医学界新聞

2016.05.09



Medical Library 書評・新刊案内


内科診断学 第3版

福井 次矢,奈良 信雄 編

《評 者》大滝 純司(北大大学院医学教育推進センター教授/東京医大病院総合診療科兼任教授)

101の症候・病態の思考と診療のプロセスを明示

 『内科診断学』の第3版が出版された。第2版の第1刷から約8年後の,待ちに待った改訂である。

 この本は評者が診療している東京医大病院総合診療科の外来で,最も頻繁に読まれている参考資料の一つであり,その外来の一角にある本棚(200冊くらいの本が並んでいる)に置かれている旧版は,大勢の研修医やスタッフに8年間使われ続けて,文字通りぼろぼろになっている。昔話になるが,私が研修医だったころに症候や病態から診断を考える際の参考書は,洋書の〈The Spiral Manual Series〉の『Problem-Oriented Medical Diagnosis』という小さな本だった。それを読みながら,日本の診療に沿った本が欲しいと何度も思った。

 この本は改訂のたびに構成を大胆に見直し進化を繰り返している。今回の改訂では,最大の特徴である症候・病態に関する部分が大幅に強化されている。その項目数は101にまで増え,各項目につき数ページずつ,思考と診療のプロセスがわかりやすくまとめられている。一方,旧版でかなりのページ数を占めていた,個別の疾患に関する章はなくなった。これについて新版の「序」では「他書に譲る」としている(p.V)。確かに,疾患ごとの解説は,電子教科書など優れた他の参考資料が増えている。前述したように評者が診療する現場での旧版の使われ方を見ても,本書はこの症候・病態に関する部分の需要が最も多いので,今回の改訂方針はありがたい。

 旧版と同様に「診断の考え方」「診察の進め方」の二つの章には,基本的な理論や考え方から身体診察や基本検査のノウハウまで,新たな知見も含めてわかりやすくまとめられている。疾患に関する章はなくなったが,具体的な症例の診断プロセスを例示する第IV章「症例編」が新たに設けられた。この症例編では多様な症例それぞれに丁寧な解説が付けられ,新版の特徴の一つになっている。診断能力を習得するには,ある程度の知識を学んだ上で具体的な症例の検討を繰り返すことが大切とされており,このような幅広い領域の症例検討の読みやすい資料は,演習形式での学習にも使えるだろう。今版は個人で利用する場合に限りオンラインの電子版も閲覧できるようになった。また,冊子体は全てのページがカラーになり,索引も充実して,一覧性など紙媒体としての強みが増している。

 あえて要望するならば,参考文献をある程度は示していただきたかった。改訂の間隔が8年と長いことを考慮しても,症候や病態などについて項目ごとに,いわゆるエビデンスとしての基礎的な文献が数編ずつでも確認できると,診療や指導の裏付けとして役に立つだろう。

B5・頁1066 定価:本体9,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02064-0


スピリチュアル・コミュニケーション
医療者のための5つの準備・7つの心得・8つのポイント

岡本 拓也 著

《評 者》木原 活信(同志社大社会学部教授・社会福祉学)

スピリチュアリティを図解入りで説明した臨床家向けの入門書

 著者の岡本さんとは,京大法学部時代からの30年来の知り合いであり,今では同じ信仰者,スピリチュアリティの探求者,援助者としての共通の関心を求道し続ける盟友である。それゆえ,ホスピス医として並々ならぬ情熱で奮闘している友の姿を目に浮かべつつ読ませていただいた。

 読後感は誠に爽やかであった。本書の姉妹本『誰も教えてくれなかった スピリチュアルケア1)が,抽象度の高い内容で,学者向けであったとすると,今回の新著は,具体的,臨床的,実際的でありながらもポエティカルな言葉で紡ぎ出された臨床家向けの入門書であった。それが「未だ経験が浅く未熟だった頃の自分自身に向けて言ってあげたかった」(p.iii)と言うように,後進を励ます内容となっている。

 本書では,人間をスピリチュアルな存在として規定し,スピリチュアルな痛みを持つもの,という前提に立ち,その実例を,自分自身の失敗例を基に書いている。と言ってもここでのスピリチュアリティとは,特殊なものでなく,日常的なものである。それは,「心を込めて行うならば,すべての行為は,“祈り”となります。“祈り”とは,打算のない心で,全身全霊を込めて行う営み,です。いわば,“生活の祈り”,そういう“祈り”があります。決して,神社やお御堂,礼拝堂などで捧げられる“祈り”だけが“祈り”なのではありません」(p.58)という言葉に収斂される。また,近年欧米で話題になっているマインドフルネスについても岡本さんの天才的インスピレーションで的確に理解し,平易な言葉で解説されている。

 これまで抽象度の高く,近寄りがたいイメージであったスピリチュアリティを,5つの準備・7つの心得・8つのポイントで図解入りで説明してあり,医療者だけでなく,ソーシャルワーカー,心理臨床家,教育者,牧師などにも読んでいただきたい一冊である。

参考文献
1)岡本拓也.誰も教えてくれなかった スピリチュアルケア.医学書院;2014.

A5・頁188 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02529-4

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