医学界新聞

寄稿

2015.03.30



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
スギ・ヒノキ花粉症

【今回の回答者】大久保 公裕(日本医科大学大学院医学研究科 頭頸部・感覚器科学分野教授)


 アレルギー性鼻炎は,アレルギー疾患の中でも治癒が難しく,重症化して患者のQOLを低下させます。中でも罹患率が高く近年問題化しているのが,今,花粉飛散のピークを迎えているスギ・ヒノキ花粉症です。本稿では疾患の疫学的データから治療法の進歩まで,スギ・ヒノキ花粉症を俯瞰します。


■FAQ1

スギ花粉の飛散数は増えていますか? それに伴い,有病率も増加しているのでしょうか。

 スギ花粉症は1964年,ブタクサ花粉症に次いで日本で初めて報告されました。現在,スギ林の面積は全国の森林面積の18%,国土の12%に及び,花粉症の約70%が,スギ花粉が原因で生じています。一方で花粉量には地域差があり,九州,東北,四国は多く,北海道は極めて少なく,沖縄に至ってはスギが生息していません。なおスギ花粉と形状が似ており,飛散時期もほぼ同じなのがヒノキ花粉です。スギ花粉症患者の約7割がヒノキ花粉にも反応するため,両者はまとめて扱われることが多くなっています。

 図<に東京都の1985-2014年のスギ・ヒノキ花粉飛散数,および2015年の予測値を示します。5年ごとの平均にて明らかに飛散数は増加しており,2004年や2006年など極端に少ない年も存在しますが,そうした場合,翌年大量の飛散が生じる傾向も見て取れます。直近10年間の平均飛散数は6247.1個/cm2,通常大量飛散とされる1シーズン3000個/cm2をはるかにしのぎます。地球温暖化と花粉産生量の多い樹齢30年以上のスギ・ヒノキ樹木増加の影響で,2050年まで飛散数は増加し続けると考えられます。

 東京都のスギ・ヒノキ花粉飛散数の平均値
東京都衛生局資料より

 スギ花粉症の有病率については2008年,日本の総人口の26.5%という驚異的な数値が示されました1)。1998年の16.2%から10ポイント以上増加しており,これには抗原であるスギ花粉飛散数の増加はもとより,生活様式や環境の変化,免疫を獲得できる感染機会の減少なども原因と考えられます。特に小児,なかでも5-9歳での患者数の増加が顕著で,有病率は1998年の7.2%から2008年の13.7%と,年齢ごとの増加率では最も多くなっています。子育てのスタイルの変化などが影響していると考えられますが,小児での感作・発症の予防を真剣に考えないと,有病率が50%を超えるようなこともないとは言い切れません。

Answer…有病率はこの10年で10ポイント以上増加し,25%を超えた。花粉飛散数は2050年まで増え続ける見込みである。

■FAQ2

経口薬物療法では症状が治まらない方もいます。薬物療法は通常,どのように行われますか。

 現在,経口での薬物療法はケミカルメディエーター遊離抑制薬(以下,遊離抑制薬),第二世代抗ヒスタミン薬,ロイコトリエン受容体拮抗薬(以下,抗LTs薬),Th2サイトカイン阻害薬,抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬(以下,抗PGD2・TXA2薬)の5種類。点鼻薬(局所用)は遊離抑制薬,第二世代抗ヒスタミン薬,鼻噴霧用ステロイド薬,血管収縮薬の4種類があり,患者の病型,重症度によって使い分けます。

◆くしゃみ・鼻汁型
 鼻粘膜のケミカルメディエーターとしてヒスタミン優位と考えられ,抗ヒスタミン薬か遊離抑制薬を主体にします。軽症なら第一世代抗ヒスタミン薬の頓用,中等症なら第二世代抗ヒスタミン薬か遊離抑制薬,経口薬では鼻汁をコントロールできない重症例では,局所用ステロイド薬を用います。

◆鼻閉型
 鼻粘膜の血管拡張,または血管透過性の亢進がみられます。血管拡張が優位だと鼻粘膜は発赤,血管透過性亢進が優位だと鼻粘膜は浮腫となり蒼白腫脹します。スギ花粉症では後者が主です。

 制御すべきケミカルメディエーターはロイコトリエンC4,D4やトロンボキサンA2であり,実臨床で頻用されている抗ヒスタミン薬は多くの場合,あまり効果がみられません。

 軽症ならば無治療か局所血管収縮薬の頓用(回数は制限)。中等症なら遊離抑制薬,抗LTs薬,抗PGD2・TXA2薬(あるいは第二世代抗ヒスタミン薬),局所用ステロイド薬のいずれかを選択。もしくは経口薬と,局所用ステロイド薬か血管収縮薬を併用します。重症の場合は上記経口薬のいずれかと局所ステロイド薬の併用,さらに局所血管収縮薬の頓用を行います。いずれも効果がない場合は,手術的治療法も選択されます。

◆充全型
 複数のメディエーターが密接にかかわり,くしゃみ,鼻汁,鼻閉のアレルギー三大症状が全て強く出現します。最も重い症状を問診で明らかにし,重点的に治療することが必要です。比較的軽症なら第二世代抗ヒスタミン薬,Th2サイトカイン阻害薬あるいは遊離抑制薬を中心に使用し,中等症では経口薬5種と局所ステロイド薬のいずれかを主要な症状に応じて選択。必要に応じ経口薬と局所用ステロイド薬,血管収縮薬の併用も行います。重症の場合,経口薬5種のいずれかと局所ステロイド薬とを併用しますが,第二世代抗ヒスタミン薬以外の4つでは,古くからある抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミンマレイン酸塩,メキタジンなど)を併用させると効果的です。局所血管収縮薬の頓用もやむを得ないでしょう。

Answer…経口薬5種,局所薬4種を,病型と重症度に応じて使い分ける。

■FAQ3

どのタイミングでどんな処方をするのが,最も有効なのでしょうか。

 重症の場合,ガイドライン2)では,花粉飛散の最盛期(東京では3月第2週目,4月第1週目)には経口ステロイド薬を1-2週間を目安に使用し,症状を緩和させると記載されています。全身的なステロイドの使用に関しては賛否ありますが,それが必要な場合があることも確かです。ただし,処方は鼻アレルギー治療の研鑽を積んだ医師が,適応となる患者に対し,十分なインフォームド・コンセントの下に行わねばなりません。

 また病型を問わず,花粉飛散開始(予測)2週間前より経口薬(第二世代抗ヒスタミン薬,遊離抑制薬)の投与を行うと季節初期の症状がよく抑えられることが二重盲検試験で確認されており,季節前投与法・予防投与法として確立されています。ただ,花粉飛散初期,中期までは初期治療により重症に至りにくいものの,花粉飛散後期では多くの薬剤において,初期治療の有無で重症度スコアに差は出なくなります。

Answer…症状の緩和には最盛期での経口ステロイド薬,予防には飛散開始前の経口薬投与が有用とされる。

■FAQ4

昨年より舌下免疫療法が臨床で実施できるようになりました。使用時に留意すべきことは何でしょう。

 舌下免疫療法はアレルゲン免疫療法の一部であり,従来の皮下注射療法との違いを知り,背景因子も考慮した慎重な施行が求められます()。

 皮下免疫療法と舌下免疫療法の比較

 スギ花粉症に対する治療の場合,アレルゲンによるIgE抗体産生の増強という観点から,花粉飛散季節時からは開始しない点が極めて大切です。さらに花粉飛散前に3か月間の治療が必要なため,少なくとも11月以前に開始することが望ましいでしょう。一方,ダニなどの通年性抗原の場合にはアレルゲンによるIgE抗体産生の急激な増強は生じないため,いつ開始してもよいとされています。さらに,自宅でのアレルゲン免疫療法であるため,患者にも十分な知識が求められます。開始時のガイダンスと治療継続の確認が重要であり,下記の項目について,文書等で同意を得ておくべきでしょう3)

(1)花粉非飛散期も含め,最低2年程度,長期間の治療を受ける覚悟がある
(2)舌下アレルゲンエキスの服用(舌下に2分間保持)を毎日継続できる
(3)1か月に一度以上受診可能である
(4)必ず効果が期待できるわけではないことを理解できる
(5)効果があり終了した場合も,その後効果が減弱する可能性があると理解できる
(6)副作用等の対処法が理解できる

 今後多くの患者さんが舌下免疫療法の恩恵を受けると思われますが,口腔内症状,鼻炎症状,喘息症状,蕁麻疹などがみられることもあり,アナフィラキシーが生じる可能性も皆無ではないため,安易な施行は危険です。各種学会における講習会などでアレルギー性鼻炎や免疫療法の基礎的知識,臨床的知識を得て,適切な症例を選択することが求められます。

Answer…患者も医師も十分な知識を持ち,適応を慎重に見極める。

■もう一言

 鼻粘膜に侵入した抗原により感作が成立し,抗原特異的IgEとの局所免疫反応が生じるというアレルギー性鼻炎の一連の流れにおいて,従来の治療薬より上流のポイントで反応を抑え,より大きな効果が得られるアレルゲン免疫療法の開発が進んでいます。海外で発売済みの薬剤や日本で臨床試験を準備中の薬剤もあり,今後の選択肢の増加が期待されます。

参考文献
1)馬場廣太郎,他.鼻アレルギーの全国疫学調査 2008(1998年との比較)――耳鼻咽喉科医とその家族を対象として.Progress in Medicine.2008 ; 28 (8):2001-12.
2)鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会編.鼻アレルギー診療ガイドライン――通年性鼻炎と花粉症2013年版(改訂第7版).ライフ・サイエンス.2013.
3)日本アレルギー学会.スギ花粉症におけるアレルゲン免疫療法の手引き.2013.


大久保 公裕
1984年日医大卒,88年同大大学院修了。89年より米国国立衛生研究所アレルギー疾患部門へ留学。帰国後,93年より日医大耳鼻咽喉科講師,医局長,准教授を経て2010年より現職。日本アレルギー学会常務理事ほか役職多数。花粉症治療をテーマにした一般向けの書籍も多く手掛けている。

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