医学界新聞

2015.03.30



Medical Library 書評・新刊案内


《眼科臨床エキスパート》
眼感染症診療マニュアル

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
薄井 紀夫,後藤 浩 編

《評 者》大野 重昭(北大大学院名誉教授・眼科学/医療法人社団愛心館愛心メモリアル病院眼科部長)

必要情報がわかりやすく記載された実践的マニュアル

 この度,医学書院の《眼科臨床エキスパート》シリーズの一冊として,眼感染症診療のための究極の実践書である『眼感染症診療マニュアル』が発刊された。

 本書は,長年にわたり眼感染症の基礎および臨床に熱心に従事してこられた総合新川橋病院眼科部長の薄井紀夫先生,および東京医科大学眼科学分野教授の後藤浩先生が編集された眼感染症に関する新しいバイブルである。薄井先生,後藤先生は眼感染症学のリーダーとして世界的に活躍しておられるだけではなく,感染症全般に独自の深い見識をお持ちの専門家である。このお二人の下に,わが国を代表する41人の眼感染症専門家が集い,最新の眼感染症診療マニュアルを完成させた。これは第一線の眼科医だけではなく,眼科医療従事者,さらには研修医や医学生にとっても必読の貴重な書物である。

 本書は第1章が薄井先生の総説「眼感染症の診療概論」で始まるが,これは読み物として圧巻の内容である。極小生命体としての微生物の詳細な解説に始まり,眼感染症に対する診療原則をご自身の哲学を基に見事にまとめている。そして己の身の程をわきまえ,微生物との共生を謳い上げており,微生物への深い愛情すら感じられる。

 この後,第2章では「眼瞼疾患」,第3章では「涙器・眼窩疾患」,第4章では「結膜疾患」,第5章では「角膜疾患」,第6章では「ぶどう膜・網脈絡膜疾患」,第7章では「眼内炎」について詳記されている。そして最後の第8章では眼感染症で特に重要な「術後感染症」について記載されている。

 本書ではいずれの項目でも読者が容易に情報を得られやすいように,基本レイアウトとして左ページには解説が,そして右ページにはカラー図やシェーマ,わかりやすい表が配置されている。左ページの解説は各感染症の疾患概念,臨床所見,病原微生物の同定,病原微生物に対する治療,生体反応への対応,続発症への対応,そして予後が整然と記載されている。例えば病原微生物の同定や検査法は各診療所で行えるもの,病院中央検査部や民間の検査センターに依頼できるもの,あるいは研究目的が主で日常臨床では不適のものなどが明記され,補助検査の意義についてわかりやすく詳記されている。

 また,治療法についても最新の情報が項目ごとに簡潔に記載されており,本書はまさに眼感染症に対する実践的なマニュアル書の面目躍如である。また,右ページのカラー図は病状をよく表している典型例が満載されており,診療の合間に右ページだけを見ていても非常にためになる。この他,簡潔で理解しやすい表,フローチャート,シェーマなども複雑な眼感染症の理解を深め,頭を整理する上で大きな助けとなる。

 お二人の編集者が序文で書かれているように,人類は現在も,そして未来も感染症の恐怖に脅かされ続けることは確かである。AIDS,SARS,鳥インフルエンザ,デング熱,エボラ出血熱,そして次は何が人類に押し寄せてくるのであろうか。しかし,日本では2014年度から高齢者を対象とした肺炎球菌ワクチンが定期接種となるなど,病原微生物との闘いは着実に前進している。われわれ眼科医も「古くて新しい病気」である眼感染症の診療で決してひるむことなく,今回の名著である『眼感染症診療マニュアル』を最大限に活用していきたい。

B5・頁440 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02019-0


慢性頭痛の診療ガイドライン 市民版

日本頭痛学会「慢性頭痛の診療ガイドライン 市民版」作成小委員会 編

《評 者》大生 定義(立教大社会学部教授/立教学院診療所所長)

頭痛診療をスキルアップしたい非専門医にも役立つ

 日本頭痛学会「慢性頭痛の診療ガイドライン 市民版」作成小委員会(委員長 立岡良久先生)編集による『慢性頭痛の診療ガイドライン 市民版』が医学書院より上梓された。これは同学会と日本神経学会が共同でまとめた,頭痛診療医向けの『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』(医学書院)を患者向けに要約・編集したもので,本来の出版目的は患者への啓発用にということであろう。この目的には大変有用であり,患者が個人で読み,理解するには役立つであろうし,さらに診察室内での説明用,待合室に備えつけとしても使える本である。しかし,あらためて読ませていただくと,患者のみならず,頭痛診療を見直し,スキルアップを考えている非専門医にも役立つ内容にもなっており,この点の活用も十分重要と思われ,患者・医師両者に向けてご推薦したいと思い筆を執った。

 本書の特徴は第一に記述が簡潔で簡単明瞭である。テーマに対する答えが短く,時間がないときも一瞥するだけで答えが得られる。第二にはサイドメモが充実している。ここで頭痛のバリエーションやさらなる情報の入手先がわかる。第三にあくまでも質問から出発している構成になっていることである。医師であれば,すぐに読了できる量と内容である。第四に『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』以後に発表された,最新の頭痛分類(国際頭痛分類 第3版beta版)に準拠していることである。

 第三の特徴である,質問形式であることは,患者への説明場面に大変便利である。特に目次と本文の間に「パブリッククエスチョン(よくある質問)」を4ページ割いて示している。患者とかかりつけ医との間での会話を彷彿とさせる身近な疑問で,ここから関連する本文のクリニカルクエスチョンとその回答と解説(ほぼ1ページあるいは見開き2ページ程度)に飛べるようになっている。

 以前評者は片頭痛患者が医療に何を望むかを調査をしたことがある。すると患者は,痛みの軽減よりも大切なものとして,頭痛をきちんと診てくれる医師がいること,薬の説明をきちんと受けること,痛みの原因をきちんと説明してくれることを挙げていた。この本が患者へのコミュニケーションのツールとして活用されればと願う。本書を活用すると,頭痛患者の説明してほしいことに対する的確な回答を直ちに示すことができる。先進的な患者はそうではないかもしれないが,一般の患者が自分で読むには少し難しい内容もある。しかしこの本を仲立ちにして患者・医師の成長や信頼関係の確立・維持もできるのではないかとも考える。

 医療の均てん化の促進も叫ばれている。総合診療医の在り方も議論されている。「頭痛診療は無関心」でも,「専門医に任せてばかり」でもいけない社会の要請もある。患者の痛みや生活に対する影響の認識,適切な診療を進めて行く上で,本書は患者・非専門医双方に役立つものと確信する。

A5・頁156 定価:本体1,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02059-6


《眼科臨床エキスパート》
知っておきたい屈折矯正手術

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
前田 直之,天野 史郎 編

《評 者》坪田 一男(慶大教授・眼科学)

屈折矯正手術の重要性から実践までを丁寧に解説

 《眼科臨床エキスパート》シリーズの一冊として発刊された前田直之先生,天野史郎先生編集の『知っておきたい屈折矯正手術』は,現代の屈折矯正手術の最先端が詳しく解説された大変勉強になる本である。

 先般,LASIKに関して消費者庁より非科学的かつネガティブな報道がなされ,現在,わが国においては屈折矯正手術に関する正しい理解が得られていないことに大変危惧を感じている。欧米では屈折矯正手術が眼科診療の25%以上の重要度を持っており,患者のニーズに応え満足度の高い診療を提供するためには屈折矯正手術は欠かせない分野である。この本は,屈折矯正手術の重要性から実践までが丁寧に解説された素晴らしいテキストブックである。

 本の構成だが,まず第1章が総説から始まり,第2章に角膜屈折矯正手術についてエキシマレーザーによるLASIK,そして最近実用化されたフェムト秒レーザーによるFLExやSMILE,そして従来からの角膜切開術や角膜形成術についても詳しく述べられている。さらに,角膜内リングや老視用角膜インレイなど,まだ導入されたばかりの新しい技術についてもしっかりと解説されており,これほどアップデートな教科書は今他に例がないであろう。

 第3章では,有水晶体眼内レンズについて,後房型,虹彩支持型,隅角支持型と全てのレンズをカバーしており,それぞれの効果と合併症についてもしっかりと網羅している。

 第4章としてプレミアム白内障手術を取り上げており,トーリック眼内レンズ,多焦点眼内レンズについて現在のアップデートがよく書かれている。また,今後新しい技術として普及していくであろうフェムト秒レーザーによる白内障手術についても詳しく述べられているのが興味深い。

 第5章では,屈折矯正手術後の眼鏡とコンタクトレンズの処方について書かれている。通常の屈折矯正手術の教科書ではあまり触れられない分野であるが,本書の大変ユニークな点である。一般の開業医は屈折矯正手術を行うというより,屈折矯正手術後の患者を診ることが多いと思われるが,そのような診療の実際において大変役立つ内容となっている。

 第6章は,現在注目されているオルソケラトロジーの近視進行予防についての議論が取り上げられている。現在オルソケラトロジーが単に日中の裸眼視力の実現のみならず,近視進行の予防に寄与しているという興味深い点について詳しく書かれている。

 第7章は,屈折矯正手術以外での老視矯正,そして第8章で眼鏡およびコンタクトレンズの不満と解決法など,屈折矯正手術ばかりでなく,屈折矯正手術の周辺の技術や動向についても触れられているのが興味深い。

 この本は白内障前後の屈折矯正の問題から,LASIK,そして最先端のフェイキックIOLなど,全ての屈折矯正手術を網羅していると言える。レジデントから角膜専門医はもとより,実地医家の先生方にとっても大変役に立つと思われる。また,手術という名前の本であるが,オルソケラトロジーやコンタクトレンズについても,屈折矯正という視点から最先端の情報を提供しており,この一冊で屈折矯正における最先端の情報を全て網羅しているといっても過言ではないほどに優れた本である。

B5・頁432 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02037-4


運動療法の「なぜ?」がわかる超音波解剖[Web動画付]

工藤 慎太郎 編著

《評 者》皆川 洋至(城東整形外科診療部長)

超音波動画が理解を深める臨床に役立つ画期的書

 教育は洗脳的側面を持つ。したがって,知識を得れば得るほど頭が固くなる。一般に運動器にかかわる医療関係者は,ほとんど全ての人たちが解剖の挿絵・X線画像・CT・MRIといった静止画で教育を受けてきたため,静止画で病態を考える癖が付いている(静止画頭)。

 本書が画期的なのは,身体内部の動きをリアルタイムに観察できるエコーを駆使し,紙媒体で表現困難だった動きの情報をWeb動画で閲覧できるようにしていることである。わかりやすい動画表現を加えた点で,本書はIT時代が生み出した新しいスタイルの書籍に位置付けられる。そればかりでなく,中身が実に面白い。眠くなる超音波検査の基本事項が1項目に集約され,続く14項目が「テニス肘」,「シンスプリント」,「腰痛」など日常診療で遭遇する機会が多い疾患を中心に構成されている。空き時間に1項目を楽しく読み進めることができる分量であることがありがたい。

 各項目は一般的な臨床例が最初に提示され,「なぜ」という組み立てで病態把握に必要な基礎,臨床に役立つ運動療法の実際がわかりやすく解説されている。要所で組み込まれた超音波動画が理解をさらに深める。特に興味深いのが,動きで見て病態を考える発想から生み出された新しい運動療法の手技である。筆者たちの幅広い知識と豊富な経験が凝縮されており,整形外科医の立場からも非常に読み応えがある。

 理学療法士は見て触って表現する職種であるため個人の技量に差が生じやすく,表現が感覚的なため整形外科医の立場からは何を言っているのかさっぱりわからない場合がしばしばある。目と指先の感覚を他人に伝えることは難しいので仕方ないが,客観性に欠けることが理学療法士間の意思疎通や成長を妨げてきたことは事実であろう。客観表現を可能にするエコーを使いこなすことが,理学療法士の質を格段に上げることを本書は証明している。より質の高い運動療法を提供できれば医療の質が向上し,より患者満足度を上げることができるであろう。

 本書は理学療法士ばかりでなく,運動器にかかわる医療関係者にぜひ目を通してもらいたい。なぜなら,敏感なアンテナと柔軟な考えを養う一冊になるからである。

B5・頁224 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02031-2

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