医学界新聞

2013.07.29

第14回日本言語聴覚学会開催


 第14回日本言語聴覚学会が,6月28-29日,さっぽろ芸術文化の館(札幌市)にて小橋透会長(北海道言語聴覚士会)のもと,「言語聴覚療法の可能性」をメインテーマに開催された。本紙では,言語聴覚士(以下,ST)の業務の多くを占め,社会の高齢化の進展に伴い,今後もいっそうニーズが増加するとみられる摂食・嚥下障害のケアに焦点を当てたシンポジウム「摂食嚥下(障害)のトピック」(座長=国際医療福祉大・柴本勇氏)のもようを紹介する。


言語聴覚士の専門性を活かした摂食・嚥下障害のケア

小橋透会長
 まず,病期・病態に応じた摂食・嚥下のリハビリテーションを提唱する歯科医師の野原幹司氏(阪大)が,原因疾患別に嚥下障害へのアプローチを解説した。例えば脳卒中の回復期では,“キュア”の視点で訓練を行えば右肩上がりの回復を見込めるが,維持期では,訓練による回復を期待するより,低下していく機能を支援する“ケア”の視点が必要となる。同様の視点は,患者の3-4割が嚥下障害をかかえる認知症や,神経変性疾患,老化による嚥下障害でも重要だという。神経変性疾患の一つ,パーキンソン病については,食後の低血圧,不顕性誤嚥,味覚・嗅覚の低下など,摂食・嚥下にかかわる疾患特異的な症候を提示。L-ドパ製剤服薬後に急激な軽快と増悪を繰り返す“on-off現象”にも触れ,軽快時に積極的な訓練を行う一方,増悪時の程度を観察し,把握するといった工夫が重要と話した。

 続いてSTの苅安誠氏(鹿児島徳洲会病院)が,自験例から得られた嚥下障害の“推奨プラクティス”を紹介した。氏は嚥下機能評価時の造影・内視鏡検査の重要性や,機能を阻害する薬剤や環境要因の把握の必要性に触れ,頸部の可動域制限がある場合は,胸部CTにて頸椎症や骨棘の有無を確認すべきとした。また,全身状態の改善が嚥下能力も改善させること,口腔顔面・咽頭麻痺において集中的な発声・発語練習が基礎能力を高めることを提示。食道や胃内容物の逆流による誤嚥性肺炎についても注意喚起した。さらに,経管・経腸栄養を長期に行っていても,口から食べられる可能性があれば再評価を試みるべきと主張した。

 管理栄養士の飯野登志子氏(さくまの里)は,同施設で従前使用されていたゼラチンゼリーは飲み込みに時間がかかり,むせの原因になっていたと推測。加熱・冷却不要の「ミキサーゲル」を用いることで,経口摂取が“お楽しみ程度”だった胃ろう装着者も,昼食をゼリー食として摂取できるまでになったと話した。また,施設独自の嚥下評価表の作成や,食事時の声掛け,全職員による口腔ケアなどにより,経口摂取への思いが強い施設利用者や家族のためにおいしく食べてもらう工夫をしていると紹介。特別養護老人ホームには常駐する嚥下ケア関連職が少なく,嚥下食のノウハウを確立しにくいため,栄養士を中心としたより密な職種連携が求められると結論した。

 総合討論では,STに求めることとして「嚥下の視点から投薬内容をチェックする」「造影や内視鏡検査を積極的に行い,見逃しを防ぐ」「発声・発語と嚥下機能との関連を意識する」などが挙げられた。また,会場から質問のあった,認知症患者の食思不振へのアプローチとしては「一時的な経管栄養」「においの強いもの,昔からの好物を提供する」といった提案がされた。さらに,在宅医療の現場で嚥下障害を診断し,治療の方向性を示せる医師を養成する必要性にも話が及び,盛会のうちにシンポジウムは閉幕した。

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