医学界新聞

寄稿

2014.04.28

【視点】

「がん制度ドック」で治療と生活の両立を支援

賢見 卓也(NPO法人 がんと暮らしを考える会 理事長)


 近年,がんの治療の場は,「入院治療」から「外来治療」へと重心が移ってきている。また,多くの分子標的薬や治療方法が開発されたことにより,治療期間は延長し,がんは「慢性疾患」化したと言える状況である。こうした中でがん患者は,日常生活とがん治療を両立するという,新たな課題と向き合う結果となった。

専門家がかかわれる,「お金」と「制度」に注目

 2007年から私が従事する在宅ホスピスの現場では,年間200人近くのがん患者が自宅で最期を迎えている。そこで,苦痛はがんそのものに由来するものだけではなく,経済的な問題,仕事の問題,家族関係の問題等,多くの「社会的苦痛」を伴うものであると明らかになってきた。

 こうしたものは医師・看護師・MSWだけで解決に導くことは難しいとしても,特に制度や資産の問題などは,それらの専門家によって解決の糸口が見いだせる可能性があるものも十分にあった。そこで11年3月より,親交のあった弁護士・社会保険労務士を中心にファイナンシャルプランナー・民間保険関係者・税理士を加え,がん患者が直面している「お金」と「制度」の問題を検討する研究会の発足・活動を行い,さらに13年にがんの社会的苦痛(特に経済的苦痛)を緩和するための支援体制作りを目的にNPO法人がんと暮らしを考える会を設立した。

患者自ら調べられるツールの開発

写真 がん制度ドックの検索画面
 まず,私たちの研究会で行ったのは,がん患者の「困りごと」(初期の治療費,休養中の収入低下,就労不能状態,家族への備えの不安など)と「備え」(がん保険診断一時金・入院給付金・通院給付金,傷病手当金,障害基礎年金・障害厚生年金,生命保険・遺族年金など)をヒモ付けする作業だ。そして,その結果を,がんの経過に合わせ,関連図式化を図った。

 しかし,実際の制度は,疾患や症状,しかるべき入院・罹患期間などの細かい条件を満たす必要があり,関連図を基にがん患者一人ひとりに合った制度を届けることは容易ではなかった。そこで,目的を(1)自分で調べられる,(2)医療従事者の負担にならない,(3)制度申請のきっかけとなる,の3点に絞った上で,webサイト「がん制度ドック」写真)を構築するに至った。

 このwebサイトの活用により,生命保険や税金などの知識を持ち合わせない患者・医療従事者も,がんの種類や症状,加入している公的保険・生命保険,住宅ローンといった制度を含めて網羅的に調べることが可能である。がん患者が活用できる制度の申請漏れを防止することができ,簡単に経済的苦痛を解決する手段となり得るのだ。実際に,全国のがん診療連携拠点病院にリーフレットを配布しており,医療従事者からも大変好評を得ている。

 今後はwebサイトで解決できない個別案件を解決することをめざし,各地のがん診療連携拠点病院で「がんとお金・制度に関する相談会」を実践していきたい。すでに,13年10月からはNPO法人に所属する社会保険労務士・ファイナンシャルプランナーが2人1組で相談員となって,関東・関西の大学病院で毎月1回の相談会を行っており,手探りながらも好評を得ている。こうした相談員の育成や支援業務も含め,時間をかけながら妥当なかかわり方を模索し,広義の意味での緩和ケアの一翼を担う方策を検討したい。


賢見 卓也
1999年兵庫県立看護大看護学部(現 兵庫県立大看護学部)卒。東女医大病院を経て,2007年訪問看護パリアンにて在宅ホスピスに従事。06年日大大学院グローバルビジネス研究科で「がん患者と生命保険の有効利用」をテーマに研究し,08年MBA取得。現在も在宅ホスピス勤務を続ける傍ら,NPO法人がんと暮らしを考える会を設立し,同会の理事長を務める。「NPO法人がんと暮らしを考える会の定期会はどなたでも参加可能です。詳細はhttp://www.gankura.org/をご参照ください」。

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