医学界新聞

2014.07.14

Medical Library 書評・新刊案内


がん臨床試験テキストブック
考え方から実践まで

公益財団法人パブリックヘルスリサーチセンター がん臨床研究支援事業(CSPOR)教育研修小委員会 編
大橋 靖雄,渡辺 亨,青谷 恵利子,齋藤 裕子 責任編集

《評 者》森下 典子(大阪医療センター臨床研究推進室室長)

現場感覚に溢れたがん臨床試験スタッフ必携の書

 臨床試験や治験の実施において,今やなくてはならない存在となった臨床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator,以下CRC)。

 日本では1998年から本格的にCRCの養成が始まりました。評者もモデル研修に参加して,それまで全く縁のなかった「治験・臨床研究の基礎知識」から「CRCとは何ぞや」のところまで,未知なる世界のことを数多く学びました。しかし当時は,CRCが研修に参加する機会が十分にあるとはいえず,CRCの役割や業務の確立に皆が試行錯誤していた時代でもありました。

 がん臨床研究支援事業(CSPOR)主催のCRCセミナーは,そんな時代にあってCRCが臨床試験の知識を学び,仲間作りができる大変貴重なセミナーでした。充実している講義内容もさることながら,全国のCRCとそこで知り合い,意見交換を行うことで,日々の悩みを自信に変えて施設に帰っていくことができるのです。評者はCSPOR設立当初にはよく研修に参加させていただいていました。その後セミナーは23回を数え,延べ2020名のCRCと臨床試験支援スタッフが参加されていると知り,ここまでCRC教育のために本セミナーを企画し,実行してくださった関係者の先生方には本当に頭の下がる思いです。本書には,そんなセミナーの講演をもとに,がん臨床試験に真摯(しんし)に取り組んでいる大勢のエキスパートの方々が寄稿しています。第1回のセミナーから13年。まさに,本書は「待ちに待った」出版であり,がん領域の臨床試験に携わる人には必携のテキストブックになっています。

 本書の魅力は,(1)がん臨床試験にかかわるのは初めてという人にとってはわかりやすく,読みやすいように構成されており,「がん臨床試験」のAからZまで学ぶことができること,そして,(2)がん臨床試験の経験者にとっても,がん臨床試験をめぐる環境の変化が理解でき,トピックスが数多く盛り込まれているため,基礎から復習するのに最適であること,さらに,(3)CRCはもちろんのこと,医師,看護師,薬剤師,治験・倫理審査委員会委員等々,がん臨床試験にかかわるどの関係者が読んでも,日常,疑問に思っていること,知りたいと思っていることが随所に散りばめられている現場感覚いっぱいの内容となっていることです。もちろん,じっくりと読んでいただくことをお勧めしますが,「時間がない」という方には,興味のある章のみを読んでもわかりやすいように構成されていますので,研究者が臨床研究を企画・立案・実施する前に本書に目を通せば,何に気をつければよいのか,CRCは何をする人なのかがとてもよくわかります。

 いつも熱意ある行動力,発想力,指導力でもって,わが国のCRC教育をけん引してくださる大橋靖雄先生,渡辺亨先生,そしてCRCの先駆者として,いつも私たちの良きモデルとなってくれている青谷恵利子さん,齋藤裕子さん(ここでは親しみを込めてあえて「さん」と呼ばせてください),本書を送り届けていただいてありがとうございました。

 本書を手に取った研究者,臨床試験支援スタッフが,臨床試験のお作法を学び,日本の臨床試験のレベルをさらに高め,まだまだ難治性疾患が多いがん領域において,より良い医療を一日も早く患者さんに送り届けることを心から願っています。

B5・頁248 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01645-2


標準生理学 第8版

小澤 瀞司,福田 康一郎 監修
本間 研一,大森 治紀,大橋 俊夫,河合 康明,黒澤 美枝子,鯉淵 典之,伊佐 正 編

《評 者》持田 澄子(東医大教授・細胞生理学)

一層わかりやすくなった国内最高峰の生物学テキスト

 『標準生理学』は,それまでに出版されたどの生理学の教科書よりも分厚く,そして,高度な内容の教科書として,1985年6月に初版が出版された。本書は,生理学を理解する上で鍵になる基本的な概念や生理学的なものの見方・考え方を説明した医学生の教科書であったが,基礎医学研究に携わる若手研究者にとってもバイブルのような存在であり,頻繁にページを繰ったものである。

 その後,改訂を重ね,「生理学のすべてを丁寧に解説する国内最高峰のテキスト」として,第8版が2014年3月に出版された。2009年に出版された第7版の編集に,さらに4名の日本を代表する生理学者が加わり,また,22名の先生方に代わって35名の先生方が新たに参加し,総勢68名の先生方の執筆を,小澤瀞司先生と福田康一郎先生が監修されている。第8版では,読者が本書をより使いやすくなるような工夫が随所に施され,生体の機能とそのメカニズムの詳細をとてもわかりやすく解説しており,感嘆に値する。

 今回の改訂では,これまで下線を引かれていた重要語句が太字ゴシックとして明示され,とても見やすくなった。また,第6版から別冊付録として添付されていた「生理学で考える臨床問題」が本体の巻末に収載されたので,本文を読み進みながら読者の理解力を診断できるようになった。さらに,第7版から導入されている「構成マップ」には,模式図が多く入れられ,重要事項が3段階に色分けして明示され,読者が概要を把握しやすく,また,覚えやすい工夫がなされている。これまで「章」としていたくくりを「編」とし,各編の下に「章」が置かれ,章の番号が通し番号で80章にもなる大冊であるが,各編の最初に「本編を学ぶ意義」が1ページにまとめられており,読者に何を学ぶべきかを考えさせる希少な教科書である。

 第8版では,半数以上が新執筆者であるので,第7版までと比較して,多くの最新情報が新しい模式図を用いて鮮明に表示され,簡潔な文章で解説されており,驚かされる。評者の研究分野である「第6章 興奮の伝達」では,シナプス伝達に関する最先端の知見がふんだんに盛り込まれ,神経生理学研究の進歩が反映されていてうれしく思う。また,「第7章 神経細胞学/総論」では,視床と大脳皮質の機能解剖学の解説が加えられ,「第16章 脊髄」では非常にわかりやすくきれいな図が使われている。「第23章 大脳皮質の機能局在」では,高次神経機能のしくみが端的に解説されている。などなど,列挙しきれないほどの改訂がされている。

 本書は,生理学を学ぶ学生だけでなく,大学院生や臨床医が生体機能について疑問を抱くときに,的確に答えを明示してくれる貴重な教科書である。

B5・頁1178 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01781-7

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