医学界新聞

2013.12.23

患者と医療者の双方を守る安全管理を

第8回医療の質・安全学会開催


 第8回医療の質・安全学会が11月23-24日,清水利夫会長(国立国際医療研究センター病院)のもと,東京ビッグサイトTFTホール(東京都江東区)で開催された。今回の主題は「チームで良くする医療の質,質を支える安全学――現場と社会の協動促進」。本紙では,患者だけでなく医療者を守ることにもつながる質・安全管理に関するセッションのもようを報告する。


対話に基づいた納得のいく治療選択の実現を

清水利夫会長
 特別講演「インフォームドコンセント――医療者と患者のより良い関係を目指して」では,東大病院長時代に初めて「患者サービス」という言葉を掲げて病院改革を行った森岡恭彦氏(日赤医療センター名誉院長/東大名誉教授)が,患者本位の医療を実現するために必要な対話の在り方について語った。

 はじめに氏は,インフォームド・コンセント(以下,IC)が求められるようになった経緯を振り返り,患者の権利意識の高まりや治療における選択肢の増加が,医師の善意に基づいて治療を主導する「善行モデル」から,患者の自己決定権を尊重する「自律モデル」への移行を促したと説明。米国の事例等を参考に日本におけるICの在り方が模索されるなか,医療訴訟では医療者の説明義務の範囲が議論され,医師の説明力や患者の理解力などに依拠せざるを得ないなど,ICの問題点も浮上したという。氏は,ICが求められる背景には患者-医師間のコミュニケーション不足があると指摘。患者が納得のいく治療選択を行うために,医師は,(1)エビデンスの提示,(2)患者をとりまく社会や患者個人の価値観の確認,(3)患者が利用可能な資源,の3点の説明を重視すべきとし,対話に基づく医療の実現を求めた。

安全管理部門と協働した院内感染対策

 シンポジウム「医療安全と感染管理」(座長=三重大病院・兼児敏浩氏,新潟大病院・鳥谷部真一氏)では,院内感染における医療安全対策について,医師,看護師,介護福祉士などさまざまな立場から意見が示された。

 最初に登壇した大曲貴夫氏(国立国際医療研究センター病院)は,感染対策部門の立場から,医療安全管理部門に求める感染対応の在り方を提案した。氏はまず,感染症のアウトブレイクが社会的問題になる一方で,院内感染の個別事例はあまり表に出てこない点を指摘。院内感染事例も,他の事例と同様に,問題点を振り返って意識化させる必要があるとし,医療安全の観点から行うM&Mカンファレンスのなかで院内感染事例を取り上げ,問題意識の共有を図ってほしいと訴えた。また,感染対策は非感染患者に不利益を与えることがあり提供する医療の質を下げ得ることを報告した研究を紹介し,常に院内全体を見渡せる存在としての医療安全管理部門は不可欠とした。

 介護福祉士の加藤佳代子氏(介護老人保健施設ハートケア左近山)は,自施設内で起きたノロウィルスの集団発生事例を報告。利用者の完全隔離が不可能,かつ職員による1対1の見守りも多い介護施設特有の環境が,感染症の発生要因になったと振り返り,手洗いの徹底など各職員の意識向上をめざすことが重要と考察した。また,介護福祉士は常に患者ケアにかかわる国家資格にもかかわらず,各教育機関における教育課程の違いが大きいため,感染・安全対策の基礎的な知識に差が生じていると指摘。教育体制の整備とともに,有事の際には感染・安全対策の専門チームを組織し,現場職員の負担軽減や具体的対策の検討を図ることが大切と述べた。

 自施設におけるVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)アウトブレイクの発生経験から,現場職員へのフォローも重要と主張したのは,感染管理認定看護師の柴原美也子氏(藤沢市民病院)。感染陽性患者の増加に対して,感染対策チームはアウトブレイク対策に奔走していたが,他の医療者の問題意識は希薄で,特に感染対策の重要性を理解していなかった看護師は,感染対策に不安や負担を感じて業務に対するモチベーションが低下。院内全体のリスクマネジメントを担う安全管理者が,各看護管理者に職員管理の徹底を呼び掛ける事態となった。氏は,感染管理も医療安全管理も,患者と医療従事者の安全を守るための活動と心得て,感染アウトブレイク時には協働し,患者はもちろん医療従事者へのフォローも並行して行うべきと主張した。

 患者側弁護を数多く担当してきた弁護士の横山貴之氏(増田・横山法律事務所)は,院内感染事例が「医療過誤」かどうかは大きな問題ではないと主張。医療の質向上をめざすのであれば,「当該の出来事を調査の対象とするか否か」「次の教訓に活かす姿勢を持てるか否か」が重要と訴えた。また,非医療職の視点を事故調査に導入することを提案し,「安全で質の高い医療」という共通目標のもとに医療界と法曹界の積極的な意見交換が行われることに期待を寄せた。

 相馬孝博氏(榊原記念病院)は,WHO患者安全カリキュラムガイド多職種版を紹介。クリニカル・ガバナンスの視点から,安全(感染)対策は組織が横断的に管理すべきものとした上で,医療安全教育だけでなく国際標準を知る手掛かりとして同ガイドを活用してほしいと述べた。なお同ガイドの日本語版は,東京医科大学医学教育講座のホームページより無料で閲覧・ダウンロードができる。

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