医学界新聞

インタビュー

2015.06.22



【interview】

チーム医療構築のための「システム+意識付け」
栗原 正紀氏(長崎リハビリテーション病院 理事長・院長)に聞く


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[取材]多職種病棟専従チームと看護の役割

――取材中,看護師がリハビリを行ったり,理学療法士がバイタルを測定したりする場面がありました。各職種の役割分担がとてもフレキシブルであるがゆえに,患者のニーズに柔軟に対応されていますね。

栗原 患者さんにとって職種は関係ないですから,「自分の仕事じゃないから看護師さんを呼ぶ」なんてことはあり得ません。基本的な日常生活支援は全職種で当たるようにしています。

 とは言え,卒前教育で学ぶ内容ではないですから,現任教育が必要です。全身状態の把握やリスク管理は看護師,リハビリはセラピスト,口腔ケアは歯科衛生士といったように,各職種が専門技術や知識を教える。身近に他の専門職が存在するからこそ,こうした教育が可能となっています。

――介護福祉士が看護師のパートナーとして,患者の日中・深夜の生活を支えているのも特徴的です。

栗原 介護福祉士は日常生活支援のほか,家族の介護指導の役割でも専門性を発揮しています。私自身は,専門職ではない「看護補助者」が診療報酬上で位置付けられていることに違和感があります。チーム医療を推進する観点からは,介護福祉士を医療人として育てる必要があるでしょうし,当院ではできるだけ介護福祉士を採用するようにしています。

――1病棟48床に対して90人近くの専門職という手厚い人員配置です()。人件費が経営を圧迫することはないですか?

 病棟における人員配置体制(2015年6月1日現在)(クリックで拡大)

栗原 経営は大変ですよ。MRIなどの高額医療機器や手術場の設置などを行わないかわりに,ヒトに投資しています。私はもともと脳神経外科医なので,本音ではMRIぐらい置きたい。でも病院の機能分化・連携を考えたらMRIは不要だし,人手はいくらあっても足りないぐらいです。

――回復期病棟がこれほど忙しいとは驚きでした。

栗原 食前・食後の口腔ケアや,経管栄養の患者さんに対する毎食時のチューブ挿入など,質の高いケアをしようとすると急性期よりも大変ですよ。しかも,医療依存度の高いハイリスクの患者さんも増えている。診療報酬上は13対1の看護配置で十分なところを,当院は10対1です。回復期の看護がどれほど大変で重要なものか,医療界の中でも認識が乏しいのが現状です。

病棟専従を徹底するために必要だった「組織図の見直し」

――チーム医療がうたわれて久しいですが,課題はどういった点でしょうか。

栗原 いま議論されているのは,急性期におけるチーム医療の在り方が大半です。しかし,回復期や生活期のステージでは,チーム医療の在り方は異なるはずです。

 急性期においては「疾病の治療」が主目的となるので,臓器別・職種別の縦割り組織にもある程度の合理性があり,その前提でNSTや褥瘡対策チームなどの“特殊部隊”が結成されることになります。一方,回復期の主目的は「生活の再建」であり,在宅・施設への移行に向けた「自立支援」が専門職の役割となります。そこでは,“特殊部隊”をつくるのではなく,患者の日常生活に沿ってチームづくりを行うことが大切なのです。

――それが多職種病棟専従体制やセラピストの365日勤務体制につながるわけですね。栗原先生は以前,チーム医療で定評のある近森リハビリテーション病院で院長を務められました。

栗原 この病院の土台が,近森リハビリテーション病院にあるのは確かです。ただ,既存の組織であるがゆえの大きな壁もありました。それが,医局や看護部,リハ部といった組織図です。いくら「病棟中心に活動しよう」とルールを定めても,職種ごとに部長や課長といった役職がある限りは限界があったのですね。当院はゼロからのスタートなので,組織図を抜本的に見直し,現場の専門職は全員が病棟所属となった。この差が非常に大きいのです。

――チーム医療を構築するにはシステム自体を見直すことが大事なのですね。

栗原 「システム+意識付け」です。組織は生き物なので,簡単に元に戻ります。当院だって,セラピストが病棟を嫌がってリハ室にこもるようになれば,やがてはリハ部のような組織ができあがります。ですから常に意識付けする必要がある。まだ発展途上ですし,永遠の課題でしょうね。

――チーム医療の理想像にたどり着くのはまだ先ですか?

栗原 開院して8年目の病院で,歴史がありません。教育が追い付かず専門職としての成熟度はまだ低いですし,私自身も経営者として手探り状態です。

 多職種が病棟専従となり,患者ごとに担当者チームを結成することがどのような成果をもたらすのか。今後は世に問うていく必要がある。当院の取り組みは,チーム医療の在り方に対するチャレンジなのです。

看護には「自立支援」の意識を高めてほしい

――看護師には今後,どのような役割を期待されますか。

栗原 保助看法においては,看護業務は「診療の補助」と「療養上の世話」に大別されます。「診療の補助」においては,リスク管理と全身状態の把握ですね。高齢化で併存疾患のある患者さんが増えており,脳卒中だけみていては生活の再建が難しくなってくると感じています。

 一方で,「療養上の世話」を大切にしてほしいという思いが強くあります。高齢者の場合,病気は治っても生活の場に戻れないことが多々あります。高度な臓器別治療を安心した地域生活につなげる医療が,いま求められている。そうした教育を受けているのは,ほかならぬ看護師であり,看護こそがリハビリテーションの本質ではないでしょうか。さらに言えば,「療養所の世話」に当たって「自立支援」の意識をさらに高めてほしいと願っています。

――「病院なのにお風呂で背中も洗ってくれない」と不満が出ることもあるそうですが,「病院でできないことは,自宅に帰ってもできない。だから可能な限り,自分のことは自分でやってもらう」と,看護師さんから伺いました。

栗原 「療養上の世話」が「してあげる」という意識だと,高齢者の場合は寝たきりにつながってしまう。そこに「自立支援」という視点さえあれば,患者さんの生活を見据えた個別性の高いケアが成り立つはずです。

――ありがとうございました。

(了)


くりはら・まさき氏
1978年長崎大医学部卒。同大脳神経外科講師,十善会病院副院長,近森リハビリテーション病院院長などを経て,2008年より現職。日本リハビリテーション病院・施設協会会長。厚労省医政局「チーム医療推進方策検討ワーキンググループ(2010-14年)」の委員として,「チーム医療推進のための基本的な考え方と実践的事例集」の作成にも携わった。

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