医学界新聞


今後の内科学の臨床と教育を考える

2016.05.09



今後の内科学の臨床と教育を考える

第113回日本内科学会開催


 第113回日本内科学会が2016年4月15~17日,門脇孝会長(東大)のもと「結実する内科学の挑戦――今,そしてこれから」をテーマに,東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて開催され,多くの参加者が集まった。本紙では,睡眠関連障害に関するシンポジウムと,新専門医制度開始に向けた現状に関する説明会の模様を紹介する。


睡眠が身体に及ぼす影響を再考する

門脇孝会長
 睡眠は生命維持に必須の機構であり,睡眠不足によって私たちの健康は損なわれる。シンポジウム「睡眠関連障害と全身性疾患をめぐって」(司会=京大大学院・岡村均氏,奈良医大・木村弘氏)では,全身性疾患と睡眠との関連性が議論された。

 生活習慣病の発症・進展には,遺伝要因と生活習慣要因,外部環境要因が複合的に関与することが知られている。司会の木村氏は,睡眠は運動と栄養に並ぶ生活習慣の三要因であることに触れ,閉塞型睡眠時無呼吸(OSA)などの睡眠呼吸障害によって引き起こされる睡眠の“質低下”が,健康に与える影響について解説した。氏らは,OSA患者の睡眠時に見られる低酸素血症とそこからの回復を繰り返す「間歇的低酸素(IH)」に着目。IHがその他の因子と共に,循環器疾患や糖尿病,癌といった生活習慣病の発症・進展に悪影響をもたらすデータをいくつか示し,睡眠という観点から全身性疾患をとらえる重要性を説いた。

 体内時計に着目した創薬研究を進めるのは,京大大学院の土居雅夫氏。体内時計はバクテリアからヒトまでが類似した仕組みを持ち,生命に根源的なものである。氏らは体内時計の中枢として知られていた視交叉上核(SCN)に焦点を当て,SCNに局在する機能未定のオーファンG蛋白質共役型受容体を探索した。その結果,脳に特異的に発現し,欠損させると個体の活動リズム周期が短縮するGpr176を発見したと報告した。Gpr176はGzと呼ばれるG蛋白質と共役して夜間のcAMP産生を抑制しており,このシグナルが夜の活動リズムを支配していると考察。氏はGpr176を中心とするシグナルを標的として,今後の創薬研究の可能性に期待を寄せた。

 続いて三島和夫氏(国立精神・神経医療研究センター)が,社会で生活していく中で求められる社会時刻と本来の睡眠習慣のミスマッチによって生じる“社会的ジェットラグ”について説明した。覚醒時刻が恣意的に決定できるのに対し,入眠時刻は体内時計による影響を強く受けることから,人口の約3割を占める夜型体質の人々が,日常において軽度の睡眠不足を継続的に抱えていることに強い懸念を示した。こうした軽度の睡眠不足は自覚に乏しく,健康成人を対象とした実験において90%以上の被験者が潜在的睡眠負債を抱えていたという。自覚症状を伴わない睡眠不足でも,それが中長期的に続けば生活習慣病や気分障害の発症リスクを高める恐れもあり,社会時刻を個々人に合わせるための社会的な実験が求められると訴えた。

 柳沢正史氏(筑波大)は,覚醒を司る神経ペプチドとして発見されたオレキシンの創薬研究の現状について解説。2014年に日本,15年に米国で上市されたオレキシン受容体拮抗薬は,既存の睡眠薬GABAA受容体作用薬とは異なる作用機序の睡眠薬であり,内因性の覚醒系を特異的に抑制するという。一方,氏らがリード化合物の探索を進めるオレキシン受容体作動薬は,睡眠覚醒スイッチングの不安定化によって覚醒障害が生じるナルコレプシーの根本的治療薬,およびその他の眠気を伴う疾患の治療薬となる可能性があり,アカデミア発の創薬をめざす意気込みを語った。また,睡眠覚醒調節の根本的原理の解明に向けた自身の研究経過についても報告した。

 この他二つの発表が行われ,葛西隆敏氏(順大大学院)がさまざまな睡眠障害と循環器疾患の関連性について,陳和夫氏(京大大学院)は睡眠時無呼吸が全身性疾患に与える影響について解説した。

新専門医制度では外来研修を重視

 2017年4月に開始予定の新専門医制度について,「新・内科専門医制度説明会――内科専門医研修プログラムのことを中心に」(司会=日本専門医機構/福島労災病院・渡辺毅氏,金沢医大・梶波康二氏)において現状の説明がなされた。

 説明会挨拶で池田康夫氏(日本専門医機構)は,各団体から示されている懸念を可能な限り払拭しながら制度を作っていく意向を示した。現時点での今後のスケジュールは以下のとおり。6月末までに研修プログラムの1次,2次審査を終了,6月末までに研修を希望する専攻医を登録,7月中旬から研修プログラムを公開,8~9月に専攻医がプログラムに応募,9~10月に試験・面接,10月末までに1次募集の採用者を決定(1次募集で決まらなかった専攻医は2次,3次募集へ)。

 続いて登壇した横山彰仁氏(高知大/認定医制度審議会)は,内科の修了要件が厳しく,専攻医が減少するのではないかという学会内からの懸念に対して,主担当医として160症例,56疾患領域を経験するという修了要件を「3年目以降の症例で不足する場合には初期臨床研修中に経験した症例の内,主担当医として専攻医のレベルと同等以上の適切な考察を行っていると指導医が確認できる場合に限り,最低限の範囲で登録を認める」としたことを報告した。また,サブスペシャリティ専門医の取得が遅れるという声に対しては,現在でも最短(卒後7年目)での取得は1~3割程度というデータを示した。ほとんどの専攻医が卒後5年目までに基盤専門医を取得するようになれば,8年目までにサブスペシャリティ専門医を取得する人数は従来よりも増加することが期待されるという。

 研修プログラム作成の取り組み状況は宮崎俊一氏(近畿大/認定医制度審議会/日本専門医機構)が報告した。研修プログラムの要件は次の7つ。①内科研修カリキュラムの修得目標(200症例,70疾患領域の80%以上の症例を経験)を達成,症例経験には専攻医登録評価システム(仮)を活用,②専攻医2年目以降から,初診を含む外来(週1回以上)を通算で6か月以上行う,初診外来診療の実施日と診療した初診例数は指導医が検証,③当直を経験,④JMECCを受講,⑤安全研修,管理研修を受講,⑥CPCを受講,⑦専攻医3年目以降,所定の症例経験を行った者は内科専門医制度の査読委員会へ病歴要約を提出し,査読を受ける。宮崎氏は,特に外来症例を重視するようになった点が特徴だと説明した。

 研修プログラムの受付は今年3月末に終了し,合計523プログラムが提出された。定員合計は6097人(認定内科医の平均受験者数の1.69倍),参加施設数は2878施設であり,344ある二次医療圏のうち1箇所を除いた全ての医療圏が網羅されている。氏は,6大都市圏のプログラム数が多いことは確かだが,地方の定員設定は増えていることに言及。現行制度では50医療圏が空白となっていることを挙げ,懸念されている地域医療崩壊の可能性について考える一つの参考となるのではないかと述べた。

 領域研修委員会における1次審査のポイントは,①専門性の保証(研修の質),②施設群の構成と地域医療経験,③リサーチマインド涵養,④専攻医への環境体制。なお,日本専門医機構の統一見解で,研修期間として扱う休職期間は最大6か月までとなった。

 ディスカッションでは,「基本領域のダブルボードは認められないのか」という質問に対して,「同時に2つの研修プログラムを取ることはできない。しかし,1つの専門医を取得した後に,他のプログラムに入ることはできる。キャリアパスの多様性を認める制度設計を考えている」と池田氏が答えるなど,活発な議論がなされた。

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