医学界新聞

2014.03.31

Medical Library 書評・新刊案内


胸部X線写真ベスト・テクニック
肺を立体でみる

齋田 幸久 著

《評 者》芦澤 和人(長崎大大学院教授・臨床腫瘍学/長崎大病院がん診療センター長)

「肺を立体でみる」習慣が身に付く教科書

 齋田幸久先生のご執筆による単行書『胸部X線写真ベスト・テクニック――肺を立体でみる』が刊行された。わが国には,胸部X線写真に関する数多くの教科書が存在するが,本書は他書とは異なる視点で執筆されている。すなわち,本書のサブタイトルにあるように,胸部X線写真の読影において「肺を立体的に捉える」ことに焦点が置かれている。巻頭の「本書の目指すところ」に記載されているが,「1枚の胸部X線写真で奥行きが見えること,あるいは,それが実感できること」が到達目標である。

 その目標を達成するために,CTの横断像のみならず3D画像やMPR画像が適切に配置されており,読者が胸部X線写真上,「肺を立体でみる」ことを助けている。

 さらに,極めて明快なシェーマも適宜挿入されており,単純X線所見の成り立ちが理解しやすい。胸部X線写真はアナログからデジタルに移行してきたが,使用されている全ての胸部X線写真は,極めて画質がよく,かつ大きく提示されている。また解説の文字を極力少なくしてあるため読みやすい。私は本書を1日で通読してしまった。著者の豊富な知識と経験に基づいた完成度の高い専門書である。

 本書はI-VII章で構成されているが,基礎編(I-III章)と実践編(IV-VII章)に大別することができる。基礎編では,正常画像解剖と肺内・肺外病変の捉え方について豊富なシェーマを交えてわかりやすく解説されている。後半の実践編は4つの章からなり,各章に10例の厳選された症例が並んでいる。Q&Aの演習形式になっているので,ぜひ1枚(一部側面像も提示)の胸部X線写真で肺を立体的に捉えることにトライしていただきたい。もし,解答で使用されている3D画像やMPR画像がイメージできるようになれば,著者の意図する到達目標に達したといえよう。

 近年の画像診断機器の進歩は目覚ましく,64列以上のMDCTが多くの施設で標準となってきた。胸部領域の画像診断においてもMDCTは不可欠な検査法となったが,安価で簡便な胸部X線撮影が第1選択の検査法であり,その重要性は何ら変わっていない。胸部X線写真の読影能力を高めるためには,CT所見を胸部X線写真にフィードバックする作業が重要である。この作業を繰り返すことで,単純X線所見の成り立ちの理解が進み,さらには「肺を立体でみる」習慣が自ずと身に付いてくる。前述したように,CT画像が多く提示された本書は,まさにその作業のお手本となる教科書である。胸部X線写真の読影にあたる若手の放射線科医はもとより,呼吸器疾患の診療に携わる内科医,外科医,総合診療医などが必読されることを期待する。

B5・頁152 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01768-8


《標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野》
内科学
第3版

奈良 勲,鎌倉 矩子 シリーズ監修
前田 眞治,上月 正博,飯山 準一 執筆

《評 者》岡島 康友(杏林大教授・リハビリテーション医学)

臨床医学の基本をリハの臨床に即してまとめた教科書

 第48回理学療法士,作業療法士国家試験の合格者数はおのおの,1万115人,4084人であった。10年前にはともに3000人程度であったので,おのおの3倍,1.5倍に増えたわけである。少子高齢化社会の到来と介護保険の導入,あるいは療法士の職域自体の拡大の影響もあって,当初予想されていた療法士需要は大きく上方修正されたと聞く。当然のことながら養成校も急激に増えたが,単に数が増えただけでなく専門学校から短大・大学へと教育の場も拡大した。そのため文科省も療法士教育に介入し始め,従来の認識である医療職としての療法士像自体が変わりつつあるようにも思われる。また,多様化する療法士像を反映して,教育の方法や成果をあらためて議論するようにもなっている。一方,厚労省でも規制緩和の流れの中,いわゆる指定規則を大綱化したこともあって,療法士教育の自由度を増すことに拍車をかけている。すなわち厚労省も,その切り口である医療と介護の間で揺れていて,あらためて理学療法士・作業療法士に何を求めるかが議論されることとなった。

 このように価値観が多様化・浮動化するなかで,あらためて本書を見ると療法士の基本は何かということに立ち返る思いがする。よく臨床医学の基本は内科学にあるといわれるが,本書は単なる内科学の概説書ではなく,リハビリテーションに携わる者に共通して求められる臨床医学の基本事項を要領よくまとめている。多色刷りで絵を多用している点には好感が持て,努めてわかりやすく書こうとされた痕跡がうかがえる。現執筆者3名は内科学に精通されたのちにリハビリテーション専門医になられた方々で,その意味では医療の現場で療法士に何が求められているかを的確に判断することができる立場にいらしたといえる。もちろん,臨床医学には整形外科学,神経内科学などほかにも重要な領域があるが,やはり内科学が臨床医学の基本ということに異論はないであろう。それを網羅したのが本書である。

 本書の利用であるが,療法士養成校に限らず,学生においては臨床医学の講義参考書,あるいは国家試験勉強の際に知識を確認する本として,また既に医療・介護の現場で活躍されている療法士の方々にとっては受け持ちの患者さんに関連して知識を再生・補充するための本として,そして療法士養成校で臨床医学の講義を担当される先生方にとっては教えるべき事項をupdateする本として,広く活用されることを望みたい。

B5・頁408 定価:本体6,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01707-7


プロメテウス解剖学アトラス
頭頸部/神経解剖
第2版

坂井 建雄,河田 光博 監訳

《評 者》千田 隆夫(岐阜大大学院教授・解剖学)

高い支持率を維持する理由は……

 昨今次々と出版されている解剖学アトラスには,百花繚乱の感がある。学生諸君には幸福なことであるが,決して安価とはいえない解剖学アトラスの選択に際して,どれか一冊となると随分迷うのではなかろうか。その中にあって,初版刊行以来,高い支持率を維持しているのが"プロメテウス"シリーズである。本書は,全3巻組の『プロメテウス解剖学アトラス』の第3巻に当たるものであり,初版刊行後わずか5年足らずで改訂第2版が出版された。

 初版との相違点を挙げてみよう。第3巻のサブタイトルは初版では「頭部/神経解剖」であったが,第2版では「頭頸部/神経解剖」となった。頭部と頸部が隣接・接続していて,多くの骨,筋,臓器(消化器,呼吸器),血管,神経が頭部と頸部を続けて貫通している事実を考えれば,頭頸部としてまとめることは理にかなっている。これによって第2版には,頭頸部を一緒に描いた新しい図や,臨床的な解説が数多く追加された。次に,第2版の最後に「中枢神経系:要約,回路図,まとめの表」が加わった。この新しいセクションには細密画は全くなく,もっぱら模式図,フローチャート,表によって,複雑な事項を要約・整理し,理解を助けることを目的としている。原著者による第2版の序文には,「試験に出題される重要な項目をまとめの形で記す」「試験のための集中的な復習にも役立つ」とあり,洋の東西を問わず,試験に追いまくられる医療系学生の現実のニーズに答えた新機軸であることがよくわかる。これらの増補改訂によって,総ページ数は初版より120ページほど増えたが,定価が初版と同じに設定されていることは,うれしい驚きである。

 プロメテウスの支持者に聞くと,一様に「絵が精密で美しい」との評価が返ってくる。プロメテウスの図は美しいだけでなく,技法も革新的だ。第2版の表紙を見て驚いた。頭蓋骨に直接,動脈・静脈がまとわりつく図がある。こんな状態に解剖することは不可能なので,これが合成画であることはわかる。しかし,その頭蓋骨の絵は写実的な肉筆画である。博物画家の小村一也氏(NPO法人nature works理事長)によれば,プロメテウスの図版は,「筆致がまったく見受けられないほど細密な肉筆画を基本として,そこに別に描いた血管,神経,筋をレイヤーとして重ねるコンピューター・グラフィックス(CG)技法によると推察できる」そうだ。CG技法によってバリエーションとなる図版を自在に作り出せるため,挿入される解説図が非常に豊富になるわけだ。

 単なるアトラスでもなく,記述中心の教科書でもない統合型の解剖学書としての"プロメテウス第2版"を,読者の利便性をさらに高めた発展型として,衷心よりお薦めしたい。

A4変型・頁552 定価:本体11,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01441-0


内科レジデントマニュアル
第8版

聖路加国際病院内科レジデント 編

《評 者》徳田 安春(筑波大病院水戸地域医療教育センター教授/水戸協同病院総合診療科)

適切な自己判断をするために有用なマニュアル

 1984年初版の医学書マニュアルのトップセラーである『内科レジデントマニュアル』が4年ぶりに改訂された。コンテンツは最新の医学知識を反映しており,わが国では標準的な診断・治療の具体的手順が記載されている。基本方針,定義,重症度基準,疫学,鑑別に加え,病歴,診察,検査のポイントがわかりやすく記載されており,具体的な処方例もあるので,多忙な研修医にとっては参考にしやすくありがたい存在だ。

 よい研修病院の教育環境基準のなかには,有用な院内マニュアルの存在が必須とされている。このマニュアルでは,専門医紹介のタイミング,入院の適応,診療のピットフォール,リスクマネジメントのポイントでは,実践的なルールが明文化されており,この病院の院内診療内容が標準化されていることが明らかとなっている。もちろんこの内容は他の病院の診療にも役立つものである。研修医が当直や救急診療の最中に適切な自己判断をすることが可能となる有用なマニュアルである。冒頭の診断・治療のフローチャートは緊急時の対応に役に立つチェックリストとして活用できる。メモ欄には知っておくと役に立つ重要事項がコンパクトにまとめられているのがうれしい。

 類書と比較してみよう。伝統的な人気書の『Washington Manual』(米国セントルイス市のバーンズ病院の内科マニュアル)は日本語版も出ており,わが国でもかなり普及していたが,ボリューム増大でマニュアルとしてはサイズの巨大化が弱点となっている。一方,『Pocket Medicine』(米国ボストン市のマサチューセッツ総合病院の内科マニュアル)は,略語を多用した簡潔記載のため読みやすく,コンパクトなサイズを売りとしており,『Washington Manual』に代わって米国では爆発的な人気を誇っている。日本語版も出ており,日米の医学生と研修医のバイブルとなっている。

 それでは,『内科レジデントマニュアル 第8版』は『Pocket Medicine』と比較してどうだろうか。このマニュアルの大ファンとしてあえて苦言を呈する。日本の病院で行われる日本的なマネジメントを重視し妥協した結果,治療内容などで国際標準とは微妙に異なる部分が散見される。例えば,心不全におけるh-ANP(注意欄にわが国独自の薬剤であり,欧米のガイドラインに記載はないとは書かれているが),脳梗塞におけるエダラボン(商品名ラジカット)など,エビデンスが確立していない治療内容を入れてしまっている。参考文献もオリジナル論文やメタ分析,国際的ガイドラインを引用してほしい。また研修医の教育上,推奨治療薬も商品名ではなく一般名としてほしい。ジェネリックが普及しており,商品名に医学的な価値はなくなっていく。わが国を代表するマニュアルとして,今後もっとエビデンス重視となり,国際的にも通用する内容に改訂されることになると信じている。わが国の研修病院のリーダー的病院が出しているマニュアルでありその責任と波及効果は大きい。

B6変・頁520 2013年 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01862-3


ねじ子の ぐっとくる脳と神経のみかた

森皆 ねじ子 著

《評 者》網本 和(首都大学東京教授・理学療法学)

「臨床のコツ」がちりばめられた一冊

「ぐっとくる」
 素晴らしいとか美しいとか直截に言われるより,ぐっとくると言われた方が,なぜだがうれしくなります。ぐっとくるというコトバの類義語には,感動する,シビレる,ハマる,などがあるようです。例えば小田和正のクリスマスコンサートで,あの吉田拓郎の歌う「落陽」を聴いたときにぐっとくる,というのが適切な例といえる(評者のようなオジサンには特に)のではないでしょうか?

「やせ気味のパンダ」
 前置きはこのくらいにして,医師でありマンガ家でもある森皆ねじ子先生による『ねじ子の ぐっとくる脳と神経のみかた』のどこがぐっとくるかについてみていきましょう。

 本書の特徴は何といっても,ほぼ全編にわたってマンガというかイラストレーションで描かれていることです。少しやせ気味のパンダ君が,本来なら壮大な脳と神経の診察法(いわゆる神経学)を実にさらりとわかりやすく巡ってみせてくれます。考えてもみてください。この書評を読んでいるあなたが,医療従事者や関係学生なら,脳神経が12本もあってその機能の複雑さ,検査法の微妙さに期末試験前はもちろん資格をとって臨床に出てからも大いに悩まされてきたことは十分に考えられます。それが,軽妙なタッチのパンダ君が次々と診察をこなしてゆくのをみると,自分でもできるはずだと確信することになります(ひょっとすると過信かも?)。「脳神経のみかた」に続いて,「体の神経のみかた」「筋肉のみかた(MMT)」「体の感覚」「腱反射」「死亡確認」と進んでいきます。

「けだるげ」とは?
 評者は理学療法士なので特に「筋肉のみかた(MMT)」には大いに期待し,また楽しませていただきました。徒手筋力検査法(MMT)では,周知のように0,1,2,3,4,5の6段階で評価するのですが,大事なのは「5と3だけ」であると喝破されてしまいました。このくらい大胆に言われるとかえって気持ちが良いものです。

 「腱反射」の項では,打鍵槌(ハンマー)の持ち方のポイントとして,「けだるげ」が大切であること,目的の筋肉の力を抜くこと,そのためのポジショニングが肝心であることが示されます。「けだるげ」ってどんな様子なの? という声が聞こえてきそうですが,文章でその微妙なイラストを説明することは難しいのです。ぜひ,本書を実際に手に取って確かめてください。

「臨床のコツ」
 こうして紹介してみると,簡単だけど内容が薄いように思えるかもしれませんが,基本的事項は実に真面目に書かれています。コラム「嘘ではないのよ,ウソでは」ではヒステリーについて記されています。内容はミュンヒハウゼン症候群にも及び,本格的な医学記事となっていて,その結びには適切な対処法として「極めてやさしく同情的に,共感的に接する」ことが提案されます。

 本書は言ってみれば,脳と神経をみていくときの「臨床のコツ」がちりばめられた秘密の箱のようなものです。ねじ子先生によれば「まずポイントをおさえて,目の前にいる患者さんの脳と神経の状態を"ざっと"観察できるようになりましょう」ということです。この「ざっと」というところがぐっときますねえ。読者のみなさんは,どんなところにぐっとくるでしょうか? ぜひぜひご一読を!

A5・頁136 定価:本体1,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01772-5

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