医学界新聞

2014.06.30

Medical Library 書評・新刊案内


こころを診る技術
精神科面接と初診時対応の基本

宮岡 等 著

《評 者》野村 俊明(日医大教授・心理学)

適切な面接なしに適切な精神科治療はありえない

 本書はかねてから精神医療の在り方について積極的に辛口のコメントをしていることで知られる宮岡等氏が,おそらくは現代の精神医療への危機感から執筆した著作である。

 患者数の急増,対応すべき領域の拡大,さらに書類や会議の増加などにより,精神科医は以前に比べずいぶん忙しくなったと言われる。とりわけ外来診療は時間に追われており,精神科医は限られた時間の中で適切に診断し,患者を支持して力付け,時に応じて心理教育を行う必要がある。つまり今日の精神科医には,精神科面接の力がこれまで以上に求められているのである。しかしながら指導する側もまた多忙でゆとりがないためもあって,精神科面接の修練は個人任せになりがちである。それなのにちまたに溢れている精神療法の書籍は専門的な内容のものが多く,日々の臨床の役に立ちにくい。薬物療法全盛の精神医療において精神科医の面接能力,ひいては臨床能力が低下しつつあるのではないかという問題意識が本書全体を貫いている。

 筆者の言葉を借りれば,われわれは意識的に精神科面接あるいは精神療法の修練をしていかないと「薬を処方するしか能のない精神科医」になってしまう。適切な面接ができない精神科医に適切な診断ができるはずはないし,不適切な面接は薬物療法の効果を吹き飛ばしてしまう。ただし適切な面接とは「精神療法の達人による人に真似できないコツ」の集積ではなく,医学知識に基づいた基本的な対応を積み重ねていくことに他ならないとされる。そしてこうした面接がそれ自体治療的な意義を持つことが本書では説得的に述べられている。これは多くの精神療法論が精神医療の実際と乖離した形で展開されていることへの著者の批判的な見解を反映している。例えば第3章「症例と解説でみる精神科の初診時面接」ではうつ病や身体表現性障害が例示されつつ面接の実際が記述されており,「医学的知識なしに適切な精神科面接は行いえない」という本書の主張を裏付ける内容になっている。

 そのほか「初期対応のポイント」「薬物療法の大原則」「精神療法の副作用」「精神分析の基礎知識」など,精神科臨床上のテーマが精神科面接と関連付けられて縦横無尽に論じられている。こうしたテーマからもわかるように,本書は面接に力点が置かれてはいるが,初期治療に焦点を当てた精神科臨床の手引きという性格も持っている。

 本書を通読してあらためて実感したのは,患者の年齢や疾患の種類によって得手不得手はあるにしても,薬物療法は非常に上手だが精神療法は下手であるという精神科医は多分いないということである。適切な面接なしに薬物療法を含む適切な精神科治療はありえないということを本書は語っている。研修医・専修医などの若手はもちろん,多くの精神科医に自分の面接の仕方や診療そのものを見直す刺激を与えてくれる著作である。

B6・頁224 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN 978-4-260-02020-6


Pocket Drugs 2014

福井 次矢 監修
小松 康宏,渡邉 裕司 編

《評 者》大内 尉義(虎の門病院病院長)

全ての医療人にお薦めしたい便利で使いやすいreference book

 福井次矢先生が監修され,小松康宏先生,渡邉裕司先生お二人の編集と,臨床疫学,臨床内科学,臨床薬理学を専門とされるお三方の手による『Pocket Drugs 2014』は,現在,わが国の臨床現場において使用されているほぼ全ての医薬品の効能,適応,用量・用法,副作用や禁忌等の注意事項など,薬物療法に関する最新の知識をまとめたものである。言うまでもなく,薬物治療は医療の中心であり,全ての医師は現行の薬剤について精通しておく必要がある。本書はその手助けをする目的で編さんされている。

 本書の最大の特徴は,その名の通りポケットに入るサイズの中に,個々の医薬品に関する情報が満載されていることであるが,多忙な外来,入院診療の場で使われる本書のようなreference bookは,必要な情報に素早くアクセスできることが極めて重要であり,本書はそのためにさまざまな工夫がされている。4色刷りのカラフルな紙面は,項目による色使いが統一されていてわかりやすいだけでなく,見ていて楽しい。索引も事項索引,薬剤索引が充実していて目的の薬剤へのアクセスが容易である。また,各章の冒頭に,そのジャンルの薬剤の特徴,作用機序などの総論的事項がわかりやすく記載されているのも本書の有用性を高めている。さらに,その中に,ガイドラインにおけるその薬剤の位置付けとエビデンスが記載されており,また個々の薬剤の最後にも「治療戦略」として〈evidence〉の項があり,エビデンスを重視する編集の特徴がよく表れている。薬剤の写真付きであること,薬価が記載されていることも有用で,さまざまな点で大変よく工夫されている。

 「その名の通りポケットに入るサイズ」と書いたが,やはりこれだけのページ数になるとポケットに常に入れておくのはやや難がある。薬物療法の進歩とともに薬剤数はこれからも増え続けることが予想され,今後ますますこの傾向が強まっていくと考えられる。活字をこれ以上小さくするのは難しいので,今後どのようにされるのか少し心配である。電子媒体を活用するという方法もあるが,やはり紙媒体の手軽さも捨てがたい。今後,これ以上ページ数を増やさない,あるいは減らす工夫をお願いしたい。その他に気が付いたことは,薬剤の商品名が基本的に和文のみで,欧文名がどこにも出てこないことである。薬剤の欧文索引がないのはページ数を節約するために仕方ないと思うが,個々の薬剤の欄にも欧文商品名が記載されていない(一般名の欧文記載はある)。これは改良すべき点と思われた。

 ともあれ本書は,類書が多い中,臨床医にとって非常に便利で使いやすい,薬剤のreference bookである。薬物療法は日進月歩であり,日々多くの薬剤が上梓されている。また,医学の進歩に伴って,まったく新しいジャンルの医薬品も登場している。高齢化の進展により,超高齢者における薬物療法の課題や薬物の相互作用など,薬物療法に注意が必要な事項や領域も今後さらに増加すると思われるし,また後発医薬品を使用する機会もさらに増えていくであろう。このような,薬物療法の変化と進歩に対応できるように配慮されている本書は,わが国における薬物療法の適切な実践に役立つものであることを確信し,全ての医療人にお薦めしたい。

A6・頁1312 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01751-0


循環器 レビュー&トピックス
臨床医が知っておくべき27の最新知見

赤石 誠,北風 政史 編

《評 者》中川 義久(天理よろづ相談所病院循環器内科部長)

本物志向の臨床医に薦めたい一冊

 読み応えのある医学書が出版された。循環器領域において本物の知識を求める知的好奇心の高い臨床医に薦めたい一冊である。

 出版業界において「出版不況」という言葉が叫ばれている。本が売れないのである。その理由として,インターネットの誕生・若者の活字離れなどさまざまな要因が挙げられている。純文学の長編小説は売れず,書店で手に取ってもらえるのは軽い書籍のみであるという。医学書においても例外ではない。学会の会場で医学書の販売コーナーを訪れてみればわかる。そこで並べられた書籍のトレンドは「軽い」の一言に尽きる。タイトルには「わかりやすい」といった枕ことばが付き,内容にはイラストが多く,文字が大きく余白が多い。文字がぎっしり埋まった本は数少ない。本物の書籍が売れず,それゆえ出版されないのだ。

 評者は天理よろづ相談所病院に勤務している。教育的な病院として知られ,毎年優秀な若手医師が入職してくる施設である。彼らと接していて感じるのは,本物志向で深く考える能力を持つ者は少なからず存在するということだ。担当した疾患で感じた問題点や疑問を,真摯に追求し調べ学ぼうとする者は確実にいる。

 本書では,循環器領域で27のトピックスを選出し,それぞれの分野のエキスパートが治療と研究の最新の動向を論述している。循環器のさまざまな分野に及ぶが,どれも今話題のものばかりである。このトピックス選択の妙が編集者の慧眼を示している。

 単に「わかりやすい」ことをめざした「軽い」書籍ではない。もちろん,難解な書籍をめざしたものではなく,知識が整理され頭に入ってくる。平板な知識ではなく,もう一歩進んで学びたいという者に最適の書籍である。紹介される参考文献も単なる羅列ではなく重み付けがなされている。

 知的好奇心の高い循環器内科専門医,そして専門医をめざす者にも薦めたい一冊である。今後も,このような本物志向の書籍が出版され続けることを切望する。

B5・頁232 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01931-6


精神科臨床エキスパート
てんかん診療スキルアップ

野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集
吉野 相英 編

《評 者》兼本 浩祐(愛知医大教授・精神科学)

精神科におけるてんかんのルネッサンスを思わせる本

 一読して精神科におけるてんかんのルネッサンスを思わせる本だという感想を抱いた。わが国では少なくともつい十年前,世紀の変わり目の前までは精神科医が成人てんかんの診療の主体を担っていて,1990年代半ばにリューダース(Hans Lüders)を招いて行われた神経内科の学会でのシンポジウムでは,200-300人規模の会場にわずか十数人の聴衆しか集まらず,しかもその聴衆のほとんどが精神科経験者であったことが隔世の感をもって思い起こされる。今や精神科医でてんかんを専門とする医師の数は減少の一途にあり,最近は講演会に呼ばれるたびに自嘲の意味も込めて絶滅危惧種と前ふりをしてから話すことも多かった。

 しかし,てんかんで精神症状を併発する人は3割に上るともいわれ,今や国際抗てんかん連盟の執行部会議でもいかにして精神科医をてんかん診療に参加させるかということが話題に上るほどである。ある意味でわが国は,てんかんの精神科的側面の診療に関しては先進国であったのであり,本書のレベルの高さを見てもそれは十分納得できる。

 本書の著者には,精神科でのてんかん診療の火を守り続けてきた「てんかんの精神症状と行動」研究会のメンバーも目立つが,精神科におけるわが国でのてんかん研究を世界に向けて発信している著名な研究者とともに,てんかんにおける精神科的側面というマイノリティとなった分野に新たに果敢に参入してきた若手の精神科医も目に付く。

 今や精神科は,comorbidityという言葉を錦の御旗として,診断の保留が大手を振って通用する特異な診療科となっている側面がある。可能であれば,一つの統一的な原因から現在の病態像を説明することをわれわれは研修医のときに教えられるが,例えば一つの病態には社会的な水準と心理的水準,脳的水準などさまざまな水準があって,できるだけ多くの水準にまたがって記載すればするほど記載はより完璧に近づく,といった考えは,現在精神科における大きな潮流であろう。確かにそれはそれで大事なことではある。だが,だからといって原因の追究へのこだわりを今,ここでの診断にかかわることではなくて百年後の課題と割り切ってしまってよいのかどうか。てんかんという病態にかかわることは,こうした「あれもこれも大事」ではなく,てんかんかそうではないのかの二者択一を迫るという意味で,精神科医の襟を正すところはあろう。

 最後に,本書を通読して印象に残った言葉として,「脳波判読は度胸」という文言を挙げておきたい。この言葉は,大事なことをまずは大づかみにつかんで,とりあえず今ここで使用可能な治療資源を利用して治療に役立てるという精神科医ならではの姿勢をよく表している象徴的な言葉だと思われるからである。廃れゆく伝統芸能を見守る係をひそかに自認していたが,意外にも素晴らしい若手のこの分野への参入が昨今目立っており,本書はまさにそれを象徴する一冊であると言えるのではないか。

B5・頁248 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01958-3


周術期管理ナビゲーション

野村 実 編

《評 者》溝部 俊樹(京府医大大学院講師・麻酔科学)

周術期医療にかかわる全ての職種に実用的なガイドブック

 安全で質の高い周術期医療を提供するためには,多職種の連携によって,既往歴,内服歴や現在の治療内容などの患者情報を多層的に収集し,その情報を麻酔科医,主治医,執刀医に効果的に集約する必要がある。

 このたび発刊された『周術期管理ナビゲーション』では,周術期管理チームの一員として働くスタッフにとって,必要不可欠な知識が,網羅的にしかも実用的に,日々の臨床での疑問点を一目で解決してくれるよう記載されている。その内容は基礎からアップデートな知識まで,わかりやすい図表とともに提供されており,どこから読み始めても理解できるように編集者の配慮が行き届いている。

 日本麻酔科学会では,これまで日本手術看護学会,日本病院薬剤師会,日本臨床工学技士会と検討を重ね,「周術期管理チーム」を提唱してきた。折しも2014年度より,日本麻酔科学会は,まず日本手術看護学会と共同で,「周術期管理チーム看護師」の認定を開始することになった(申請資格などの詳細については,両学会のHP参照)。本年11月には第1回の認定試験が実施されることから,本書の出版はまさしくタイムリーで,受験される看護師にとっては必須の参考書となるであろう。日本麻酔科学会が誇る第一級の執筆陣によって選択された項目を効率よく勉強することで,最小時間で最大効果を上げられることを保証する。

 なお,本書を手に取るべきは,看護師だけにとどまらない。本書は,周術期医療にかかわる全ての職種,麻酔科医,臨床工学技士,薬剤師,歯科衛生士などを対象として書かれたガイドブックであり,周術期ケアを理解したい研修医にとっても格好の入門書である。急性期病院の第一線で診療しながら,若いスタッフへの教育に熱心な執筆陣によって書かれた本書は,まさしく周術期管理学テキストの嚆矢となるであろう。

B5・頁284 定価:本体3,900円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01550-9

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