医学界新聞

インタビュー

2014.06.30

【interview】

今,求められているのは“名人芸”ではなく,
誰もが当たり前にできる,基本的な面接技術

宮岡 等氏(北里大学医学部精神科学主任教授 )に聞く


 精神科の面接というと,これまでは“その道の達人がコツを語る”ような取り上げられ方か,あるいは専門的な精神療法にスポットが当たることが多かった。しかしこのほど,『こころを診る技術――精神科面接と初診時対応の基本』を上梓した宮岡等氏は,自身の教育・臨床経験から,“名人芸”でもなく,高度な専門技法でもない「当たり前の面接」をまずは学ぶべきと語る。精神科における当たり前の面接とはどのようなものか,初診ではどんなことを心掛けるべきか,宮岡氏に聞いた。


“当たり前”の面接から学ぶべき

――「面接」をテーマにしようと思われたのはどうしてですか。

宮岡 精神科において,最近ことに面接がおろそかにされていると感じるのです。大学でも面接を教えられる指導者が減っていて,薬物療法の教育がメインになっている。実はそのことが,昨今問題化している精神科の多剤大量処方の背景にもあるのではないか,と考えています。

――面接への関心自体が薄らいでいるということでしょうか。

宮岡 いえ,面接がうまくなりたいと思っている若い医師は少なくありません。でも彼らは,指導者がいないからと修練を諦めるか,精神分析や認知行動療法など,専門性の高い面接技法にいきなり飛びついてしまうか,の両極端なのです。

――それがなぜ,問題なのでしょう。

宮岡 確かに私も若いころは,そうした精神療法が,外科の手術のようにスパッと治せる方法に思え,憧れたことがありました。ところが実際には,そうした治療では意外によくならない。そればかりか,精神面の深い所まで治療しようとして,かえって精神症状が悪化することも少なくないのです。

――安易な導入には,リスクが伴うと。

宮岡 ええ。なぜか「やらないよりはやったほうがよい」と思われがちな精神療法ですが,“副作用”もあるし,適応を誤って悪化させてしまうこともあり得るのです。

 一方,精神科医として年数を重ねるなかで,通常の外来でそれほど長く時間をかけずに面接し,丁寧に生活指導や環境調整をする。その上で必要に応じて薬も使うという,一見平凡で,リスクの低いやり方でよくなる患者さんを多く見てきました。そういう経験から基本的な面接の大切さに気付き,精神科医はまずそうした“当たり前”の面接技術から学ぶべきだ,と思い至ったわけです。

「傾聴」と「共感」がポイント

――基本的な面接を学ぶ,というと,医学部には「医療面接」のカリキュラムがありますね。

宮岡 ええ,医療面接の方法論は,精神科の面接においても基礎になるものだと思います。入室時のあいさつから始まり,最低限すべきことがマニュアル化されており,習熟度の評価まで行える。その方向性は精神科の教育にはなかったもので,衝撃的でした。

 ただ,医療面接は原則,患者さんから情報を引き出して診断を付けることが目的ですが,精神科における面接は,診断するために患者さんの話を聴くこと自体が,治療の一部になるという点で,大きな違いがあります。

――では,精神科における基本的な面接で,特に大切なのは何でしょうか。

宮岡 ポイントは「傾聴」と「共感」だと思います。傾聴は「治療を求めてきたあなたに応えられるように,関心を持って聴いていますよ」という姿勢が伝わるようにすること。共感というのは「もし自分が患者さんの立場だったらどう感じるか」を想像して,言葉にして伝えるということです。そして,自身の行った言動がどうとらえられているか,患者さんの立場で想像し,自分の会話の仕方や態度を修正しながら,面接を進めていくべきです。

――一見,シンプルで常識的な内容に感じます。

宮岡 しかし,こうしたシンプルなことすら身についていないままに,専門性の高い技法に走る医師も多いのです。

 また,常識とは逆説的なこともあって,例えば「ネガティブな面への共感」はよいけれど「ポジティブな面への共感」は慎重に考えるべきでしょう。よくあるのは,ゆううつ感が強くて受診された患者さんが「最近孫が生まれたんです」と話してくれた場合,「うれしいこともあるじゃないですか」のような共感をしてしまうパターン。普段の会話では問題がなくても,これが「結局つらさをわかってくれていない」「ひとごとだと思っている」と受け止められ,よい患者-医師関係が作れないことがあるため,注意が必要です。

――患者さんの立場を慮りながら面接を進めるとなると,ある程度,診察に時間もかかりそうです。

宮岡 初診には,ある程度時間をかける必要はあると思います。むしろ初診で診断を付けられる,もしくは可能性の高い診断の順番を想定できるよう,しっかり診るべきでしょう。

――逆に言うと,診断までに時間がかかりすぎるのはよくないと。

宮岡 診断があいまいなままに面接や精神療法を続けていては,その治療的効果もわかりにくいですし,適応を誤る可能性も高まる。それに,診断が付くことで患者さんも安心できるというメリットもあります。結果的に時間がかかることはあるでしょうが,初めから「鑑別が難しいから,面接を何度も重ねて診断する」という考え方をするのは,面接が下手なことの言い訳のように思うことすらあります。

患者を最優先しつつ家族にも目を配ることが必要

――初診時には家族と来院する患者さんも多いと思いますが,話をどのように聞くべきか,ポイントはありますか。

宮岡 錯乱状態など,よほど混乱しているのでなければ,患者さんの話から聞きます。家族が一緒に診察室に入ってきたら「家族がいるとしゃべりにくいという人が多いから,まずは外で待っていてもらおうと思うけれど,どうしましょうか」と本人に尋ねます。

 家族の同席を了承した場合でも,本人の表情や話題によっては「ちょっと出ていてもらいましょうか?」と途中で提案することもあります。家族には「患者さんに了解を得たことを後で話します」とあらかじめ伝えます。

――あくまで患者さんが最優先だと。

宮岡 「この医師は家族を優先するんだ」と患者さんが受け取ると,その後の治療関係作りによい影響はないですから。特に思春期の患者さんでは,親との関係はデリケートなものです。最初に親にどう対応したかで,その後の経過が8割方決まる,と言っても過言ではないかもしれません。

 ただ,家族も困り果てている場合が多いですから,かたくなに「患者さん抜きで話はしない」という姿勢をとることはしません。後の診断や治療に悪影響を与えないよう,患者さんも家族も妥協できるラインをその都度探ります。

――家族の様子にも目を配ることが,大切になりそうですね。

宮岡 その視点は不可欠ですね。家族の問題が今たまたま患者さんに現れているだけで,患者さんの症状が軽快しても,今度は父親や母親が,その問題を背負うかのように状態が悪くなる,ということはよく経験します。

 ですから私は,初診時から「家族全体を治療するつもりです」と言うこともあります。「あなただけの問題じゃない。家族内の荷物を今,たまたまあなたが背負っているだけかもしれない」とお話しすると,それだけで症状が和らぐ患者さんもいます。

時代が変われば,面接も変わる

――基本的な面接のスキルを磨くためには,どんな方法が効果的でしょうか。

宮岡 個人情報の問題がクリアできるなら,一番よいのは,いわば“透明化”,つまり自分の面接を公開して,人に見てもらうことではないでしょうか。専門家のスーパービジョンではなく,後輩でも看護師さんでもかまわないので,見てもらって率直な印象をフィードバックしてもらうことです。

 実際,当教室のケースカンファレンスでは「初診時面接」という設定で,教室員の前で私自身が患者さんの面接を行い,意見や提案を共有するようにしています。教授自らの面接を評価の対象にすることで,遠慮なく批評しあえる雰囲気が作れればと思いますし,それにより,私を含め,皆の面接スキルの底上げが図れるのではないか,と考えています。

――風通しをよくしていきたいと。

宮岡 そうですね。患者と医師の関係も,「お医者様-患者」というかつてのパターナリスティックなものから,対等な関係を経て,今や,やや患者優位に変化しつつあります。また,精神科にも以前より精神症状が軽い方の受診が増え,自分がどんな治療を受けたいかを医師と相談して決めていきたい,そう考える患者さんも多くなりました。

 “患者が主体”で,透明性の高い診断・治療が求められる。そうした時代の変化に呼応して,精神科面接も,その道の達人でしか語れない“名人芸”のようなものから,公開や評価という視点を取り入れた,誰もが当たり前にできるものへと変わるべきだし,変えていかなければならないのではないでしょうか。

(了)


宮岡等氏
1981年慶大医学部卒。同大大学院博士課程を経て,88年より東京都済生会中央病院。92年昭和大医学部講師,96年同大助教授,99年より現職。2006年より北里大東病院副院長を兼務。近著に『大人の発達障害ってそういうことだったのか』,『こころを診る技術――精神科面接と初診時対応の基本』(いずれも医学書院),『うつ病医療の危機』(日本評論社)など。本年の第110回日本精神神経学会学術総会で会長を務める。

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