!」がモットーです。blog(http://fhugim.com?cat=1)も随時更新中。

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