医学界新聞

寄稿

2015.02.02



【寄稿】

地域肯定感が生まれる仕組みづくり
「すごい会議」方式,全員参加の在宅デスカンファレンス

安成 英文(安成医院(熊本県玉名郡玉東町))


 2001年夏,父の突然の逝去により開業医生活が始まりました。人口5700人の町の,乳児からお年寄りまでが来る診療所で,卒後7年目の筆者は一般診療の知識もほとんどなく,医学書片手に開業医となりました。

 患者さんの求めに応じ,診察を終えた昼からは保育園や学校健診,予防接種や役場の会議などに加えて往診,訪問診療を始めました。当初,町内には無床診療所2施設のみで介護施設もなかったため,在宅での看取りも行っていました。死因は慢性心不全や肝硬変,肺癌や老衰と多様でしたが,訪問看護師の方の助けを借りつつ,年間5-6人をご自宅で看取る状況でした。

終末期の対応に戸惑う患者家族と介護職を前に

 死亡の原因疾患こそ病棟とは異なれど,終末期における患者家族への対応内容に違いはありません。しかし,ケアマネジャーやヘルパーなどケア担当者の方々は不安を持ちながら家族対応に当たっていました。これは同時に,医師への相談が倍増することを意味します。つまり「だんだん食事が入らなくなってきたけれど,大丈夫でしょうか?」といった質問について,家族とケア担当者,それぞれに説明する必要があるのです。さらに,患者さんが亡くなってケアを担ったチームが解散すると,次に組むチームとまた同じやりとりを繰り返さねばなりません。そのことに正直煩わしさも感じましたが,何も策を見いだせないでいました。

 転機は2005年に訪れました。「玉名終末期医療を考える会」(現在は休止中)を主宰する医師の誘いで同会に参加するようになり,活動の一環として,多職種で地域の課題を抽出しようと座談会を開いたときのことです。ある看護師さんに,看取りの時に患者家族に渡す冊子が学会などから発行されていることを教わりました。より使い勝手の良いものを「いっそのこと自分たちで作っちゃおうか?」ということで,2年かけて,地域の医療職・介護職の経験を結集して編集。終末期を迎えた患者の家族に渡すようにしました(「たまな在宅ネットワーク」ウェブサイトよりダウンロード可能)。

 さらに2007年,縁あって市原美穂氏(NPO法人ホームホスピス宮崎)に,一般住宅を改修し,ホスピス機能を持たせた有料老人ホーム「かあさんの家」での看取りのお話を伺い,関係者皆で視察に行きました。そこで市原氏から「看取りをすれば介護は伸びる」と声を掛けていただいたことで,ある考えが浮かんだのです。

独自に「デスカンファレス」を開始

 在宅ケア関係者が,看取りをした経験を共有して振り返ることで,“次”の機会に役立てられないか。ホスピス病棟で行われている「デスカンファレンス」が有効であるように思えました。ただ,ホスピス病棟より多職種がかかわる在宅医療の場合,介護福祉関係者から医療関係者への“畏怖”に近い遠慮の感情があり,フラットな状態での運営は困難とも懸念されました。

 近隣のケアマネジャー有志が行っている研修を見学し,対人援助職のメジャーな研修手法である「奥川式スーパービジョン」を知りました。ただこの手法は,“No blame culture”(批判をしない意見を募る)の具現化には良さそうでしたが,異職種間の気付きを促すには少し物足りないように感じました。もし医師である筆者がスーパーバイザーになると,従来の縦の階層構造を打破できないと予想したのです。元来,医師が全ての決定を担う構造に疑問を感じていたこともあり,独自の方法で始めることにしました。

 亡くなった症例の中から遺族に承諾を得たケースを選定し,各ケア担当者からケア記録を集め,スライドを作成しました。町内外のケアマネジャー,訪問看護師,ホームヘルパー,社会福祉士,社会福祉協議会,地域包括支援センター職員,医療機器業者,福祉用具事業者などに声を掛け,「玉東町デスカンファレンス」を発足しました。

参加者“全員”が意見を書き,発表する

 各担当者が,死に至る経過を時系列で説明し,その後“批判しない”意見を募る形式で,約3か月に一度開催。参加者は毎回50人を超え好評を得ましたが,どうしても批判的な発言や「自分には無理」といった消極的な感想が出たり,一方でそうした発言を抑制すると発言者が固定してしまったり,といった課題も生じました。

 課題を解決すべく,会議手法を検討する中でヒントになったのが『すごい会議』(大橋禅太郎著.大和書房;2005,p112)です。同書を参考に,症例の担当者がケア記録を発表した後,参加者“全員”が意見を記述する時間を取り,それを発表する方式に変更しました。記載内容は「かかわりにおいて良かった点の指摘」と「改善事項の提案」に絞り,批判的にならないよう工夫。担当者は参加者の意見を聞きながら「もう一度この症例に出合うならどうするか」を記載し,最後に発表して拍手でカンファレンスを締めます。

 第8回(2010年1月)よりこの方式を始めました。当初,全員が発表することに参加者の戸惑いがあったものの,早くも当日から,個々人の多様な意見や感性の発現を目の当たりにできました。回を重ねるうちに,多職種間,あるいは異なる事業所の同職種同士が意見・情報を交換している光景もよく見られるようになりました。

 参加者の反応を見ているうちに,地域包括支援センターの必須事業である「包括的・継続的ケアマネジメント支援業務」の一翼を担えるのではないかと思うようになり,玉東町地域包括支援センターに協力を依頼,快諾を得て,2011年9月,第13回の開催準備時から事務局を同センターに移管しました。現在は保健師を中心に,町内社会福祉協議会を含む福祉医療関連事業所から成る運営委員会が運営を担っています。

 参加資格は制限せず,町の広報でも告知し,年間4回ほどの開催で毎回町内外から50人前後の参加があります(写真)。2014年9月現在,22回の開催で延べ1213人が参加,内訳はの通り非常に多様です。また,看取りの場所は自宅12例,特別養護老人ホーム4例,グループホーム・有料老人ホーム4例,病院3例と,バランスを保てるよう意図的に選択しています。

写真 カンファレンスの模様

 カンファレンス参加者(n=1213)の内訳
介護保険関係者:グループホーム・老人福祉施設職員,訪問介護員,障害福祉関係者,訪問入浴介護事業者,福祉用具貸与事業者など/自治体関係者:県庁職員,保健所職員,自治体保健師/医療関係者:医療機器業者,臨床心理士,管理栄養士,理学療法士,作業療法士など/その他:家族,僧侶,学生,大学・専門学校職員,地域住民,報道

地域で働く医療・介護職の士気を上げる取り組みとして

 カンファレンスに参加すると,ケア担当者各自がどのように患者さんと向き合っているのかがわかります。反省点も見えますが,自分が知らない間に担当者同士が連携を取り合い助け合っていたといううれしい発見も,時にはあります。

 従前は,一部のベテラン参加者以外からの意見を自発的に引き出すことに苦心していました。しかし「すごい会議」方式では,経験の浅い方や,時には見学の学生から新鮮な切り口の意見が出てくることがあります。意見がなかったのではなく,意見を出す機会がなかっただけだったのです。一方で,ベテランのケアマネジャーが声を震わせながら,思いの丈を吐露することもあります。元来,同業者でも事業所が違うと,どのような思いを持ってそれぞれが仕事に当たっているかを知る機会は少ないため,この作業により事業所間やケア担当者間に刺激を与え合う関係が生まれ,相互理解に役立っているように感じています。

 実は参加者全員にあらかじめ意見を書いてもらい,それを発表するルールは,時間短縮効果を狙ったものでした。参加者が多いこともあり,結果的に時間はかかっていますが,その分ケア担当者たちに多様な視点をもたらし,豊かな財産となっていると思っています。

 今は,診療所は当院のみとなり,限られた医療資源下に置かれた地域ではありますが,このような試みで,地域で働く仲間の士気を上げ「ここでこの仕事にかかわれてよかった」と“地域肯定感”を持ってもらえるようになったのが,望外の喜びです。今後も多様な視点を求めていますので,デスカンファレンスの見学希望の方は玉東町地域包括支援センター(houkatsu@g-houkatsu.com;メールを送る際,@は小文字にしてご記入ください)までお問い合わせください。

参考文献
 安成英文.すごいデスカンファレンス――会議手法の工夫.日本プライマリ・ケア連合学会誌.2014;37(3):285-8.
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/37/3/37_285/_pdf


安成英文氏
1995年福岡大医学部卒。同大筑紫病院外科を経て,2001年より熊本県玉名郡玉東町にて安成医院を継承開業。在宅医療の業務補完と多職種連携の有機的システム「たまな在宅ネットワーク」代表を務める。

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