医学界新聞

2015.08.24



第12回日本うつ病学会総会,第15回日本認知療法学会開催


大野裕氏(左)と菊地俊暁氏
 第12回日本うつ病学会総会(会長=認知行動療法研修開発センター・大野裕氏),第15回日本認知療法学会(会長=杏林大・菊地俊暁氏),が7月17-19日,「うつ病とこころの健康環境」をテーマに,京王プラザホテル(東京都新宿区)他にて同時開催された。初めての同時開催となった今回,「疾患」「治療」という異なる概念からなる両学会のそれぞれの特色を融合することで,より充実した学会となることをめざしたという。本紙では,両会長による会長講演の模様を紹介する。

予防からリカバリーまで,さまざまな場面で認知療法の活用を

 まず大野氏が,職場のメンタルヘルスをモデルに,うつ病治療に対する認知療法・認知行動療法活用の可能性について説明した。予防活動において医療者によるメールでの指導は気分改善や対処能力の向上に効果を示す一方で,実施者への負担が大きいという問題点があったことから,氏はインターネットによる代用研究を実施。集団教育後,各自にインターネット上で自己学習を実施してもらったところ,うつ病や不安障害のリスクを判別するK6の得点が5点以上の集団において,有意な改善が長期的に持続したという。氏はこの結果から,インターネットを利用した認知行動教育の効果に期待を寄せ,インターネット上で実施できるものを個別・集団の臨床面接の場で行う必要はないのではないかとの見解を示した。

 今年12月には,ストレスチェック制度も始まる。そこでの認知行動療法活用の可能性や,医師だけでなくチームで認知行動療法を行うことで期待される医療費の削減効果,復職支援におけるストレス軽減・再発予防効果などについても解説。患者がその人らしく生きていく支援を行うために,認知行動療法は病気の治療だけでなく,予防や復職支援,再発防止など,さまざまな場面において活用していくべきだと呼び掛けた。

最適な治療を,最適な形で患者さんに届ける

 「医療者は治療がうまくいかないときは原因をよく考えるが,治療が成功したとき,患者さんがなぜ良くなったのかについてはあまり考えない傾向にある」。講演の冒頭,こう話した菊地氏は,治療をより効果的に行うための方策について解説した。認知療法によって得られる効果には,医療者の治療スキルや医療者-患者間の関係性といったさまざまな要因が影響を与えるが,患者自身の変化や治療外の出来事などの外的要因が与える影響も大きいことが報告されている。氏は,1950年代にBertalanffyらによって提唱された「一般システム理論」を紹介し,システムを構成する要素は互いに独立ではなく,相互に関連し合っていることを意識した上で,各患者の状態を理解するよう努めるべきだと話した。

 うつ病治療においても,薬物療法と認知行動療法の併用は治療効果を高めることが知られている。しかしながら,認知行動療法実施後の抗うつ薬の減量を,併用療法の成果と安易にとらえるのではなく,その患者にそもそも本当に薬物療法が必要であったのかを考える姿勢が必要だと指摘。薬物療法と認知行動療法は異なるメカニズムで治療効果を挙げていることからも,どちらか一方だけ,あるいは一律的に両方を行うことは望ましくないとの見解を示した。必要以上の介入は行わず,本人が本来持つ治癒力を生かす“レジリアンス”という包括的概念を念頭に置きながら,どのようなアプローチが「治る」ことにつながるのかを,医療者は常に考えることが重要だと訴えた。

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