医学界新聞

2013.11.25

地域中核病院での総合診療医養成を議論


 人口構成の変化による大都市圏の超高齢化や医師の地域偏在,多疾病高齢者の増加など,数十年後の日本が抱えると予想される医療問題は非常に幅広い。これらの問題に対し,単一の疾患に特化せず幅広く総合的に患者を診療できる医師の育成が急務とされている。11月2-3日,大宮ソニックシティ(さいたま市)にて開催された第55回全日本病院学会(学会長=上尾中央総合病院・中村康彦氏)では,日本プライマリ・ケア連合学会との連携シンポジウム「地域に密着した病院での総合診療医の養成」(座長=全日病会長/恵和会・西澤寛俊氏,日本プライマリ・ケア連合学会理事長/丸山病院・丸山泉氏)が行われた。

◆新しい専門医制度に伴って高まる総合診療のニーズに,応え得る医師養成を

座長の丸山氏と西澤氏
 はじめに厚労省の國光文乃氏が,同省の「専門医の在り方に関する検討会」において議論されてきた総合診療専門医について解説した。同検討会では,第三者機関によって専門医を評価・認定する新制度を検討しており,新制度では総合的な診療能力を有する総合診療医が基本領域の専門医の一つとして位置付けられる予定だ。総合診療専門医養成には,大学病院等の基幹病院と地域の中小病院,診療所をひとまとまりとする病院群を構成し,地域の実情に配慮した公的支援を整える方針が示された。

 日本プライマリ・ケア連合学会の立場から登壇した草場鉄周氏(北海道家庭医療学センター)は,同学会の「家庭医療専門医制度」について紹介。専門医制度改革に合わせて,同学会は2014年度より新たな後期研修プログラムを運用するという。外来医療,病棟医療,在宅医療,地域・コミュニティ志向型ケア,教育・研究の5分野で規定される家庭医療専門医の能力は,これからの日本の医療の質向上に不可欠とし,積極的な専門医養成を呼びかけた。

 前野哲博氏(筑波大)は,新制度によって専門医取得・更新の難易度が上がれば,診療領域の専門化はさらに深まり,疾患を幅広く診る医師がこれまで以上に少なくなる可能性を懸念した。特に地域中核病院では,外来患者の増加や高齢化に伴い,総合的な診療ができる医師のニーズは高まると予想され,今後は総合診療医を自施設で養成できるかどうかが,地域中核病院の存続にかかわると強調した。一方,総合診療医は診療範囲の広さから「能力的にできる」ことは多いが, 1人の医師が「労力的にできる」ことには限界があり,多くの現場ではこの能力と労力のギャップがきちんと認識されていないという。氏は,総合診療医を養成するためには,総合診療科に負担が集中し過ぎないよう内科や救急部など各科との全面協力が絶対条件と訴えた。

 飯塚病院における総合診療科立ち上げの経緯を語った井村洋氏は,当時も今も総合診療医が不足している原因の一つとして,「専門領域を持たないのは良くない」という医療界の風潮が研修医のやる気を損ねていると指摘。また,総合診療に対する周囲の理解・認識不足も大きな課題だという。氏は,立ち上げにおける最大のポイントは総合診療科のめざすところを院長や会長と共有できたことと振り返り,他科が抱える問題を共に解決するWin-Winの関係を築くことが大切との見解を示した。

 神野正博氏(恵寿総合病院/全日病副会長)は,地域中核医療施設の管理者の立場から登壇。高齢化が進むこれからの日本社会には治す医療だけではなく,癒し支える医療も必要とし,総合診療専門医には,(1)診療科別専門医の補完,(2)病院のゲートキーパー,(3)医学教育の専門家,(4)多職種連携のコーディネーター,(5)寄り添う医療の実践者,という5つの役割を期待すると述べた。

 最後に座長の西澤氏と丸山氏が,診療所,地域中核病院,基幹病院が連携した地域医療の実現には各施設に総合診療のできる医師が必要だとし,地域での養成を求めた。

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