医学界新聞

2015.07.20



Medical Library 書評・新刊案内


基礎からわかる軽度認知障害(MCI)
効果的な認知症予防を目指して

鈴木 隆雄 監修
島田 裕之 編

《評 者》小野 玲(神戸大大学院准教授・保健学)

超高齢社会に立ち向かう医療職必携の書

 本邦において,65歳以上の高齢者は全人口の約25%であり,高齢化率は世界一である。中でも,75歳以上の後期高齢者が増加し,2030年に後期高齢者は5人に1人,2055年には4人に1人と推計されている。後期高齢者が増加する超高齢社会において解決をしなければいけない疾病の一つが認知症である。認知症は年代別にみると75歳未満は10%弱であるが,加齢とともにその有病率は増加し,85歳以上では40%を超えると推計されている。近年の核家族化による家族構成の変化は,認知症患者を支える側の高齢化とも相まって,認知症は本人のみならず介護者の生活に大きな影響を及ぼしている。

 現在,認知症の約半数はアルツハイマー型認知症である。残念ながら現時点でアルツハイマー型認知症の根本治療がないのが現状であり,アルツハイマー型認知症をいかに予防するのかが鍵となる。

 軽度認知障害(mild cognitive impairment ; MCI)は認知症ではないが,軽度な認知障害を有しており,アルツハイマー型認知症に移行するリスクが高いことが明らかとなっている。同時に,MCI高齢者は一定の割合で正常な認知機能に戻るとも言われている。このことにより,アルツハイマー型認知症の前段階と考えられるMCI高齢者に対して,いかに対策を講じて,アルツハイマー型認知症への移行を減少させられるかが戦略として妥当かつ重要とされている。MCIは本邦において一般的にはあまりなじみのない名称であるが,世界的にはアルツハイマー型認知症予防にとって可逆性を秘めた時期として非常に注目されている。

 本書ではMCI高齢者のアルツハイマー型認知症への移行をいかに予防するのかについて,疫学的視点,因果背景,スクリーニングツールの開発,そして集団介入から地域保健所事業としての一般化までの流れについてわかりやすく述べられている。

 第3章「MCIの認知機能の特徴」では,必要な認知機能評価のさまざまなテストバッテリーについてまとめられており,本書を読んだ人がすぐに取りかかれるように配慮されている。第5章以降は,鈴木,島田両氏らによる地域におけるMCI研究の成果と,当該領域の第一人者の研究者らによる最新の研究成果を基に述べられている。

 本書は簡潔かつ明確に整理されているため初学者にも学びやすい内容となっている。また,最新の研究成果と地域保健事業の実際についても詳細に述べられており,研究者だけでなく臨床家や地域保健従事者においても有益な情報を提供しており,多くの方に必携の書としてお薦めしたい。

B5・頁344 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02080-0


「型」が身につくカルテの書き方

佐藤 健太 著

《評 者》藤沼 康樹(医療福祉生協連家庭医療学開発センター長/千葉大大学院看護学研究科附属専門職連携教育研究センター特任講師)

コミュニケーションと思考訓練の場としてのカルテ

 これまで寡聞にして,カルテ記載に関してフォーマルな医学教育カリキュラムはあまり目にしたことがない。むろんいわゆるPOSシステムにおけるSOAP(主観的情報,客観的情報,評価,診療計画)に分けて記載することはよく普及しているが,その意味はあまり知られていない。

 本書の特徴は,医学教育における医師の成長段階としてのRIMEモデル(Reporter⇒Interpreter⇒Manager⇒Educator)とSOAP(Subjective,Objective,Assessment,Plan)を対応させて,診療記録を教育や診療の質改善と結び付けているところにある。そして,これまでは単に“患者の訴えを書く領域”とされていたSOAPにおける「S」を「間接的に得られた情報」,“診察や検査結果を記載する領域”とされていた「O」を「直接観察による所見」と明快に定義し直している(これらの情報をどう集めるかは診療の場によって違うことも強調されている)。アセスメントの「A」はしばしば問題リストや異常値の羅列になるが,これを「意見」と定義し,省察のもとに自身の考えを記載する場としている。このアセスメント「A」に意見を論理的に記載すること自体が,臨床推論能力の訓練そのものになるであろう。それに基づき診療計画「P」を記載するが,ここに含まれる内容として予防や退院調整,介護福祉サービスを重視しているところが,著者の総合診療医らしさを感じる。

 著者は,診療所における地域ケアや在宅診療から,大規模総合病院まで非常に幅広い場での診療経験があり,本書における診療の場(病棟,外来,訪問診療,救急,ICU)ごとのカルテ記載の記述は圧巻である。恐らくこれだけのバリエーションのある診療現場における診療情報に関して深い洞察ができる医師はそうそういないし,分担執筆になりがちなこうしたテーマを単著として完成させた著者に敬意を評したい。

 今後の日本のヘルスケアシステムの大きな課題が連携であり,カルテがそのためのコミュニケーションの重要な結節点になるであろう。若い研修医だけでなく,自身の診療の質の向上をめざしている全ての臨床医に一読を勧めたいと思う。

B5・頁140 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02106-7


糖尿病 作って食べて学べるレシピ
療養指導にすぐに使える糖尿病食レシピ集&資料集

NPO法人西東京臨床糖尿病研究会,植木 彬夫 監修
髙村 宏,飯塚 理恵,髙井 尚美,土屋 倫子,中野 貴世 編

《評 者》渥美 義仁(永寿総合病院糖尿病臨床研究センター長)

レシピ本にとどまらない糖尿病食事療法の資料集

 近年,新しい経口薬や注射薬が使えるようになっても,糖尿病治療は食べ物と切っても切れません。当然といえば当然ですが,昨年登場したSGLT-2阻害薬も,食事療法を守れない患者さんでは効果が出ないことがはっきりしてきました。何を食べるか,どう食べるか,何を先に食べるか,カロリーは,炭水化物は,などなど口から入るものについての理解は進み,エビデンスも積み上がってきました。しかし,実際の糖尿病臨床では,食事療法ほど難しく成果が挙がりにくいものはありません。本書は,東京都多摩地区を中心に活動している,NPO法人西東京臨床糖尿病研究会の髙村宏先生などと登録管理栄養士の方々が,長年の調理実習のレシピと日常診療での食事指導の資料をまとめた一冊です。レシピ編は,春夏秋冬に分けて,魚のおいしさ,ブイヤベースのおもてなし料理,ヘルシーチャーハン,かんたん韓国料理,揚げずにカリッととんかつ,たまにはホワイトソースなど魅力的なメニューが並んでいます。他に,おいしそうな副菜とカロリーを抑えたデザートのレシピ集も,具体的で充実しています。間食の是非や,食べられる間食を聞かれて困る場面では大いに助かります。資料編は,患者さんからの質問や医療者の疑問に答える,具体的でビジュアルな資料が満載で,診察室ですぐに役立ちます。

 管理栄養士の派遣事業などで地域に根付く食事療法を実践する中で,患者さんに受け入れられるよう工夫されてきたレシピは,多くの糖尿病患者さんに勧めることができます。食事の話は苦手だという医師やコメディカルも,本書を一度手に取れば患者さんに具体的に食事の話ができるでしょう。

B5・頁192 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02107-4


ナラティブホームの物語
終末期医療をささえる地域包括ケアのしかけ

佐藤 伸彦 著

《評 者》山城 清二(富山大病院総合診療部教授)

Medicine for Being in Relationを発信する高齢者医療の実践書

 私は患者さんが亡くなるときに,医師として治療やケアが十分にできたという充実感はほとんど得られなかった。その重苦しい関係が終わってやっと肩の荷が下りたと感じ,なぜかホッとしている自分がいた。そんな約8年前,著者の前作『家庭のような病院を』(文藝春秋)に出合ったことが,医師としての心構えや死生観について考え直す契機となった。そして,“高齢者医療は,人が,人として,人間の最期の生を援助する「高度専門医療」である”という著者の言葉に深く感銘を受けたことを,今でも鮮明に覚えている。当時,EBM(根拠に基づく医療)を教育に取り入れ,さらにNBM(ナラティブ・ベイスト・メディスン)を理解しようとしていたころであった。しかし,対話を重視した臨床応用というNBMはなぜが腑に落ちなかった。そのような中,著者がいう「患者を関係性の中で捉える」考え方が,高齢者医療や終末期医療のもやもやした臨床の現場に実践可能な概念として紹介され,やっと腑に落ちた。

 今回,そんな佐藤伸彦医師による待望の続編が出版された。第I部は,絶版となった前著を復刻・再構成したもので,ナラティブホーム「ものがたり診療所」構想が書かれている。ここでは「特別に感動的な話」ではなく,ごくありふれた高齢者の物語に目が向けられる。ナラティブアルバムの誕生過程は特に興味深く,感動的である。患者さんの生活を支えるにはそれまでの「生活」を知らねばならない。そこに迫るのは医師よりも看護師や介護士のほうが得意であり,アルバム作成は彼女たちスタッフの強力なスキルとなる。著者はそんな行動を誘発させる,やさしさの「しかけ名人」のようだ。第II部では,実際のナラティブホーム開設時の苦労や開設後の診療風景が紹介され,この5年間の取り組みが手に取るように理解できる。これから,このような理念をもった医療に取り組もうと考えている人々に大いに参考になることばかりである。

 最も心を揺さぶられたのは,実際にこのホームを利用した人々の紹介である。医師であり神経難病を患った患者さんは,最後に「さ・と・う・た・の・む」と言った。認知症とがんを患ったじいちゃん。口から食べるために胃ろうを使ったじいちゃん。娘のコンサートを見に出かけた脳腫瘍のばあちゃん。通常,医学書では患者さんの顔写真はあまり出ないものであるが,本書では診療の様子や周囲の風景とともに,その快諾のもとうれしそうな患者さん自身が登場される。皆さんの満足そうな姿が,われわれ医療者へ「終末期医療をよろしく頼む」と訴えているようにも感じる。また,本書にしかけられた,時空を超えて宿ったある父子の物語も,読者自身で確認していただきたい。

 Medicine for Being in Relation――本書のメッセージは,世界一の超高齢社会を迎えたわが国から発信できる最先端の概念かもしれない。ぜひ多くの医療関係者に読んでいただきたい。

A5・頁272 定価:本体1,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02098-5


今日から使える医療統計

新谷 歩 著

《評 者》佐々木 宏治(テキサス州立大MDアンダーソンがんセンター Clinical Fellow・Leukemia)

点と点を結び付け,医療統計が生きた知識に変わる

 臨床研究をするに当たりどの統計手法を使うべきなのだろうか? 論文を読むたびに目にする統計手法は正しい手法なのだろうか? それぞれの統計解析の意味はいったい何なのだろう?――論文を読む際,また自分自身が臨床研究をするに当たって,このような疑問を感じたことはありませんか。私がそのような疑問を抱えたときに巡り合ったのが,2011年に新谷歩先生が週刊医学界新聞に連載された「今日から使える医療統計学講座」でした。

 統計学の教科書をひもとくと,一つひとつの統計解析に関して解説が詳細に述べられていますが,臨床研究をするに当たりどのように統計テストを選択していくかを解説しているものは非常に少ないと感じます。

 新谷歩先生の連載に出合うまではスチューデントのt検定,クラスカル・ウォリス検定,ピアソンのカイ二乗検定,ログランク検定,対応のあるt検定,スピアマンの順位相関係数……と,数々の統計テストの名前に圧倒され,統計学の教科書を読んでは,いつかは知識が定着してくれれば良いなと当てもない努力を繰り返していました。

 新谷先生の連載と出合ってはっと気付かされたのは,それぞれの統計解析の枝葉を学習することに血道を上げていて,統計手法にはどれを選択すべきなのか,幹となるべき全体像を把握していなかったということでした。その後,新谷先生の連載を何度も読み返すにつれ,それまで断片的であった点と点がお互いに線で結び付き合い始め,統計解析が自身で活用できる生きた知識に変わる一番大きなきっかけであったと思います。

 今回,新谷先生が週刊医学界新聞に連載された記事をまとめて単行本として出版され,その内容はさらにわかりやすくなっています。読み進めれば,書かれている内容を理解しようと積極的に頭が働いていることを,自然と実感されると思います。

 臨床研究に意欲ある医学生・初期研修医の先生方,これからまさに臨床研究に取り組もうとされている後期研修医・大学院生の先生方,後輩に統計指導をするに当たり何か良い本がないかと探されている教育者の先生方,現在臨床研究をされていて統計手法を振り返りたいコメディカルの方々……と,幅広い読者にお薦めできる書籍です。

 この書籍をきっかけにより多くの方々が臨床研究に関心を持たれ,また臨床研究の発表が日本から世界へ多くつながることを願っております。

A5・頁176 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01954-5

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