医学界新聞

2015.12.14



看護職の業務拡大への期待と課題

第1回日本NP学会学術集会開催


 第1回日本NP学会学術集会が2015年11月14日,草間朋子大会長(東京医療保健大)のもと「診療看護師(NP)は社会を変える」をテーマに開催された(会場=大分市・大分県立看護科学大)。本紙では,看護師の裁量権の拡大に向けた期待と今後の課題を示した会長講演「なぜ診療看護師(NP)か――初心に返って,そして過去に学び,自律したHealth Care Provider(NP)をめざして」の模様を報告する。


 2025年に向けた医療制度改革本格化の中で「特定行為に係る看護師の研修制度」が2015年10月に施行された。「特定行為」は,人工呼吸器からの離脱など厚労省が規定した診療の補助行為38項目を指す。研修を受けた看護師であれば,医師の直接的指示がなくとも,「手順書」を基に特定行為を実施できるようになった。在宅でも医療施設でも患者の身近にいる看護師が,医師の到着を待たずとも患者の症状に合わせて処置を行えるようになることによる患者へのメリットは大きい。

「特定行為」の先をめざす

草間朋子大会長
 「重要なのは,『特定行為』を実施することではなく,行為の実施を含めた“高度な判断力”を持つこと」。本制度は看護職の業務拡大への「第一歩」であると喜びを示した上で,草間氏はこのように述べた。これからの看護師に求められるのは,チーム医療のキーパーソンとしての役割を果たすことである。そのような中で,本学会は看護師の裁量権のさらなる拡大,「診療看護師(Nurse Practitioner;NP)」の実現をめざしている。

 米国には全米で19万2000人以上のNPがおり,統一した教育カリキュラムで養成され,国家資格として制定されるとともに,NPが行う診療行為に対して診療報酬が認められている。日本では資格化や診療報酬獲得は実現できていないが,養成は2008年から開始されており,現在約200人が大学院修士課程のNP教育を修了している。氏は日本版NPを「法律に基づく『特定行為』も実施しながら,全人的なケアに基づく医療サービスを提供できる看護師」と定義する。具体的には,疾病の早期発見,回復促進,症状の重症化防止などによる患者のQOL向上,医療の効率向上による医療従事者の負担軽減,医療の標準化・組織化を通した医療安全の向上といった幅広い実践力を発揮する看護師を想定しているという。

 米国におけるNP導入の社会背景には,日本の現在の社会背景と似たものがあると氏は指摘する。それは,「指示」から「協力」という医師・看護師関係の変化や,高齢者と慢性疾患の増加に伴う生活行動援助の重要性が増したこと,それに伴う医療人材の不足と保健医療政策の転換である。米国におけるNP教育開始から定着までの長い歴史を挙げながら,日本においても「あきらめず」「あせらず」「あまえず」,看護師自らの力でNP制度実現に取り組み続ける意欲を示した。

 NP制度実現に向けた課題は多い。①現場におけるNPの役割の明確化,②NPの活動に伴う公的な医療・介護経費の抑制に関するエビデンスの構築,さらには,看護師や組織のインセンティブを高めるため,③研修を受けた看護師の配置による診療報酬の加算や行為実施に対する診療報酬・介護報酬を得ること,④看護師への手当の付与やキャリアアップなどの方策が喫緊の課題であると氏は提示。まずは「特定行為に係る看護師の研修制度」の実績を積み重ね,国民や医療従事者にNPが受け入れられる土台をつくること,その上で制度のさらなる充実・改善に向けて働きかけることを訴えた。NPとしての能力を発揮する際には,医療安全の確保も重要である。養成教育を標準化し,質を担保することを呼びかけて講演は締めくくられた。

 なお,本学会では,修了生による活動報告も行われた(各現場における活動の現状は,『看護研究』誌2015年8月号(48巻5号)特集「NP教育の成果を探る」でも紹介)。

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