医学界新聞

2014.11.17



理論の活用で広がる看護の視座


写真 シンポジストの三氏。左から田代順子氏,シスター・ロイ氏,南裕子氏。
 看護学の学問構築に貢献する看護理論は,日本においても看護実践や看護教育に大きな影響をもたらしてきた。今後,実践や教育の現場で看護理論はいかにあるべきか。9月27日に開催された「看護国際フォーラム2014」(主催:京都橘大看護学部,京都市)のシンポジウム「看護理論と臨床の知の融合――人によりそう看護の実践に向けて」(座長=豊橋創造大・大島弓子氏,京都橘大・遠藤俊子氏)の開催に伴い,看護理論家の一人である,シスター・ロイ氏(ボストンカレッジ)が来日。演者の一人として発言した。

実践のために看護理論は生きる

 はじめに登壇した南裕子氏(高知県立大)は,ナイチンゲールの『看護覚え書』から連なる海外の看護理論の系譜と,日本におけるその受容と展開について年代別に概観した。氏はまず,かつて教鞭を執りながらかかわっていた精神科病院において「オレム・アンダーウッドモデル」を活用することで,CNSの導入や集団療法の強化などが進み,状況が改善された実例を述べた。さらに,阪神・淡路大震災をはじめ,多くの災害支援に携わってきた黒田裕子氏(NPO法人阪神高齢者・障害者支援ネットワーク)が本フォーラム開催3日前に亡くなったことに触れ,黒田氏の「看護は現場を離れては理論も教育もあり得ない」との姿勢を称揚。理論だけに限定されない現場主義で,看護を発展させなければならないと訴えた。

 続いて発言した田代順子氏(聖路加国際大)は,同大での学部,大学院修士,博士,それぞれの教育課程における看護理論教育の位置付けを紹介した。学部教育の科目「看護理論」では「理論のための理論学習」は実施せず,看護実践モデルの理解を目標としている。その基盤を受け,修士課程では諸理論を理解し,検証レベルや実践への貢献という観点からクリティークすることをめざしている。そして博士課程になって初めて,自らの専門領域の理論を構築する段階になると語った。

 「理論は実践を導くコンパスである」。こう述べたのは,最後に登壇したロイ氏。自身の理論にとって非常に重要な「ヴェリティヴィティ(Veritivity;氏の造語で,人間存在や生命の普遍的な有意味性を顕彰する概念)」について,宇宙まで広がるその概念の大きさを語った。氏は『ザ・ロイ適応看護モデル第2版(原著第3版)』(医学書院)でも述べている,個人/集団の適応様式,そしてそれぞれに介入するコーピングプロセスについて概説。版を重ねるごとに,地域や環境へとその理論の射程が広げられているという。さらに昨年発行の『Generating MIDDLE RANGE THEORY』(Springer Publishing Company)では,理論の応用についてより特化した,最新の研究成果を示していると述べた。

 ロイ氏は集まった895人の聴衆を前に,自身の理論を用いながら,看護師が世界にいかに貢献すべきか,いかに介入していくかなど,より良い世界のために看護師こそが果たし得る役割について語った。そして「一人で夢見ているときは夢でしかない。他人と一緒に夢を見れば,それは現実の始まりである」という言葉で締めくくった。

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